軽量なろうリーダー

ゲームの強制力に抵抗するのが面倒な悪役令嬢は、好き勝手に生きることにした

作者: 翼弥

本文

この世には、転生ヒロインもの、もしくは転生悪役令嬢もの、というジャンルがある。私も小説や漫画を好き好んで読み、ゲームで遊んだものだが、まさか自分がその当事者になるとは思わなかった。

どうも。転生悪役令嬢のマーガレット・ナットールです。侯爵令嬢にして我が国の王太子殿下の婚約者という、テンプレ的な悪役令嬢です。こんにちは。

自分が乙女ゲームに登場する悪役令嬢だと認識したのは、いつだっただろう。覚えてないけれど、前世でそういう話を大量に読んだ私は知っている。

破滅エンドを避けるには、子供の頃からの努力が必要であることを。性格の改善、攻略キャラたちの好感度の向上、周りへの根回し、独自の功績。そういった努力を経て、初めてヒロインの横に並び立てるのだということを。そして、そこまでしたところで、ゲームの強制力次第では破滅エンドは避けられないこともあるということを。

・・・・・・正直、面倒くさい。

せっかく貴族、それも侯爵家という地位もお金もある家に生まれ変わったのだ。男兄弟ばかりの中やっと生まれた末娘らしく、両親もお兄様たちも、私へのデレが半端ない。贅沢し放題で好きなものを好きなだけ与えてもらえるのに、我慢するなんて無理では? 幸いにも、お兄様たちはしっかりしているから、私が断罪されても御家取り潰しにはならないはず。

ならば好き勝手に楽しく生きて、とっとと死のう。たしか、ゲームの中の悪役令嬢は牢獄の中で毒殺されたはず。牢獄は嫌だけど、毒ならば苦しまずに死ねるだろうし、怖いこともないだろう。

それが私の出した結論だった。

「マーガレット様、こちらをどうぞ」

「今日の茶菓子は我が領地のものなんです」

「マーガレット様」

「マーガレット様」

今日も私は、いろんな生徒に囲まれてお茶を楽しむ。男女問わず、数多くの生徒たち。けれど、共通点はある。

「まぁ、見て。マーガレット嬢よ」

「また下賤な者たちを侍らせて、みっともない」

「侯爵令嬢ともあろう者が、なぜあのようなことを」

遠くから聞こえてくる悪口は、すべてスルー。無視だ。私の周りにいるお茶会参加者たちも、私が気にしないのをわかっているから、表立っては何も言わない。・・・内心でどう思ってるかは知らないけど。

優雅にお茶を飲んで、目新しいお菓子を口にする。うん、美味しい。初めて食べた。

「我が領地に伝わる伝統菓子です。お口にあいましたか?」

感情が表に出ていたのだろう。聞く前に教えられて、私は笑顔で頷いた。

「ええ、とても。いくつか持って帰ってもいいかしら?」

「はい、もちろん!」

わーい! 今日の夜食ゲットだー!!

笑顔でお茶会を続ける私を、周りの人たちは笑顔で見守ってくれる。ふふ、やっぱり持つべきは友達だよね!!

私のお茶会に参加している彼ら、彼女らは、子爵や男爵家、もしくは一般入学の人たちだ。ここは学校。ゲームの主な舞台となる学園の、裏庭に作られた東屋である。

ゲームはすでに始まっている。ヒロインは没落寸前の子爵家の令嬢だが、乙女ゲームのヒロインらしく愛嬌があり、攻略キャラたちを翻弄する。というか、すでにしている。ここにいるのはそんなヒロインとは無縁で、貴族社会とも縁が遠い人たち。そんな彼らと、私はお茶会を楽しんでいた。

「美味しいわぁ」

紅茶を一口飲んで、ソーサーに戻す。その際、音は立てないのはマナーの基本中の基本。一般入学のみんなは私を参考にすることで、貴族社会においてのマナーを学習しているのだ。

