軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ヒロインを助けると決意しました。

「ヒイッ!? お、お助けください!」

サロモン王の指示を受け、後ろで護衛をしていた騎士団長が給仕の首根っこをつかんで、強引に指定された部位へ口を押しつけようとする。

給仕は、悲壮な顔で必死に助けを求めた。

もちろん……王太子であるジャンに向けて。

だけど。

「騎士団長、何をしている。早くこの茶番を終わらせろ」

「そ、そんな……嫌だ! 嫌だああああああああああッッッ!」

無情にも、ジャンは給仕を切り捨てる。

騎士団長が周囲の様子を見てから無言で頷き、毒入りの料理を無理やり食べさせると……給仕はもがき苦しみ、あっけなく死んでしまった。

「ぬううううッッッ! これは何としたことか! ハロルド殿下の侍女が気づかねば、余を含めここにいる者が命を落とすところであったぞ!」

顔を真っ赤にしたサロモン王が勢いよく立ち上がり、大声で叫ぶ。

その矛先を、今回のホストを務めるジャンへ向けて。

「ジャンよ! この責任、どのように取るつもりだ!」

「はっ……今回は私の不徳の致すところ。何者の仕業によるものか、早急に調査いたします」

「それが責任になるか! もしハロルド殿下が毒殺されたとなれば、デハウバルズとの戦は避けられん! そんなことも分からんとは……情けない!」

「…………………………」

怒りのあまり、サロモン王は手元にあったグラスを投げつけると、見事に命中し、ジャンの額が切れて血がしたたり落ちた。

表情こそ神妙にしているものの、ジャンの瞳には、怒りと憎悪が見受けられる。本当に感情を隠すのがヘタクソだな。

「もうよい! お前は部屋で謹慎しておれ! 余が許可をするまで、部屋から出ることまかりならん!」

「…………………………はっ」

しばらくの沈黙の後、ジャンは頷き、退席した。

「まったく……ハロルド殿下、すまなかったな」

「いえ。こちらこそ、せっかくの晩餐会を台無しにするような真似をしてしまい、申し訳ありませんでした」

「何を言う。そこの侍女が気づかねば、余が死んでおったかもしれんのだ。改めて、礼を言わせてもらおう」

そう言うと、サロモン王が頭を下げた。

列強国の一つであるカペティエンの王が、一介の王子に対してこのような態度を示すのは異例ではあるけれど、僕はとりあえず素直に受けることにする。

「では、ハロルド殿下は引き続き楽しんでくれ。無論、このようなことがないように細心の注意を払わせるゆえ」

「ありがとうございます」

サロモン王は席を立つと、騎士団長とともに庭園を去って行った。

「そ、その……」

「犯人も捕まったことですし、サロモン陛下からも楽しむようにと仰せつかっています。ですので、引き続きリゼット殿下のお話をお聞かせください」

「っ! も、もちろんよ!」

こんなことになってどうしていいか分からず、リゼットは遠慮がちに上目遣いでこちらを 窺(うかが) っていたので、僕は努めて笑顔を浮かべておどけてみせる。

悪女の顔はどこへやら。リゼットは、パアア、と満面の笑みを浮かべ、僕達に一生懸命話をしてくれた。

その姿は悪女とは程遠く、まさしく『エンゲージ・ハザード』のメインヒロインだったよ。

「……ハル様。色々とお伺いしたいことがありますが、まずは一点だけ。騎士団長が給仕に無理やり料理を食べさせようとした時、どうしてお止めになられなかったのですか?」

晩餐会を終えて部屋に戻って来るなり、サンドラは開口一番、そんなことを問いかけてきた。

おそらく、サンドラはこう言いたいのだろう。『給仕を生かして、毒殺を指示した首謀者を吐かせたほうがよかったのではないか』、と。

もし僕が首謀者を知らなければそうしただろうけど、全てはジャンが仕組んだことだと知っているから、何もしなかったということもある。

でも。

「君は、騎士団長についてどう思いますか?」

「騎士団長……ですか?」

「ええ。サロモン王の指示とはいえ、あの騎士団長は有無を言わさず給仕に毒を食べさせ、殺害しました。たった今サンドラが話してくれた、疑問を何一つ持たずに」

「あ……」

そう……王宮の治安と王の安全を最優先にする騎士団長という立場であれば、今夜のことは首謀者がいることくらい理解しているはずだし、その首謀者を捕らえるために給仕から吐かせることを選択するはず。

なのに騎士団長は、迷う様子もなく給仕を殺したんだ。

「なるほど……つまりハル様は、あの騎士団長も犯人と繋がっていると考えたのですね」

「ええ。なら、僕が給仕を生かすように動いたところで、それよりも前に片づけていたでしょう」

実際、騎士団長は給仕を殺害する前、周囲を見回して邪魔が入らないかを確認していた。

つまり、そういうことだろう。

「いずれにせよ。僕達が面倒事に巻き込まれたことは間違いありません。これは早々に、王国に帰るのが得策でしょうね」

そう言うと、僕は苦笑して肩を 竦(すく) めた。

今頃は、オルソン大臣がカペティアン側の者達と、今回の滞在期間の短縮について協議していることだろう。

だけど……って。

「ふふ……それでハル様は、オルソン大臣の反対を押し切って、こちらに留まるおつもりなのですよね?」

僕がそう告げる前に、先にサンドラに言い当てられてしまった。

「ど、どうしてそれを?」

「誰よりも優しいあなた様が、リゼット殿下を置いたまま、そのようなことをなさるとは思えませんでしたから」

ああもう、全部お見通しじゃないか。

そうだよ。『エンハザ』のリゼットシナリオが始まってしまった以上、このまま捨て置くわけにもいかないんだ。

一応、『エンハザ』は恋愛スマホRPGで、シナリオが始まってしまえば一方通行に進むだけではあるものの、実はリゼットのシナリオを放っておいた場合に、他のヒロインのシナリオで変化があった。

それは、カペティエン王国の国王がジャンになっていて、しかもリゼットが永遠に登場しないというもの。

つまり……クーデターが成功し、リゼットはよくて幽閉、最悪その命を奪われてしまった可能性だってあるんだ。

ヒロイン達とは距離を置いて関わらないって決めてはいるけど、だからといって関わってしまった彼女を、このまま見捨てることなんてできないよ。

「その……申し訳……っ!?」

「謝罪は不要です。それよりも私は、そのようなハル様の婚約者であることがとても誇らしく、とても幸せです」

「サンドラ……ありがとうございます」

僕に口を人差し指で塞ぎ、サンドラは頬を染めてニコリ、と微笑む。

そんな彼女の優しさが嬉しくて、僕はその小さな手を握りしめた。

感謝と愛情を、ありったけ込めて。