軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ep44 平穏な日常はまだ遠く。

「七規ちゃん! 幸坂さん!」

ギルドに戻ってくると松本さんが二人に抱き着いた。

わざわざ夜叉の森まで来てくれていたのだろう。

とても羨ましい。

俺も抱き着かれたい。

ぎゅって抱き返すから。

「ありがとね、相馬くん」

「いえ、二人は俺の大切な仲間ですから。それに、感謝したいのは俺の方です。松本さんが教えてくれたおかげで、何とか間に合ったんですから」

「うぅ……っ、相馬ぐん!! ほんとにキミはいい子だよぉ~!」

そう言って抱き着いてくる松本さん。

やったぜ、ミッションコンプリート。

……人妻相手に何やってんだろうね。

一人賢者モードになる俺をよそに、他の面々は無事の再会を喜び合う。

七規の下にはおじい様が。

白木の下には江渡さんと友利さんが。

のの猫の下には笹木さんが。

対する俺は、丁度東京のホテルに居る両親に電話を終えた所だ。

二人とも夜叉の森に来ることは無く、向こうで過ごしていたらしい。というか俺の電話で初めて夜叉の森に来ていることを知った様子だった。

電話で認定式に関しても聞いたが、式は予定通り老害さんたちの謝罪配信に変わっていた模様。曰く『相馬くんは現在急用で席を外しています。認定の日付は変わりませんが、式は改めて設けるつもりです』とのこと。

老害さんたちに思うところはあるけれど、それはそれとして礼をしておかないとな。

因みにネットの反応は見ていない。

一瞬、ギルドに併設されていたテレビのワイドショーでボロカスに叩かれているのを確認したので見る気も起きない(兄者さんがすぐに気付いてチャンネルを変えてくれた)。

確認すると放送局は以前道長さんが出演していた局だった。噂によると道長さんは干されたらしいが……おのれ、許さんぞ。

何はともあれ両親への電話も終わり、数人の探索者がお疲れと労いの言葉を掛けてくれるのに答え、一人ギルドの椅子に腰かけながら慌ただしい探索者たちを見つめる。

――不思議な気分だ。

「よぉ主さま。元気か?」

「霜月さん。わざわざ来てくれたんですか?」

「ったり前だろ? さっきまでシュヴァルツコップ親子に電話してたところだ。あの二人――特にシャルちゃんなんか七規ちゃんが行方不明って聞いて、そりゃあ怖いぐらい取り乱してたもんだ」

「二人とも仲いいですからねぇ」

「主さまが救援に向かったって伝えたら、安心してたぜ?」

「信頼されているようで嬉しいですね」

「だな。後は友部さんも心配してたぜ。本人は仕事でここに来れてないけど」

「それはそれは、また今度顔を見せないとですね」

「そうしてやってくれ。それと……ほい弁当。腹減ってるんじゃないかと思って持ってきたぜ。まぁ、夜叉の森にはカフェもあったみたいだが」

「何を言いますか。霜月さんのお弁当ほど、俺の腹を満足させられる料理はありませんよ」

「うい~、憎いこと言うねぇ。人妻誘惑してんじゃねぇよ、高校生」

「事実ですって。それじゃさっそく——」

「ここで食うのか~?」

「ダメですか?」

「ほら、なんか恥ずいだろ?」

「恥じる必要なんて何もありませんよっと……マジで美味そう……いただきます!」

ぱくっと一口。

霜月さんの料理の中でも、特に美味しい卵焼きを食す。

相も変わらず美味しい。

ちょっと硬めなのが俺の好みにバッチグー(死語)。

「あぁ、霜月さんと結婚したい」

「ちょ、こんな人が多いところでなに言って——」

「……へぇ、相馬きゅんって、そうなんですかぁ?」

徐に声を掛けてきたのは入江さん。

今日も今日とて地雷仕様の彼女は俺を挟んで霜月さんの反対に腰掛ける。

意図せず人妻にサンドイッチされる形だ。

「因みにぃ~、私も料理得意ですよ~♡」

「そ、そうなんですか」

「そう、でも旦那はぜーんぜん食べてくれなくってぇ……だから、相馬きゅんに愛妻弁当作りたいなぁ~って」

「は、はははっ、気持ちだけいただきますよ」

「そっちの人のは食べるのに?」

「霜月さんは俺が雇ってるお手伝いさんですから」

ぐいぐいくる入江さんにたじたじ。

「おい、主さまが困ってんだろ?」

「えぇ~推しと話せるチャンスなんですから、邪魔しないでくださいよぉ~」

「お、推し?」

困惑顔の霜月さん。

まぁ、確かにこの人、ネット文化詳しくなさそうだしね。

何はともあれ、一件落着か。

ルナリアとテスタロッサのこと。

すっぽかしてきた認定式のこと。

その他諸々、やらなきゃいけないことは山積みだが、とにかく今は疲れた。

俺はちょっとギスってる二人に挟まれながら、現実から逃れるように箸を進める。

多分、こういうところを記者にすっぱ抜かれて不倫云々と騒ぎ立てられたんだろうなぁ、と思いつつ、しかし彼女たちと話すのは楽しいのでやめる気は起きないのだった。

§

結局その日は近くのホテルで宿泊。

翌日になってから諸々の手続きや報告を行った俺は、ギルドに併設されたのカフェで息を吐く。

「この後は、どうするか……」

やることは山積み。

特にルナリアとテスタロッサの両名に関して、狸原さんに報告しなければならない。その強さに関しても。

(会話の内容からして、テスタロッサはルナリアの部下。んで、ルナリアは魔王直属の部下——四天王の一人)