事のきっかけは、学園に入学してすぐの頃。クラスにいた一般入学の女の子たちだ。マナーの授業で何もわからない彼女たちを笑う貴族たちに我慢できず、声をかけたのが始まりだった。

もちろん、マナーだけじゃない。お茶会を始めて何回か経った頃、他の勉強もついていけないことを告白した子がいた。それ以来、お茶会は勉強会も兼ねている。

私のお茶会の話はすぐに広まり、少しずつ参加者が増えていった。この場では貴族も平民も関係ない。ただ、互いの持つ知識を平等に教え合う場所。それを許容できる者だけが参加できる、唯一無二の場所になっていた。

って、大げさに聞こえたかもしれないけど、前世での勉強会みたいじゃない? 誰かのおうちに集まって、とはいかないけれど、代わりにみんながいろんなお茶や茶菓子を持ち寄ってくれる。そのための場を提供するのが、今の私の楽しみとなっていた。

とはいえ、それが気に入らない上級貴族たちは当然いるわけで。誰が何と言おうが気にしない私は、今や上級貴族たちからの爪弾き者。立派な悪役令嬢になっていた。

「あ・・・」

ふとお茶会の一人がどこかを見て声を上げた。釣られるように私を含めたみんなが同じ方向を見て・・・

攻略対象である我が国の王子イアン・ミッドフォードと、ヒロインのメアリーを見つけてしまった。

イアン殿下とは、ばっちり目が合った。目が合った上で、心底嫌そうに眉根を寄せ、視線をそらされた。メアリーの視界に入らないようにだろうか。私たちとメアリーの対角線上に移動するのも忘れない徹底さだ。

いやぁ、嫌われたものだな、私。

「マーガレット様・・・」

「気にしてませんわ。それより、今日のテーブルクロスはどなたが? とても綺麗なレースですのね」

私のあからさますぎる話題転換に、何人かが微妙な表情をしてたけど気にしない。いや、本当に、気にならない。これはゲーム通りの展開だ。気にしてもどうしようもない。

私は悪役。メアリーはヒロイン。攻略対象たちは、ヒロインに心奪われていくのが、乙女ゲームの鉄則なのだから。

「ありがとうございます。私の手作りなんです」

手作り! レースを! 手作り!!

はー、すごい。私には一生かかっても無理だ。刺繍は令嬢のたしなみだ、なんて言われるけど、細かいことは苦手なんだよね。何度もテーブルクロスに触れては、手触りと繊細な模様に感嘆の息が漏れた。はー・・・可愛い。

素直に「すごいすごい」と連呼する私を、皆が様々な表情で見守ってる。けれど、私はどれも気にせず、レースの模様を追うのに忙しかった。

比較的身分の弱い彼ら・彼女らとのお茶会は、私の楽しみの一つだ。

身分の高い貴族たちとは、話が合わない。というか、裏で何を考えてるのかわからないので、会話すること自体が疲れる。

その点、お茶会参加者たちは向上心に溢れていて、それぞれの夢を叶えるため、勉強するために集まっている。夢はそれぞれ違っても、勉強という手段は一緒。やることははっきりしているので、打算も何も考える必要がない。

友達が集まって、勉強会。まるで前世にいるみたいで、私はこの時間がとても好きだった。

家に帰ってからも、夕食の席で学園での出来事を家族に聞いてもらうのも好きだ。お父様もお母様もお兄様も、笑顔で私の話を聞いてくれる。とても貴族とは思えない行動でも、笑顔で肯定してくれる。そんな家族のことも、私は大好きだった。

好きなことを好きなようにやって、美味しいものを食べて満足する日々。

そんなやりたいことだけをやり続けた学園生活、そして私の人生も、そろそろ終わりに近づこうとしている。

今日は卒業式。

卒業生たちとその親が集まったパーティーで、どうやら断罪イベントが始まったようだ。

「マーガレット・ナットール! お前との婚約を破棄する!!」

前世で何度も見た婚約破棄イベント。

いざ目の前で始まったら心騒ぐだろか、と思ったけど、実際には何も思うところはない。「始まったか」とどこか感慨深い気持ちで、私は殿下の前に踏み出した。

「理由をお聞かせ願えますか?」

「お前がメアリーを苛めたからに決まっているだろう!!」

私がヒロインを?

