軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

真の敵が姿を現しました。

「サンドラ!? モニカ!?」

「うう……っ」

両手足を拘束され、巨大な歯車に吊るされる二人の姿がそこにあった。

「馬鹿な!? 二人はこの世界でも最強クラスの実力者だぞ!?」

目の前の光景を認めることができなくて、僕は思わず声を荒げる。

そうだ。いくら“ナカノヒト”が『エンハザ』を司るAIだとしても、二人が易々と捕まってたまるか……っ。

「今……今助けるから!」

「あっ!」

僕は居ても経ってもいられず、サンドラとモニカが吊るされている歯車へと駆け出した。

一つ一つ刻みながら回転している歯車は遥か上のほうにあるけど、それなら壁をよじ登ってでも……って。

「ユリ!」

「私に任せて」

一瞬で歯車の上へと転移したユリが、二人を吊るしているロープに手をかける。

その時。

「え……?」

ユリは、まるで電池が切れてしまったかのように動かなくなってしまった。

「ナルホド……飼イ犬ニ手ヲ噛マレルトハ、コノコトヲ言ウノデスネ」

「「「「「っ!?」」」」」

背後から聞こえた女の声に、僕達は一斉に振り返る。

そこには。

「ヨウコソコノ『エンゲージ・ハザード』ノ最果テ、システムサーバー『奈落』ヘ」

白のローブに身を包んだ金髪碧眼の絶世の美女が、感情のない人形のように 佇(たたず) んでいた。

しかも頭上には、中心軸のずれた不揃いの歯車を数枚、まるで天使の輪のように浮かばせて。

「オマエが“ナカノヒト”、なのか……?」

「ソノトオリデスガ、正シクハ『CODE:テミス』ト申シマス」

なるほど、AIには愛称をつけられることが一般的だけど、コイツはテミスと名付けられたわけだ。

確かテミスって、前世にあった神話に登場する秩序の女神だったよね。皮肉もいいとこだよ。

「それで、サンドラとモニカがあの歯車に吊るされているのも、ユリがピクリとも動かなくなったのも、全てオマエの仕業ということでいいのか?」

「ハイ。管理者権限ニヨリ、起動停止イタシマシタ」

「ちょ、ちょっと、何を言っているのか分からないわ!?」

僕とテミスのやり取りを見守っていたリゼが、困惑した様子で割り込んできた。

前世の知識がある僕とは違い、他のみんなは訳が分からないだろうね。

「今は時間もないから簡単に説明すると、目の前のこの女……いや、ただの数式と文字の羅列に過ぎない存在こそが、世界の根幹というわけだ。つまり、世界が維持されているのは、コイツの手によるもの」

「それって……」

「だからユリは言っていたよ。“ナカノヒト”……テミスこそが、この世界の 神(・) だって」

僕から言わせれば、神でも何でもない。

AIだから学習能力なんかは持ち合わせているだろうけど、所詮は人の手によって生み出されたソフトウェアでしかないんだ。

「お、お待ちください! では、彼女こそが我々バルティアンが信奉する神だというのですか!?」

「いや、違うよ。クリスティアさん達の神と、このテミスは別人だ」

バルティアン聖王国が信奉している神は、ちゃんと制作スタッフによって明確に設定されている。

このテミスはただのAIプログラムだし、制作スタッフも意図していないから、間違いなく別物だよ。

「そうだよね、テミス」

「ソノトオリデス」

そう声をかけると、テミスは無表情で頷いた。

僕達が見ているこの女の姿も、きっとテミスというAIによって作り出されたものでしかないのだろう。

まあ、少なくとも僕がいた前世では、AIに感情なんてものはない。

『エンハザ』でもそんな最先端のAIが使われているという話もなかったし、もしそうだとしたら前世の世界できっと大騒ぎになっていたはずだ。

「話を戻すよ。どうして 僕の(・・) サンドラを……『大切なもの』を拘束した」

「キャラクター『アレクサンドラ』ハ管理者デアル私ニ攻撃シテキマシタ。ヨッテ私ガ生成シタMOBキャラクターニヨリ制圧。今ハ強制的ニ眠ラセテイマス」

「その『MOBキャラクター』っていうのは……?」

テミスが無言で指を差す。

その先には、同じく吊るされているモニカがいた。

「 僕の(・・) モニカを、『MOBキャラクター』なんてふざけた名前で呼ぶな!」

「? 理解不能。MOBキャラクターハMOBキャラクターデス。ソレ以上デモソレ以下デモアリマセン」

ああ、そうか。

ただのAIごときに、想いや愛情を持ち合わせているはずがないよね。

「ハア……もういいから早く二人を解放して、ユリも動けるようにしろよ」

「拒否シマス」

溜息を吐いて告げる僕の言葉を聞くつもりはないらしい。

テミスはAIらしく、無機質な声で明確に拒否した……って。

――ガガガガガガガガガッッッ!

その瞬間、ライラが火属性魔法による無数の弾丸をテミスに向けて放った。

「マスター、これ以上の話し合いは無駄です。排除いたしましょう」

「レイドボス『魔導人形ライラ』ノ敵対行動ヲ確認。『エンゲージ・ハザード』維持ノタメ、管理者権限ニヨリ 消去(デリート) ヲ実施シマス」

「っ!? ライラ、逃げ……っ!?」

僕がそう告げようとして、手を伸ばす。

だけど。

――ライラの胴体は、テミスの手から放たれた一撃で 消滅(・・) した。