作品タイトル不明
まがい物の神を抹消しました。
「喰らえ、【 排除する者(エリミネーター) 】」
僕はテミスに向けて手をかざし、対AIとして用意されていたもう一つのスキル、【 排除する者(エリミネーター) 】を行使した。
先程の【 支配する者(ドミネーター) 】が『神に創られし者を従わせる』ためのものなら、この【 排除する者(エリミネーター) 】は『神に創られし者を奪う』もの。
能力や生命だけじゃなく、その存在すらも。
ただし【 支配する者(ドミネーター) 】を含め、スキルの行使には膨大なSPを消費する。
それこそ九九九もある僕のSPが、ごっそりとなくなってしまうほどに。この世界に転生してきて、初めてSP消費による 眩暈(めまい) を覚えたよ。
「ア……ア……消エル……消エル……」
「オマエのようなポンコツAI、存在しないほうがこの世界のためだ」
少なくともここでチャットAI機能はいらないし、今さらモブキャラを追加で用意する必要もない。
『エンハザ』の世界の構築そのものはAIではなく別の基幹プログラムが担っているのだろうから、本当に無用の長物だ。
「セ……メ、テ……セメテ、キサマダksmuey7r03ya0ka037y4j59d7ajqo3bru」
「何を言ってるか分からないよ」
これがAIの断末魔というものなのだろうか。
最後は言葉ではなく耳障りな機械音だけを叫び続け、そして。
――この世界から、抹消された。
「ハル様!」
「わっ!?」
この瞬間、真っ先に飛び込んできたのは愛しの妻、サンドラだ。
今だからこそこうして抱きしめ合えるけど、少しでもここにたどり着くのが遅れたら……いや、テミスが先にサンドラ達を抹消していたら、二度とこの温もりを感じることができなかったんだ。
本当に……本当に、よかった。
「やはりあなた様は誰よりも素晴らしい御方です! そんなあなた様の妻であることが、誇らしくて仕方ありません!」
「違うよサンドラ。もし君が僕のことをそう思ってくれるのなら、それは君がいたからだ」
確かに僕は前世の記憶を取り戻し、バッドエンドを回避するためにも最推しヒロインだったサンドラとの婚約破棄を阻止した。
でも、僕がこんなに強くなれたのは君がいてくれたからで、君がいたからこそ強くなろうと思えたんだ。
だから。
「僕はいつも君が 傍(そば) にいてくれたから、君が好きになってくれた僕でいられるんだ。サンドラ……大好きだよ」
「私も……私も、ハル様が大好きです! 愛しています!」
「むぐっ!?」
うわあ……みんなが見ている前で、思いきりキスされてしまったよ。ちょっと恥ずかしい。
「コホン。ハロルド殿下、お嬢様、時と場所を弁えてください」
「「あう……」」
咳払いをするモニカにジト目で睨まれ、僕達は名残惜しくも唇を離した。
帰ったら、時と場所を弁えた上でもう一度キスすることにしよう。
「本当だよ……それ、私に対する当てつけ?」
などとユリがぷりぷりと怒っているが、男に当てつける意味が分からん。
まあ、サンドラは超絶可愛いので、 羨(うらや) ましいのかもしれないけど。
「ハア…… 神(・) を倒したっていうのに、緊張感の欠片もないわね」
「うふふ、 あれ(・・) は神などではありませんよ。ハル様も、明確に否定されておられましたし」
「うむ。あのような 輩(やから) が、 神(・) であってたまるか」
肩を 竦(すく) めるリゼの言葉を、クリスティアが訂正する。
カルラも同意見のようで、腕組みをしてうんうん、と頷いていた。
「だけど、これでハルさんのクーデターは成功したってことでいいんですよね?」
「あ! そうだぜ兄貴! エイバル王もくたばっちまったわけだし、これで兄貴が次の王になることを邪魔する奴はいねえって!」
「いやいや、ならないから」
オーウェンの奴には、いい加減理解してほしい。
僕はこの国の王なんて興味がないんだよ……って。
「「…………………………」」
カーディスとラファエルが、無言で僕を見つめていた。
あれは、最大限警戒している目だ。
「だけどさあ……ハルは 神(・) ……じゃないんだっけ。とにかく、俺達を含めてその一言で有無を言わせず 跪(ひざまず) かせたのは事実だ。お前の能力なら、この世界を支配することも簡単なんじゃねーの?」
「「「「「っ!?」」」」」
呑気に放ったロイドの一言によって、この場にいる者が戦慄した。
あー……確かにそうなるよね。
「あはは、心配いらないよ」
僕は『属性変換装置』の予備を取り出すと、さっきと同じようにスイッチを押す。
ただし、今度は光ではなく闇に包まれたけど。
「……これで僕は、元の闇属性に戻ったよ。【 支配する者(ドミネーター) 】も【 排除する者(エリミネーター) 】も、使うことはできない」
そう言うと、僕はみんなに向かってニコリ、と微笑んだ。
でもみんなは、あれほど強力なスキルをこんなにもあっさりと手放したことに、驚きを隠せない様子だった。
「そ、その……よろしいのですか?」
「もちろん。あれはテミス限定の能力だし、それに光属性のままだったら、大切な相棒と一緒に戦えなくなるじゃないか」
「! そ、そうだよね! ボクとハルは、ずっと一緒だもんね!」
僕の言葉に、キャスが嬉しそうに肩の上で飛び跳ねた。うむうむ、可愛いぞ。
「そういうことだから、早く帰ろう。きっと宰相やオルソン大臣、それにドレイク卿も心配して僕達を待っているはず……っ!?」
――ずぐり。
突然、焼けるような痛みが襲う。
見ると――『戦斧スカイドライブ』が、僕の胸を 抉(えぐ) っていた。