作品タイトル不明
僕の大切な女性が捕らわれていました。
リリアナと合流できたことで、奈落の底での捜索が思いのほか進んだ。
何せ彼女ときたら、邪魔になる障害物を全てグーパンで破壊してくれるのだから。というか肉弾戦最強の主人公ヒロインってどうなんだろう?
まあ、そのおかげで。
「ハハハ、リリアナ嬢のおかげで、すぐに合流できたぞ」
「まったくだぜ! やっぱりリリアナ嬢は最高だ!」
「うんうん、それでこそ僕のリリアナ嬢だよ」
「「何っ!」」
ああもう、早速リリアナを巡って争いが勃発したよ。
これから“ナカノヒト”と戦うっていうのにさあ……緊張感ゼロ。
「まあまあ、変に気負っちゃうよりはいいんじゃないかな」
「そうかなあ……」
ユリは慰めてくれるが、僕は思いきり三人を白い目で見ているよ。
「ですが、これでまだ合流できていないのは、サンドラさんとモニカさんだけですね」
「サンドラだったら、ハルを見つけるためにそこら中で破壊行動をしていそうなんだけど……」
「それを言うならモニカ殿もだろう。しかも彼女は諜報員でもあるため、気配察知には敏感なはず。だというのにまだ見つかっていないということは……」
カルラの一言で、不安がよぎる。
お願いだから二人とも、無事でいてくれ……って。
「大丈夫よ……あの二人ならきっと無事。だからあなたは、もっとどんと構えてなさい」
「リゼ……」
僕の手を握りしめ、リゼはニコリ、と微笑んだ。
あ、あはは……まさか『エンハザ』の悪女である彼女に慰めてもらうとは、思いもよらなかったよ。
「……リゼさん、抜け駆けはよくないのでは?」
「そ、そうです!」
なぜかクリスティアとカルラに詰め寄られるリゼ。
だけど彼女はどこ吹く風で、僕の手を離そうとしなかった。
その時。
「あれは……?」
暗闇の奥に見える、微かな光。
ひょっとしたら、あそこが奈落の底の出口……いや、“ナカノヒト”のいる場所なのかもしれない。
「ユリ」
「分からない……アイツはいつも頭の中に語りかけてきただけで、実際に会ったこともないんだ……」
「そうか……」
ユリがそう言う以上、あの光の先が何なのか、だれも分からないってことだ。
かといって、このままここで指を咥えていても仕方がない。
「みんな、行こう。ひょっとしたらあの光を見たサンドラとモニカも、あそこに向かっているかもしれないし」
「ええ……」
僕達は暗闇の中を進み、光を目指す。
そして。
「これは……」
光が 零(こぼ) れている隙間は、人間が通ることはできそうにない。
また、隙間の向こうを 覗(のぞ) き込むものの、眩しくて直視できなかった。
「ハル君、どうする?」
「そうだな……」
この隙間なら、サンドラ達がここを抜けた可能性はゼロだろう。
ならここで、二人が来るのを待つか……?
その時。
「ぅ……ぅぅ……」
「っ!? 今の声!」
この僕が間違えるはずがない。
今のは……今のは、サンドラの 呻(うめ) き声だった。
「サンドラ! サンドラアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!」
「ハル様! 落ち着いて!」
隙間をこじ開けようとして愛する妻の名を必死に叫ぶ僕を、クリスティアが身体を張って制止する。
「止めるな! 向こうに……この向こうにサンドラがいるんだ!」
「ですがこのままでは、向こう側に行けません! それに、ひょっとしたら罠かも……」
「だったらなおさら助けにいかないと!」
この時の僕は、間違いなく冷静さを失っていた。
いつも僕の 傍(そば) にいてくれたサンドラとモニカが、ここにいないから。
どんな時だって僕を支えてくれた、二人がいないから……って!?
――パチン。
「あ……」
「お願いです。どうか冷静になってください。あなたが私達の要なのですから」
クリスティアに頬を叩かれ、僕はようやく落ち着きを取り戻す。
そうだ……僕は何をやっているんだ。
サンドラとモニカを救出するにしても、まずはこの隙間を広げるとか、やることがあるだろ……っ。
「クリスティアさん、ありがとう……」
「いえ。私こそ叩いてしまい、申し訳ありませんでした……」
「そんなことない。君のおかげで、僕は冷静になれたよ」
うつむく彼女の手を取り、僕はニコリ、と微笑んだ。
本当に、クリスティアには感謝しかない。
「もう! 早く離れなさい!」
「今はそのようなことをしている場合ではないのでは?」
口を尖らせて僕とクリスティアの間に割り込むリゼと、いつになく厳しい視線を向けるカルラ。た、確かにこんなことをしている場合じゃなかったね。
「えへへ、任せてくださいよ。【ブレイブハート】! 【ブレイブハート】! 【ブレイブハート】!」
リリアナが全能力バフ効果のある【ブレイブハート】の重ねがけを行う。何度も、何度も。
そして、隙間の前に立ったかと思うと。
「おりゃあああああああああああああッッッ!」
腕をグルグルと回し、隙間に向かって強烈なリバーブローをお見舞いした。
すると。
「おおー……」
隙間は、見事に人間が一人通れるだけの大きさになった。
これなら、先に進むことができる……けど、やっぱりリリアナとは絶対に喧嘩しない。その時は僕が死ぬ時だ。
ということで、僕達は隙間をくぐり抜ける……っ!?
「サンドラ!? モニカ!?」
「うう……っ」
両手足を拘束され、巨大な歯車に吊るされる二人の姿がそこにあった。