疑問に思っている間も、イアンの言葉はまだまだ続いている。

「メアリーの教科書を破って捨てた」「階段から突き落とした」「運動用の替えの服をどこかに隠した」「嘘の用件を伝え、自分と会うのを妨害した」

などなどなど・・・

うーん、告発されている罪に全く身に覚えがない。でもゲーム内では、確かに悪役令嬢が行った罪だ。そういう意味では覚えはあるけど、今の私は全然関わってないのになぁ。

延々と私を断罪するイアンから目をそらし、メアリーの様子を確認する。イアンの後ろで震えるメアリーは、誰がどう見ても可憐な令嬢に見える。

これがゲームの強制力というやつなんだろうか。言いたいことをやっと言い終えたイアンが、胸を張ってシメの言葉を言い放つ。

「以上が理由だ! 申し開きがあるなら一応聞いてやる!」

申し開き、ねぇ。何か言ったところで、聞く気あるのかなこの人。いや、この人の問題じゃなくて、ゲーム側に対する問題なのかもしれないけど。

私が迷っている間に、文句はないと判断したらしい。イアンはびしっと私を指さすと、

「男好きなお前の顔など見たくない! 誰か、こいつを連れていけ!!」

わお、今のはゲームにはない言葉だ。最後にすんごいこと言ってくれたな。誰が男好きだ、誰が。婚約者がいながら他の女性に手を出したあんたに言われたくないんだけど。

はー・・・わかっていたこととはいえ、こんなくだらないことで私の人生が終わるのか。もうちょっと好き勝手生きたかったな。

抵抗もしない私を、イアンの命令を受けた衛兵たちは申し訳なさそうに拘束しようとした。その時だった。

「兄上、お待ちください」

私の目の前に影ができたと思ったら、見慣れた人物が私とイアンの前に立っていた。

ルイス・ミッドフォート。イアンの一つ年下の第二王子。彼も我が学園に通っているけれど、ゲームには出てこない人だ。

「ルイス殿下?」

「まったく・・・貴女は相変わらず自己主張が下手ですね」

? なんのこと?

わけがわからずきょとりとルイスを見れば、彼はにっこりと微笑んで、自分の兄と向き直った。

「何の真似だ、ルイス」

「それはこちらの台詞です。このような多くの人の集まるめでたい場で、何をしておられるのです?」

「多くの者がいるからこそ、意味があるのだ。証人は多い方がいいだろう」

婚約破棄の証人かぁ。確かに多いに越したことはないんだろうか。よくわかんないな。ゲームとしての見栄え?迫力?があるのはわかるけれど。

変な納得をしている私をよそに、二人の会話はなおも続く。

「確かに、証人は多い方がいいですね。マーガレット嬢の無実を証明できる方、無実を信じる方は、どうぞこちらへ」

ルイスの言葉に、会場にいた多くの大人が私たちの後ろについた。その数の多さに、私は二度見どころか三度見してしまう。

けれど、ルイスは特に驚いた様子もなく、次の問いを続ける。

「では、兄上とメアリー嬢の言葉を信じる方は、どうぞ兄上の傍に」

今度はほとんど誰も動かない。最初から傍にいた攻略対象のキャラたちが、少し前に出ただけだ。

これにはさすがのイアンも驚いたようだ。目を見開き、会場中を見渡して、

「お前たち、ルイスに買収されているのか!?」

なんて言い出した。

「するわけないでしょう。兄上が先ほど仰っていたことの数々は、マーガレット嬢には不可能だと、誰もが思っているということですよ。どうやら、目撃者もいないようですしね?」

イアンの周りには攻略対象しかいない。つまり、先ほど述べた私の悪行の数々を見た人はいない、ということに等しかった。

とはいえ、私は私で好き勝手に生きてきた悪役令嬢。私に反発する人が殿下についてもおかしくない、とは思うんだけど・・・この差は何だ?

