軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

主人公からの気持ち悪い提案を丁重にお断りしました。

「ふふ……出来上がるのが楽しみです」

仕立て屋からの帰りの馬車の中、サンドラが思い出し笑いをしている。

どうやら、セルウェイ夫人がデザインしたドレスが、相当お気に召したみたいだ。残念ながら、僕は見せてもらえなかったけど。

サンドラ曰く、『当日のお楽しみです』とのこと。その代わり、僕の衣装についてもサンドラにお披露目するのは当日になったよ。

一応、僕は前世の時の服装をイメージして伝えたんだけど……セルウェイ夫人はメッチャ瞳を輝かせ、質問攻めに遭いましたとも。

とにかく、今から祝賀会が楽しみだよ。

「だけどさあ……ボクはお留守番だから、そういうことがあると退屈なんだよね。モニカが美味しい料理を持ってきてくれるから、いいんだけど……」

「いや、悪いな。だけど、さすがにキャスのことを知られるわけにはいかないからね」

膝の上で不満げに口を尖らせるキャスを撫で、僕は苦笑する。

本当は相棒も連れて、目一杯楽しみたいんだけど、ね。

「それよりもハロルド殿下、祝賀会は王国中の貴族が年に一度集まる大切な場。最近の殿下のご活躍などもございますので、よからぬ輩も近づいてくるかと」

「心配いらないよ。僕は王位継承争いなんて御免だし、いずれ臣籍降下してシュヴァリエ家の婿養子になるんだ。それに……そういう連中は、モニカが遠ざけてくれるんだよね?」

「お任せください。このモニカ=アシュトン、有象無象の輩など、全て退けてみせます」

「頼りにしているよ」

胸を張って意気込むモニカに、僕は期待と信頼の言葉をかける。

そうやって会話を楽しんでいる間に、馬車はシュヴァリエ家のタウンハウスに到着した。

「サンドラ、それではまた明日」

「はい。また明日」

サンドラと別れ、僕達は王宮へと帰路につく。

そして。

「ええー……」

王宮に到着して視界に飛び込んできたのは、玄関で談笑するウィルフレッドとラファエルだった。

あの二人のそんな姿、これまで一度も見たことがないんだけど。

「……いかがいたしますか?」

「ここで回れ右するっていうのも変だし、絡まれない限りは適当に無視してさっさと中に入ろう」

ということで、馬車が玄関に横づけされると、僕達はそそくさと下りる。

だけど。

「やあ、ハロルド。どこかへお出かけしていたのかい?」

「え、ええ……」

当然見逃してもらえるはずもなく、笑顔のラファエルに捕まってしまったよ。

「ふうん……それより、 あの件(・・・) は考えてくれた?」

ラファエルの言う『あの件』というのは、間違いなく僕を陣営に迎えることだろう。

あれ、何度も断っているっていうのに、しつこいなあ……。

「申し訳ありませんが、僕の答えは変わりません」

「そんなつれないことを言わなくてもいいじゃないか。それに、ウィルフレッドがせっかく、僕達にとって いい話(・・・) を持ってきてくれたんだから」

「いい話?」

何それ、嫌な予感しかしないんだけど。

「ハロルド兄上……俺達は母も違いますし、王位継承争いをしているのは事実です。ですが、兄弟同士でこれ以上いがみ合っていては、それこそお互いにとって……いや、この国にとってよくありません」

「それでね。ウィルフレッドは、今度の祝賀会で兄弟四人の間にわだかまりはないのだと、参加する貴族達にアピールしたらいいんじゃないかって、提案してきたんだ」

「いや、無理でしょ」

おっと、条件反射で答えてしまったよ。

だけどこの二人、どうして急にお花畑みたいなことを言い出したんだろう?

確かに『エンハザ』では、いずれ主人公はカーディスやラファエルと和解し、ハロルドを除く三人でヒロイン達を救ったりしていくけど、少なくとも今じゃないだろ。

しかも、最後まで敵対する噛ませ犬以下の僕を、どうして巻き込もうとするのかなあ。

「なぜですか? 確かにこれまで、俺とハロルド兄上の間にはわだかまりもありました。だけど、俺はこれまでの全てを、水に流してもいいと思っています。それで兄弟が結束し、この国がより良い方向に進むのであれば……」

「じゃあ聞くが、次の王には長兄であるカーディス兄上が就くということで、オマエは納得しているんだな? ラファエル兄上も、それでいいんですね?」

「「…………………………」」

ウィルフレッドの言葉を 遮(さえぎ) ってそう告げた瞬間、二人が押し黙る。

そもそも、第一王妃のマーガレットを許せないラファエルが、あの女の喜ぶことをするなんてことは絶対にするはずがないよね。

ウィルフレッドも何も言い返せないってことは、カーディスが王位を継承することに賛成していないってことだ。

つまり……この男もまた、王の座に就きたいという野心があるということ。

カーディスの右腕として派閥に加わって以降、聖王国の件や近衛師団のトップに就いたことで、欲が出たのかもしれないな。

……いや。ひょっとしたら、最初からその胸の内に野心を秘めていたのかもね。

「いずれにしても、僕はそんなことをするつもりはありませんので、三人だけでどうぞ。モニカ、行こう」

「かしこまりました」

僕は忌々しげに睨むウィルフレッドと、苦笑するラファエルを置き去りにして、自分の部屋へと戻った。