作品タイトル不明
僕はクーデターを起こすことにしました。
オルソン大臣と面会したその日から、僕はすっかり予定の空いた夏休みをフル活用し、精力的に動いた。
宰相やオルソン大臣はもちろんのこと、ブラッドリー卿とも綿密に協議を重ね、王国の政治と軍事を掌握。全員が、僕の 考え(・・) を支持してくれることになった。
それだけじゃない。
シュヴァリエ公爵やセドリックにも協力してもらい、多くの有力貴族に働きかけた。
その結果。
「……ほんの一部の貴族を除き、ハロルド殿下を支持するとのことです」
王国貴族のリストを手に、モニカが報告してくれた。
そう……僕は決めたんだ。
『エンゲージ・ハザード』のハロルドのように、 クーデター(・・・・・) を起こす(・・・・) と。
「ありがとうモニカ。だけど、やっぱりみんな 鬱憤(うっぷん) が溜まっていたんだなあ……」
僕は窓の外を、遠い目で見つめる。
まさか王国の貴族に 檄文(げきぶん) を送ったら、全て『賛同する』との返事が来るなんて思わないよ。エイバル王、メッチャ嫌われてる。
なお、モニカが告げた『ほんの一部の貴族』というのは、浮気してカーディスと婚約破棄をした挙げ句、ウィルフレッドに加担したせいで降格の憂き目に遭ったマーシャル伯爵家。
それと、マリオンの実家であるシアラー伯爵家だ。
というか、こんなことを持ちかけたら速攻で裏切りそうなので、あえてその二つには 檄文(げきぶん) を送っていないだけなんだけどね。
その二つの家は、僕のせいで没落していると言っても過言じゃないし。
「ふふ……今さら後悔をしても遅いです。そもそもフレデリカの暴走を止められなかったこともありますし、シアラー家に至っては最初から没落しておりましたから。 新しい国(・・・・) でも、居場所はないでしょうね」
サンドラが僕を見つめ、クスクスと 嗤(わら) う。
いや、事実そうなんだよねえ。ひょっとしたら 新しい国(・・・・) になった途端、今の地位すら剥奪されるかも。
「ですが、全てハル様の思惑どおりに事が運びました。夏休みが終わってリズやクリスティア様達が戻られたら、全ての準備が整います」
「うん」
このことは、既にリゼやクリスティア達に手紙で知らせてある。
すると彼女達の国は、僕を支持してくれることをその時に表明してくれるそうだ。
エイバル王はほぼ全ての貴族から見放され、世界の国々からもその治世を否定されることになる。
「それに、これはハロルドが単独で決めたことではない」
「そうだね。僕達もハロルドに賛同し、一緒に今の王政を打倒すると決めたんだから」
「やっぱ兄貴はすげえ!」
そう……このクーデターには、カーディス、ラファエル、そして主人公であるオーウェンも加わっているんだ。
僕達のクーデターこそが正当であると、誰もが認めるだろう。
ただ一人、エイバル王を除いて……って。
「そんなに上手くいくかなあ……?」
みんなの姿が消え、現れたユリが腕組みをして首を 傾(かし) げる。
「上手くいくさ。これだけこちらの正当性を確保し、王国の内外からも賛同を得ている。それに、僕達はその血でもってクーデターを行おうとしているわけじゃないんだ。むしろ、これで失敗するほうがあり得ないよ」
そうだ。『エンハザ』でハロルドがクーデターに失敗したのは、考えなしに全て独断による武力制圧を試みたせいだ。
味方もおらず、正当性も一切なく、ただ主人公に対抗するためだけに。
それはシュヴァリエ公爵達の反乱も同様で、婚約破棄をされたから反乱を起こしたというのでは、正当性なんて何一つない。
主人公の活躍もさることながら、それでは勝利できないのは当然だ。
「だが、 今回の(・・・) 僕達は違う。ほぼ全ての人がエイバル王……いや、エイバル=ウェル=デハウバルズがこの国の王であることを認めていないんだ」
「それはまあ、そうなんだけどね……」
「何だよ、それでも 運命(・・) とか『シナリオ』って奴が、僕達のクーデターを失敗させるって言いたいのか?」
「さあね」
ユリは肩を 竦(すく) め、後ろを向いてしまった。
ああ、分かってるよ。
なんだかんだ言って、君は 優しい奴(・・・・) だからね。
「大丈夫……なんてことは言えない。だけど、僕は誓ってやるよ。この最低の『シナリオ』をぶち壊して、絶対に運命を変えてみせるって」
「君はそればかりだね。そんなの、いい加減無理だって分からないかなあ」
僕の言葉が気に入らなかったのか、ユリは勢いよく振り返り、険しい表情で吐き捨てるように告げる。
その瞳には、怒り、悲しみ、悔しさ、口惜しさ、そして…… 諦念(ていねん) と、ほんの僅かの希望を込めて。
なら何度だって言ってやる。
君が、僕の言葉を信じてくれるまで、ずっと。
君が、もう諦めなくてもいいんだって思えるまで、ずっと。
でも、それは今じゃない。
その時(・・・) が来たら、はっきり言ってやるよ。それこそ、もう逃げられなくなるくらいに。
だから。
「どうせユリのことだから その時(・・・) が来たら顔を出すんだろ? というか、絶対に僕の前に来るんだぞ」
「……分かったよ。 その時(・・・) は絶望に苦しむ君の顔、私がしっかりと見届けてあげるから」
そう言うとユリは僕の前から消え、サンドラ達が先程と変わらずに会話をしたりしていた。
「ああ、待ってろ」
「ハル様?」
不思議そうに僕の顔を 覗(のぞ) き込むサンドラ。
僕は天井を見つめ、不敵に笑みを浮かべた。