あまりにも不思議で、もう一度自分の後ろにいる人たちを見る。いつもお茶会に来てくれていた人たちはわかる。いつも一緒にいたもんね。私が苛める暇なんてなかったのはわかってるだろう。

他には、大人がいっぱいいるな。あ、お父様見つけた。後はお茶会に来てる人たちの親だろうか。それにしては人が多い気がするけど・・・はて?

もちろん、どちらにもついていない人はいる。むしろ、学生の多くはどちらについていいのかわからず、その場から動けないでいるようだ。

ということを思うと、私の後ろにいる大人の数、やっぱり多すぎない?

「そんなわけがない! 買収なくして、それほどの者がつくわけないだろう!!」

わかるー。ほんとそれ。なんでこんなに人がいるのか、私が一番わからない。

イアンに同意するように頷いていたら、ルイスが呆れ顔でため息をついた。

「自己評価が低いのはなんとかしたほうがいいよ。そうでしょう、ナットール侯爵」

ルイスに呼ばれて、父上が私の隣に来た。

「まったくです。我が子ながら、なぜこんなに無頓着に育ったのか」

何故かお父様も呆れ顔だ。そうは言われても・・・ねぇ? 所詮私は悪役令嬢。いずれ処刑されるのだから、頓着も何もないと思うんだけど。

私に何を言っても無意味だというのはわかっているのだろう。お父様はイアンに向き合うと、

「恐れながら殿下。我が娘を不要とおっしゃるなら、殿下のお召しになっている衣服も無用ということになりますな」

「は?」

「ああ、あと、後ろにいるご令嬢のドレスもです。それらは我が娘の行いの結晶。娘を嫌うお二人が着ていいものではありません」

「え?」

お父様、何言ってるんだ? 私は何もした覚えはないんだけど。

・・・と思っている間に、後ろから援護射撃が入った。

「そうだそうだ! その衣装に使用されている絹は我が領地の物。マーガレット様が認めてくださったからこそ、また王都で売ってもらえるようになったんだ!!」

「ドレスのレースもです! それは私の村の伝統模様。マーガレット様に贈るものだと思ったのに、信じられない!!」

「宝石もだ! 装飾品には小さすぎる宝石をドレスに縫い散らばらせるのは、マーガレット様のアイデア! マーガレット様を苛めてるのはそっちの方だろう!!」

あー・・・なるほど、確かに身に覚えがある。

お茶会の時に使うナプキンを提供してくれた子爵家の絹。手触りがよすぎて、お父様にお願いしてハンカチや身の回りの品をすぐに購入した。

私が欲しがる物だからと家族も使い始め、今ではすっかり彼の絹の虜だ。お母様はドレス用の布も大量に発注していると聞いているし、我が侯爵家のお墨付きということで、社交界に広まったのだろう。

よく見えないけれど、ドレスに使われているレースは、いつぞやのテーブルクロスに使われていたものに似てる。あれも気に入って、レースのリボンを作ってもらったんだよね。

あまりにも可愛いから、毎日使ってたのよ。王妃様主催のお茶会に参加した時もつけてたら、王妃様の目に留まった。だから改めて作ってもらって、誕生日プレゼントに差し上げたのだ。

王妃様のお茶会が発端だったから、いろんなレディーの目の前だったわけで。あれがきっかけで噂が広まったというのなら、おかしいこともない。

宝石も覚えがある。勉強のためのお茶会は、雑談の場にもなる。お茶会だからね。世間話が出ないほうがおかしい。その中で、領地でとれる宝石を加工した際に出る切れ端のような小石がもったいない、という話になり、ではアクセサリーではなくデザインとして取り入れては?と提案したのだ。

ビーズのように扱えたら可愛いだろうなぁ、と思ったことをそのまま口にして、それが後日、バッグになって返って来た。あまりにも見事なデザインに、手放しで喜んで褒めて喜んで褒めてまた喜んだのは記憶に新しい。

