作品タイトル不明
ヒロイン達の戦い ※クリスティア=サレルノ視点
■クリスティア=サレルノ視点
「ジャアアアアアアアアアアアアッッッ!」
「フフ……苦しいでしょう? だったら早く生きるのをやめて、大人しくなさい」
リゼさんの黒い炎でできた大蛇により締め付けられる巨大な蛇の魔獣が、その巨体を揺らしてのたうち回っています。
以前教えていただきましたが、彼女は炎属性と闇属性の二つの属性を生まれつき持っているとのこと。なのでその炎は決して消えることはなく、いつまでも燃え続けるそうです。
そう……敵がその命を失うまで、ずっと。
彼女も以前はこの 呪われた(・・・・) 炎(・) に色々と思い悩んでいたそうですが、ハル様に出逢ったことでその実力が開花し、今では誇りにしているとのこと。
本当にあの御方は、誰にでも優しくなさるので困りものです。
「はあああああああああああああああああッッッ!」
「ギャウッ!?」
その隣では、巨大な黒い狼の脳天目がけて『滅竜剣アスカロン』を振り下ろすカルラの姿が。
彼女も聖王国では屈指の実力を誇る聖騎士ですが、使節団の護衛としてこの国来た時の、ハル様との手合わせを経て今では聖王国随一の剣の使い手となりました。
聖王国に戻ってすぐの時の、彼女の言葉を今でも覚えています。
『ハロルド殿下に相応しい者となるために、もっと精進せねば』
カルラの表情は、それはもう恋する乙女でしたよ。
彼女の剣を全て受け止め、全て受け入れられたのは、彼女にとって初めてでしたでしょうから。
これも全部、聖王国の男性方がカルラの強さに 慄(おのの) いで避け続けていたからですけど。
「ヒヒ……ヒヒヒ……」
「……うるさいですね。この死霊風情が」
思案していたところを邪魔されたため、私としたことが口汚く 罵(ののし) ってしまいました。
今でこそ私も聖女と呼ばれておりますが、元々は貧しい農民の娘。時折このような口調になってしまうことに、どうか目を 瞑(つぶ) っていただけますと幸いです。
そう……ただの農民の娘が、世界最大の宗教であるバルティアン聖王国の中枢に据えられてしまったのです。当然、私を聖女と認めない者、私を利用しようと企んでいる者、私を 貶(おとし) めようとする者、有象無象が寄ってたかってきました。
教皇 猊下(げいか) がいらっしゃらなければ、きっと私はよからぬ者達によって利用され、いずれ破滅の道を歩んでいたことでしょう。
そんな私のために教皇 猊下(げいか) は、バルティアンの中枢で生き抜くための知恵を授けてくださいました。
そのおかげで、私は逆にそのような者達を手玉に取り、今では聖王国の全員が私を畏怖しております。
……ハル様は、このような私の本性を知ったうえで、『大切なもの』として受け入れてくださいました。
ええ、ええ、これでハル様をお慕いしない女性など、いるはずがありません。
ですからたとえサンドラ様に殺気を込められた視線を送られても、引き下がれませんとも。
その代わり、何度かその……大切な場所がちょっと大変なことになりましたけど。
「さあ、地獄へ堕ちなさい。【キリエ・エレイソン】」
「ッ!? ヒヒヒエエエエエエエエエッ!?」
私の光魔法によって浄化され、『地獄聖女ハリファ』は断末魔の叫びを上げて消滅しました。
アンデッドの分際で『聖女』の肩書きがあるのはどうかと思いますが、サンドラ様への 鬱憤(うっぷん) を含めて普段の二割増しで頑張ってしまいました。目障りでしたので。
「【ブレイズブレイド】ッッッ!」
「ギャウ……ッ」
カルラの一撃が喉を貫き、漆黒の狼が沈黙します。
「さあ、これでお別れよ」
「ジャ……アア……ア……」
大蛇の魔獣は黒い炎に包まれ、やがてその巨体が燃え尽きてしまいました。
その様子を見て、リゼさんはクスリ、と 嗤(わら) います。
うふふ、彼女の微笑みは猛毒ですね。
ハル様に向けるもの以外は。
「さて……この後はどうしますか?」
「決まっているわ! ハル達の後を追いかけるのよ!」
「うむ! ハル殿の加勢に向かいましょう!」
二人とも気づいていないようですが、ハル様のことばかり口にしていますね。
そのことを指摘してもいいですが、それは野暮というものです。
サンドラさんの愛が重すぎるために、きっと私達は正妻になることは叶わないでしょうが、第二夫人の座であればまだ可能性があると踏んでいます。
何より、ハル様の『大切なもの』である私達には、サンドラさんも手出しできませんから。
卑怯? 腹黒い?
うふふ、最高の誉め言葉です。
ハル様の隣を手に入れることができるのなら、私は何でもいたしますよ?
それこそ、 神(・) を 屠(ほふ) ることもいとわないですから。
ハル様を追って王宮の中を突き進む中、私は口の端を持ち上げた。