軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

噛ませ犬の本当の役割を理解しました。

「レイドボス『魔導人形ライラ』ノ敵対行動ヲ確認。『エンゲージ・ハザード』維持ノタメ、管理者権限ニヨリ 消去(デリート) ヲ実施シマス」

「っ!? ライラ、逃げ……っ!?」

僕がそう告げようとして、手を伸ばす。

だけど。

――ライラの胴体は、テミスの手から放たれた一撃で 消滅(・・) した。

「ライラアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!」

僕はライラのもとへ、急いで駆け寄る。

そこには、彼女の頭部だけが地面に転がっていた。

「ライラ! ライラ!」

「も……うしわけ、ありません……不覚、を……取り……ました……」

その言葉を最後に、ライラは沈黙した。

「貴様あああああああああああああああああッッッ!」

「……………………………」

叫ぶ僕を、テミスはただ無言で見つめる。

その碧眼には、感情は一切ない。……いや、こんな奴にそんなものがあってたまるか。

「何が『管理者権限』だ! そんなものが『エンゲージ・ハザード』のキャラを消していい理由になるか!」

「……………………………」

そう指摘するも、やはりテミスは答えようとしない。

ああ、そうだ。これは明らかな 越権行為(・・・・) だ。

『エンハザ』の制作スタッフがテミスに与えた権限は、精々モブキャラの生成とチャットに対する受け答え、あとはユーザーによる不正対策程度のはず。

だからモブキャラならともかく、ネームドキャラであるライラを抹消するなんてことをしてはいけない。それこそ『エンハザ』の秩序を壊すことになる。

すると。

「問題アリマセン。私ノ管理者権限ニヨリ、レイドボス『魔導人形ライラ』ヲ生成イタシマス」

「っ!?」

テミスが手をかざし、そこに一つのキャラクターが生み出された。

ライラとそっくりな、一体の魔導人形が。

「彼女ナラ、シナリオドオリニ主人公ノ手ニヨッテ破壊サレルデショウ。コレデ秩序ガ守ラレマス」

「馬鹿な……っ」

ネームドキャラを抹消してテミスは全く同じキャラを生み出したつもりなのだろうけど、僕から言わせれば全く違う。

僕達は制作スタッフの手によって生み出されたキャラであり、決してAIが作ったモブキャラじゃないんだ。

何より……コイツは、制作スタッフの意向に逆らったことになる。

「ハ、ハル、どうしよう……」

弱々しい声で、キャスが尋ねた。

あんなものを目の当たりにして、冷静でいられるはずがない。

それは、他のみんなも。

だけど僕は、逆にこれ以上ないくらい冷静だ。

これらのテミスの暴挙を見て、どうして僕に……ハロルド=ウェル=デハウバルズに、使うこともできないスキルが与えられていたのか。

どうして僕のSPが、無限にあるのか。

――その理由が、これではっきりと分かったから。

このことはユリとのやり取りや魔塔で発見したアイテムを見て、おおよそのことは予測していた。

その仮説がこの土壇場で間違いなかったことが証明され僕は何とも言えない気分になりつつも、制作スタッフの予見性には舌を巻いてしまうよ。

「……なあ、テミス。オマエはオリキャラであるライラをあんな目に遭わせ、自分の手でスペアを作ったけど……それってただモブキャラを増やしただけだろ」

「? 理解不能」

「だってそうだろ? オマエに与えられている権限は、あくまでもモブキャラを生成することに過ぎない。いくらオリキャラを模したところで、それはただのモブでしかないんだよ」

僕はテミスによって生み出された ライラの(・・・・) ようなもの(・・・・・) を指差し、そう告げた。

オリキャラを生み出せるのは制作スタッフだけであり、テミスにそんな資格はないのだから。

「私ハ管理者デアリ、『エンゲージ・ハザード』ノ秩序ヲ守ルコトガ最優先サレマス。ヨッテ秩序維持ノタメノメインキャラクターノ生成ハ、権限ノ範囲内……」

「それこそ 詭弁(きべん) だろ。オマエは『エンハザ』のAIとして、やっちゃいけないことをしたんだ。それこそ、 抹消(・・) されてもおかしくないほどに」

「…………………………」

僕の言葉を受けても、テミスの様子に変化は見られない。

まあ、AIに過ぎないのだからそれも当然か。

だけどきっと、アイツの頭の中……というかプログラム内ではきっと、僕に指摘された矛盾点を解消するための 言い訳(・・・) を、必死になって演算処理していることだろうね。

「……全テノキャラクターヲ一カラ再構築シ、『エンゲージ・ハザード』ヲ再開スルコトデ問題ハ解決スル確率ハ九七.一パーセント……」

「いや、本当に分かってないな。オマエのやろうとしていることは、もう『エンハザ』なんかじゃない」

テミスの奴、とうとう全キャラを消してオールモブキャラで『エンハザ』をやり直すとか言い始めちゃったよ。

もうAIとしての権限を完全に逸脱し、制作スタッフが危惧していたとおりになってしまったな。

なら……僕は僕の 役割(・・) を果たす。

「これ、何か分かるか?」

僕はポケットに忍ばせてあった、ある魔道具を取り出した。

「……ソレハ、『属性変換装置』?」

「正解」

そう答えると、僕は口の端を吊り上げて魔道具のスイッチを押した。