なるほど。身に覚えがあったわ。確かにヒロインのドレスには、私が欲しいと強請ったものと同じような宝石やレースが使われている。私は今回はドレスは新調しなかったけど、イアンはヒロインのために作らせたのね。私が褒めたものたちを使った、最新の流行を取り入れたドレスを。

あー、私の後ろに大人が多いのも、そのせいか。社交界でお母様や王妃様が私の名前を出してくれたんだな。社交界に出てない子供たちは知らなくても、大人の世界では私が知らない間にいろいろと広まっていたんだろう。・・・ただの私の我儘が、大事になっているだけの気もするけど。

私が納得している間にも、あれもこれもと私が関わった品々が列挙されていく。え、やだ、ちょっとまって、恥ずかしくなってきた。絹や宝石はいいけど、食べ物はやめて!? 食い意地が張ってると思われるじゃない!

羞恥心でどこかに隠れたくなるけど、生憎と隠れる場所もない。し、そんな状況でもない。大人しくプルプルと震えていたら、トドメとばかりに大きな一言が落とされた。

「殿下がマーガレット様に向けて放った冷たい言葉の数々、私たちは忘れません!!」

そうだそうだ、という声を聴きながら、私は緩みそうになる涙腺を保つのに必死だった。

私は悪役令嬢だ。面倒なことは嫌いだし、好き勝手生きてきた。それを悪だと呼ばれたら、反論なんてできない。実際、ゲームの中の「マーガレット」は我儘に生きて、死んでしまった。私もきっとそうなるだろう、と諦めていたけど・・・。

ここにいるみんなは、そんな私の味方になってくれるのか。

零れ落ちそうになった涙を、そっと拭う。嬉しくて泣くなんて、生まれて初めてだ。

「みんな、ありがとう」

心に灯った感謝を素直に述べれば、なぜかみんなまでもが泣き出した。

「マーガレットさまーー!」

「お礼を言うのはこちらの方です!!」

だなんて、いろんな言葉を聞きながら、泣き叫ぶ。これは・・・ちょっと異様な光景かもしれない。でも、今の私には幸せな光景だ。

お互いに泣き合う私と皆を見て、ルイスもふと笑みをこぼす。そしてまた、兄へと向かい合った。

「さて、マーガレット嬢の無実と引き換えに、今度は兄上が糾弾される側になりましたね。これだけの証人もいるようですが、何か反論はありますか?」

「そ、そいつらの顔は見覚えがある! マーガレットを囲んでいた者たちだろう! 愛人の証言な」

「兄上。それ以上は口にしないほうがいい。それは彼らすべてを侮辱する言葉であり、貴方自身にも突き刺さる言葉だからだ」

「っ」

ルイスの怒気を流石に感じたのだろうか。イアンがぐっと息をのみ、何も反論できずに黙り込んでしまった。

しばし無言の睨み合い。それを破ったのは、この場で一番の権力者・・・つまりは国王陛下にして、イアンとルイスの父親だった。

「勝負はついたようだな。マーガレット嬢、愚息がすまない。言葉で謝っても足りないだろうが、謝らせてくれ」

「父上!!」

「黙れイアン。お前に発言は許していない。誰か、これを連れていけ。ああ、後ろにいる者たちも全員だ。詳しい話を聞かねばな」

「はっ!」

陛下の指示に従い、イアンとヒロイン、そして他の攻略キャラたちの周りを衛兵たちが取り囲み、どこかへ連れていく。イアンとヒロインは何かを叫んでいたけれど、正直、何を言っているかまではわからなかった。

やがて、彼らの叫びも聞こえなくなると。急な進展に驚いて涙の止まった私の前に、陛下が自ら歩み寄ってきた。

「本当に申し訳ない。愚息に君はもったいないな。あれの要望に沿う形になるのは癪だが、婚約は破棄したほうがいいと思うのだが、どうかね?」

「あ、はい。ぜひ?」

え、いいの。いいの? 監獄送りなし? やったー!!

