軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

主人公のライバルキャラ二人とエンカウントしました。

「ぐす……す、すみません。みっともない姿を 晒(さら) してしまいました……」

訓練場のど真ん中で泣き叫び、ようやく落ち着きを取り戻した僕は、アレクサンドラに深々と頭を下げて謝罪した。

というか、さすがに子供みたいな泣き方をして恥ずかしい。

「みっともなくなどありません。むしろ、私はあなた様の真心に触れることができ、心から嬉しいですよ」

泣いている最中もずっと見守ってくれていたアレクサンドラが、僕の瞳に残っていた涙の粒を 拭(ぬぐ) い、ニコリ、と微笑む。

「それより、まぶたが腫れておりますので、冷やされたほうがよろしいかと。この後、カーディス殿下との夕食会もおありなのでしょう?」

「あ……そ、そうでした」

いや、彼女に指摘されるまですっかり忘れてた。

別に夕食会に行きたくはないけど、行かなかったら行かなかったで面倒なことになりそうだし。

でも。

「? ハロルド殿下?」

見つめる僕に、アレクサンドラは不思議そうに尋ねる。

メッチャ名残惜しいって告白したら、さっき泣いてしまったことも相まって、女々しいって言われてしまいそうだ。

「そ、その……玄関までお送りいたします」

「はい。どうぞよろしくお願いいたします」

僕は本当の気持ちをぐっと抑え、 跪(ひざまず) いて彼女の手を取り、訓練場を後にした。

もちろん、ちょっとでも一緒にいたいから、できる限りゆっくり歩いたとも。

そして。

「ありがとうございました」

「あ……」

馬車の中へ乗り込んだアレクサンドラは、そっと僕の手から離れた。

名残惜しくて、思わず手を伸ばしそうになったけど、引き留めるわけにはいかない。最初から行きたくもなかった夕食会なんて、断っておけばよかったよ。チクショウ。

すると。

「ハロルド殿下。それではまた、 明日も(・・・) よろしくお願いいたしますね」

「! は、はい! 明日も(・・・) お待ちしています!」

にこやかに微笑んで手を振る彼女を乗せた馬車が、ゆっくりと遠ざかっていく。

僕は、馬車が見えなくなるまで、ずっと手を振っていた……って。

「あ……」

そういえば、マリオンのことをすっかり忘れていたよ。

アレクサンドラに追放宣言されて、これからどうするんだろう。

「ま、いいか」

そもそも僕はバッドエンド回避のために、主人公やヒロイン達から距離を置いて、最推しのアレクサンドラと婚約者のままで平穏無事に暮らすと決めたんだ。

なら、マリオンが王宮を去るということは、図らずも遠ざける結果に繋がったんだから、むしろよかったよね。

……今回のことで、メッチャ恨まれることになりそうだけど。

僕はこれ以上何も考えないようにしつつ、着替えをするために大急ぎで部屋に戻った。

「お待たせしてしまい、申し訳ありません!」

慌てて服を着替え、僕は夕食会の会場である食堂の扉を勢いよく開けると。

「遅かったな」

席に着く黄金の髪の男が、僕と同じ灰色の瞳でジロリ、と見やり、静かに告げた。

彼こそがハロルドの実の兄であり、デハウバルズ王国の第一王子。

――カーディス=ウェル=デハウバルズ。

『エンゲージ・ハザード』の設定では、既に国政にも参画していて、その有能な働きぶりからもエイバル王の信頼も厚く、第一王子ということもあって次期国王の最有力候補と目されているものの、その性格は冷徹で人間味がない。

それもあり、人懐っこい性格で貴族だけでなく平民にも人気のある第二王子のラファエルを、次期国王にと推す声が大きいのも事実。

まあ、カーディスの性格に関しては、主人公との王位継承争いという名のヒロインの奪い合いの中で、人としての感情を少しずつ取り戻していって、改善されていくことになるんだけどね。

能力に関して言えば、主人公に匹敵する強さを持ち、王族の証である光属性の特殊スキル、【デハウバルズの紋章】を駆使して主人公に立ちはだかっていた。

なお、この【デハウバルズの紋章】は一応僕も持ってはいるものの、残念ながら僕の属性は闇属性。当然使えるはずもなく、スキル枠を埋めているだけの完全なる宝の持ち腐れである。

そして、カーディスの僕に対する評価は、『使えない弟』。

これは、『エンハザ』のシナリオ内でも言及があるのはもちろんのこと、ハロルドの記憶の中にもその言葉は深く刻み込まれていた。

それでも、ハロルドがカーディスの腰巾着としてひたすら媚びを売っていたのは、自分の存在を認めてほしかったから。

母親のマーガレットだけでなく、兄のカーディスにも。

前世の僕はゲームの設定とシナリオでしか知らなかったけど、幼少の頃からそんな扱いを受けていたら、ハロルドの性格が歪んでしまうのも当然だと思うし、僕も同情を禁じ得ないよ。

何より、そんな歪んだ心を含めて共有しているから、なおさら、ね。

だけど、 今の僕(・・・) はハロルドでもあり、前世の僕……立花晴でもある。

バッドエンド確定のシナリオなんかに従うつもりはないし、『エンハザ』の知識だってある。マーガレットとカーディスが、僕を見てくれるなんてことがあり得ないことも、当然理解しているよ。

なので、これからの僕は腰巾着を卒業し、カーディスからも距離を置いてひっそりと生きていきますとも。

「カーディス兄上。僕と夕食をしたいなんて、急にどうなさったんですか?」

僕はあえて皮肉交じりに、そんなことを尋ねてみた。

『使えない弟』と一緒に夕食をすることなんて、少なくともハロルドの記憶の中には一度もなかったからね。

この男の意図を読むためにも、少しくらい 煽(あお) ってみたほうがいい。

「いや、ハロルドがシュヴァリエ公爵家の令嬢と婚約したと聞いてな。それで祝いの席を設けた」

「そうですか」

なるほど。つまり、腰巾着の僕がアレクサンドラと婚約し、シュヴァリエ家の支援を得られると考えたわけだ。

最大派閥であるシュヴァリエ家の支援となれば、カーディスの王位継承を大いに後押しすることになるから。

だけど、残念だったね。

本音では僕とアレクサンドラの婚約に大いに反対しているシュヴァリエ公爵が、支援なんてしてくれるはずがないじゃないか。

まあいいや。

最初はマリオンを押し付けるという目的もあったけど、それもなくなった以上、適当に愛想だけ振りまいておいて、頃合いを見て退席させてもらうとしよう。

そう、思っていたんだけど。

「カーディス殿下……」

「ん?」

侍従がカーディスの 傍(そば) に来て、何やら耳打ちをしている。

表情こそ変わらないものの、その内容はあまりよろしくないみたいだ。

「……通せ」

「かしこまりました」

カーディスが重々しくそう告げると、侍従は一礼して扉へと向かうと。

「やあ、ハロルド。婚約おめでとう」

食堂内に入ってくるなり、人懐っこい笑みを 湛(たた) えて気安く僕の目の前に座る、カーディスと同じ黄金の髪と灰色の瞳を持つ、一人の少年。

――第二王子、ラファエル=ウェル=デハウバルズ。