作品タイトル不明
109話
「いぬ?」
俯いていた女性はシュナイダーに気づくと、しゃがみこんでモフろうとする。しかし、手がシュナイダーを貫通してモフモフできていない。
それでも何とかモフろうとしているが、やはり触れないのでエアモフモフ状態だ。
(すり抜けてる! やっぱり幽霊だ)
シュナイダーは自分をすり抜けていく手をびっくりした様子だ。何これ?! と驚いている。
懲りずにシュナイダーに触ろうとする女幽霊だったが、結局モフモフできずに再び泣き始めてしまった。どうしよう、怖くて泣きそうだったけど怖くなくなってきた。良いことのなのか?
再度泣き始めてしまった女幽霊にシュナイダーも戸惑い、困った表情でこちらを見てくる。喋らなくても分かる。どうしよう、何とかならない? と言っている。
意を決して女性に話しかけてみることにする。いざとなったら破邪の経文で成仏してもらおう。
「あのー、こんばんは」
こちらの声にビクッと反応した女幽霊は、こちらを恐る恐る見る。長い顔の隙間からチラリと顔が見えた。意外と言っては失礼だが、可愛いらしい顔をしている。
良かった、怪談とかホラーに出てくるようなおどろおどろしい顔ではない。ああいうのだったら反射的に破邪の経文が炸裂していたかもしれない。
「に、人間? あ、いやわたしも人間だけど。こんばんは」
「え。さっきめっちゃシュナイダーをすり抜けてましたよね」
「しゅないだぁ? なんだか聞きなれない響きだけど、そこはかとなくカッコいい感じがする……おまえしゅないだぁっていうの? 可愛いね」
こちらの言葉をスルーした女幽霊は、再びシュナイダーに構おうとして触れず、またしょんぼりとしている。
その光景を見てなんだか全然怖くなくなってしまった。モンスターっぽくもなさそうだし、もう帰ろうかな。一応確認だけして帰るか。
「あの、あなたはモンスターではないんですよね?」
「もんすたぁ?」
「化け物、物の怪とかの類いってことです」
「なっ! 城下で一番美しいって評判のわたしを物の怪あつかい?! 酷い! でもその美しいせいで人柱なんかに……ふぇぇぇん」
人柱……状況的にそうじゃないかと思っていたけど、この女幽霊はお城を建てる際に人柱にされた女性か。昔のこととはいえむごい。
泣いている女幽霊をシュナイダーと協力して慰め、何とか誤解をとくことに成功する。
「へー、なんだか世の中大変そう。そのモンスターを倒して旅を。お兄さんはお坊様なの?」
化け物あつかいの誤解をといた後、女幽霊のお松さんと話をしていた。
お松さんは盆踊りをしていた最中に突然攫われ、このお城の人柱として石垣の下に埋められてしまい、それ以降ずっとこのお城にいるらしい。
城主が呪いで死んだ噂は本当か? と尋ねると、そんなことはしていないそうだ。せいぜいが嫌がらせで枕元に立ったくらいだという。
お互いの自己紹介を済ませてお松さんの身の上話を聞き、こちらの目的を話したところでお坊さんかと尋ねられたのだ。
サラリーマンって江戸時代の言葉でなんて表現すれば良いんだろう? まぁもっとも現状社会が崩壊しているので、元サラリーマンということにはなるが。
現在の職業って、なんだろう。旅人……って職業なのか? 流浪人、風来坊、無職。そんな表現が頭をよぎる。何かもっと良い表情はないだろうか。
「うーんお坊さんではないですね。旅人、ですかね」
「ふーん、わざわざ危ない世の中を旅するなんて、お兄さん変わった人ね」
幽霊に変わり者あつかいされてしまった。幽霊の方が珍しいと思うが、それは言わぬが花だ。そんな怖くない珍しい幽霊のお松さんは、何やらこの世に未練があって成仏するにできないようである。