思わず疑問形で頷いてしまったけれど、頷いたことには変わりない。陛下は大きく首を縦に振ると、

「ありがとう。ナットール侯爵、慰謝料などは君たちの言い値で払う。後で詳しい話をさせてくれ」

「はっ」

え、婚約解消だけでもありがたいのに、慰謝料までもらえるの? すごい!

内心ではしゃぎまくっているけれど、表向きは多少にやけてしまったくらいで済んだと思う。すでに今後の人生をどうやって遊んですごそうか考え始めている私の横で、ルイスが一歩前に出た。

「父上、私からお願いをよろしいでしょうか?」

「言ってみなさい」

「マーガレット嬢が兄上の婚約者ではなくなったのなら、私が立候補しても?」

「ほう」

「え」

なんだと? え、今なんて言った? 聞き間違い? 意味違い?

思わずルイスを見れば、彼も私を見ていたようでばちりと目が合った。その上、にっこりと笑って、

「ずっと前から愛していたのです。貴女は兄上の婚約者だからと諦めていましたが・・・どうか僕と婚約してくださいませんか?」

だなんてドストレートな言葉を紡ぐものだから。これでは誤解のしようもない。

「え? え?」

とはいえ、受け入れられるかどうかと言えば話は別で。だってルイスとは今まで、あまり関わりがなかった。時々私のお茶会に来て、軽く話をする程度。それで愛とか言われても・・・っていうか、せっかく縁が切れたのだから、王族にはもう関わりたくないのが正直な心だ。

どう答えるのが正解なのかわからず、助けを求めるようにお父様を見る。言いたいことは伝わったのだろう。お父様はぐいと私を抱き寄せると、

「愛娘です。まして、こんなことがあった後。簡単には嫁にやりません」

わー、ありがたい! 流石はお父様、わかってらっしゃる!!

お父様に抱き寄せられてるから、お父様がどんな顔をしているかはわからない。けれど、

「わかっている。マーガレット嬢。素直な気持ちで、これをフってよいからな」

「父上!!」

陛下が朗らかにそんなことを言い、ルイスが必死に叫ぶものだから。私は思わず吹き出してしまった。

私が笑い始めたことで、場の空気は一気に和んだ気がする。それを待っていたかのように、陛下がパンと手を叩いた。

「さて、静粛な場を壊してすまなかった。卒業パーティーの続きに戻ろう。未来ある若者たちの門出を祝わなければな」

はっ、そうだった。今は卒業パーティーの真っ最中だった。

陛下の言葉に、私は父上の腕から抜け出して、味方になってくれたみんなの元へと向かう。

「みなさん、本当にありがとう。みんなに何かあれば、今度は私が助けるからね」

笑顔でお礼を言って、新たな決意を口にする。みんなは口々にいろんな反応を返してくれたけど・・・一斉に喋られたから、正直、あまり聞き取れなかった。だけど、きっと悪いことじゃないだろう。みんなの表情だけでも、私を心配してくれているのがわかる。

だからこそ、私は笑顔で、今までと同じように、やりたいことをやるだけだ。

「はー、喉乾いた。果汁の飲み物、飲みたいな」

私の言葉に、給仕が慌てて走っていった。けど、目の前にいる卒業生の仲間たちは、皆が安堵したように息をついて、表情をほころばせる。

これが私。食べたいものを食べて、飲みたいものを飲んで、やりたいことをする。それだけだ。

給仕が差し出してくれたグラスを受け取り、一口飲む。ブドウを絞ったジュースはほんのり甘く、自然と笑顔が零れていた。

その後。

イアンは王位継承権を剥奪され、辺境に送られたと聞いているが、詳しい話は聞いていない。

おそらくメアリーも一緒だろうけど、それに関しても私は知らないし、興味もなかった。

そして、私はルイスの猛アタックを受けて折れることになるのだが・・・

それはまた、もう少し未来の話である。