軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

人形は心を取り戻しました。

「……敵戦力を分析。無効化まで、三十二分五十七秒を要します」

「言ってくれるね!」

いいよ、君が導き出した僕を倒すまでの時間……その間、付き合ってやろうじゃないか。

ただし。

「遅い」

「…………………………ッ!?」

それまでに、僕の『大切なもの』によって君が倒されなければね。

「……意外と堅いですね。私のダガーナイフが、僅かではありますが刃こぼれしました」

背後に回っていたモニカがライラの首をナイフでかき斬ったけど、残念ながら破壊するには至らず、僅かに傷をつける程度に留まった。

やはりこの魔導人形、希少金属で外殻が構成されているだけあって、堅牢さが尋常じゃない。

「フフ……なら、こういうのはどうかしら? 【獄炎】」

「…………………………」

リゼの炎によって、ライラの身体が黒い炎に包まれる。

だけど、感情が存在しない人形だけあって、全く意に介していなかった。

「だったらこれで! それえええええええええッッッ!」

全能力バフ効果のある【ブレイブハート】を何重にもかけて強化したリリアナが、全力の腹パンをライラに叩き込む。

さすがの一撃に、ライラは吹き飛んで壁にめり込んだ。リリアナとは絶対に喧嘩しないようにしよう。

だというのに。

「……敵戦力の無効化まで、一時間二十七分四十三秒に修正」

まるで何事もなかったかのように立ち上がり、冷静に分析する。

それでも、三人の攻撃を受けて戦闘時間が一時間弱も伸びているけどね。

しかも。

「それじゃ僕は倒せない」

「…………………………」

このとおり、僕はライラの攻撃を完璧に見切り、全て防いでみせた。

これだけ防御されてもなお、何のスキルも使用しないで僕と戦おうなんて、さすがに舐めているとしか思えないね……って!?

「【ブラストカノン】」

「ぐ……う……っ!?」

ゼロ距離から放たれた右腕の大砲に、防ぎこそしたものの三メートルも後ろに押されてしまった。

これ……『漆黒盾キャスパリーグ』で受け止めたからよかったものの、生身だったら間違いなく胴体に風穴が空いていたよね? メッチャヤバイ。

とはいえ、ありがたいことに魔導人形ライラは、一度目標に定めた相手だけを執拗に狙ってくる仕様のため、他のみんなに攻撃が向くことは絶対にない。

なので、僕さえ最後まで防ぎ切れば、ライラはきっと倒せるよ。

何より。

「ハル様! 【軍神の加護】です! これで押し負けることはありません!」

「おおおおおおおおおおおおおおおッッッ! 【ブレイズブレイド】ッッッ!」

クリスティアのバフによる援助に加え、間髪入れずにカルラが攻撃を仕掛ける。

そうとも。僕にはこんなにも、頼もしい『大切なもの』がいるんだ。絶対に負けるものか。

「……敵戦力の無効化まで、三時間〇七分十一秒に修正」

「オイオイ、どんどん時間が伸びてるじゃないか。ひょっとして、計算が苦手なのか?」

「……排除します」

おや? ライラが僅かに眉根を寄せたぞ。

そうだよね。『エンハザ』では アイテム(・・・・) 扱い(・・) のキャラだけど、本当はマクラーレンに 攫(さら) われ、魔導人形に改造されて全てを失った、ただの伯爵令嬢だったんだから。

『魔塔に潜む壊れた愛玩人形』のシナリオにおいても、そのラストでは主人公に破壊されて朽ちゆく中、君は『死にたくない』って呟くんだよね。

僕はあのシナリオ、本当に嫌いだったよ。

ただの道具として扱われ、主人公に壊されてしまうだけの結末しかないのだから。

「クリスティアさん」

「ハロルド様……?」

傍(そば) にいたクリスティアに耳打ちし、一つお願いごとをした。

彼女は 怪訝(けげん) な表情を浮かべたけど、僕が思いつくことができたのはこれしかない。

「ハア……分かりました」

「ありがとう」

僕はクリスティアにお礼を言うと、再びライラの攻撃を受け止め続ける。

その間にも、ライラはみんなの攻撃で少しずつ傷つき、徐々にその動きが鈍くなっていった。

なお、ライラとの戦闘において、サンドラは一切参加していない。

彼女が加わったら、それこそ 全てが(・・・) 終わって(・・・・) しまうから(・・・・・) 。

「……敵戦力の無効化まで、五時間二十一分……」

「それはもういいよ。そんなことより、僕の言葉の意味を理解できているんだろ?」

「…………………………」

「沈黙は肯定と受け取らせてもらうよ。なあ、これ以上続けても勝ち目がないことくらい、優秀な君なら理解しているはずだ。本当に君は、あの男に書き換えられた命令どおりにしか、動くことができないのかい?」

何度もライラの攻撃を受け止めては、僕は懲りずに語りかける。

彼女に自我があることを、僕は知っているから。

最低の運命を変えることができることを、僕は知っているから。

だから。

「排除……排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除」

「そうじゃないだろ! 君が言いたいことは、そんなくだらない命令なんかじゃない!」

僕は何度だって叫んでみせるよ。

君が、本当の君に戻るまで。

「排除、排除、排除…………………………いや」

「っ! ライラ!」

「いや……いや……いや、いや、いや、いや、イヤ、イヤ、イヤ、イヤ、嫌、嫌、嫌、嫌、いや……っ」

とうとう見せた、ライラの本当の言葉。

でも、悲しいかなその身体は、ただマクラーレンに植え付けられたプログラムによって『敵を排除せよ』と動き続ける。

だから。

「サンドラアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!」

「はい!」

「ッ!?」

僕の合図で、サンドラが『バルムンク』を振るう。

モニカ達が散々攻撃をしても傷を負わせるのが精一杯だった金属の手足が、いとも簡単に切り落とされ、そして。

――魔導人形ライラは、沈黙した。