あの時ルナリアは『時間が悪い』と言って撤退を選択していたが、もし時間が悪くなければどうなっていたのだろう。

余裕を持った態度や、テスタロッサに命令していたことから考慮するに、テスタロッサ以上の実力を持っていたとしても何らおかしくはない。

「……はぁ」

溜息を吐き、コーヒーを飲む。

他にも考えなきゃいけない事としては——次に異世界人が現れた時に 殺害(・・) できるかどうか。

もちろん第一目標は生きたまま捕縛することであるが、最悪の場合は殺害も視野に入れて動く必要がある。相手が口を割らない場合や、他の人——例えば、七規や幸坂さん、のの猫を殺害しようと動いた場合は、殺す必要性がある。

想像以上に異世界人は『魔王』に支配されている。

向こうは死に物狂いで侵略に来るのだ。

なら、それに対抗するためには……。

「あぁ……はぁ……」

いかん、ため息が多くなる。

まぁ、これに関しては俺一人で悩むことでもないし、狸原さんや……或いは七規のおじい様に相談すればいいか。

先延ばし、という結論に辿り着いた俺は、再度コーヒーを飲み——ふとギルドの外へと視線を向ける。するとそこには多くの取材陣の姿があった。

彼らの目的は、認定式をすっぽかした俺——ではなく、今回の異変の原因であった規格外の大きさの『ロック・ビートル』を討伐したのの猫たちだ。

通常、異変を討伐するだけで取材などない。

ただ今回は特殊で、転移魔法陣でダンジョン深くに飛ばされた上に、討伐推奨ランクに満たない四人で討伐したというのが大きな話題性を呼んでいた。

それに加えて、なんとロック・ビートル討伐の一部始終が配信されていたらしいというのも、大きな要因になってた。

俺が『アイスエイジ』一発で、ロック・ビートルの砲撃を受け止めた所も映っており、これで風当たりは少し弱まるかなと思っていたが……その後の会話も配信されていたらしく『相馬創、厄介視聴者説』が噴出していた。

事実だけどなんか悲しいね。

因みに、取材を受けているのはのの猫のみ。

他の三人は面倒だからと断っていた。

三人ともダンジョン配信者でも何でもないしね。

配信の方も、暗くて顔ははっきり映っていなかったので、日常生活に支障はないだろうとのこと。ただ白木だけはその名前がネットで上がっていたらしいが。

「あ、相馬さん! ここに居た!」

名前を呼ばれて振り返ると、そこには愛しの配信者のの猫が。

「の、のの猫さん!? な、何でしょうか?」

「いえ、そろそろ東京に戻ろうと思うので、その前に少しお願いがありまして……」

「もちろん構いませんよ!」

「まだ何も言ってないにゃ!」

「あぁ、すみません。大丈夫です、のの猫さんのお願いを断るなんて選択肢、俺には存在しないので」

「そう、ですか? なら——」

彼女は懐からスマホを取り出すと、笑みを浮かべて続けた。

「連絡先、交換しませんか?」

「……え、い、いいんですか!?」

「はい。助けてもらってお礼をしたいというのもありますが……それ以上に、私は貴方個人に興味があるので。同じ、魔速型として」

「……なるほど、そう言う事ですか」

つまるところ師匠としてこれからも教えて欲しいという事だろう。

当然、断る選択肢などない。

「あぁ、あと大量のスパチャも返金したいですし」

「それは止めてください。俺の愛——き、気持ちですので」

「誤魔化しきれてませんよ。って言うか、そんな直接愛だ何だって言わないでください。流石に……照れます」

僅かに頬を染めて視線を逸らすのの猫。

あっ、しゅき。

内心悶絶しつつも連絡先を交換。

「それじゃ、本当にありがとうございました。これからもよろしくお願いしますね師匠」

「は、はい。こちらこそ」

そうして元気に走り去るのの猫の背を見送り、俺は残りのコーヒーを飲み干す。

「せんぱい、帰ろ~」

「そうだな」

カフェに顔をのぞかせた七規に、首肯。

「そう言えば、今回の功績を鑑みて、私のランクがEからDに上がるって。幸坂さんと白木さんもCからBに上がるかもって入江さんが言ってた」

「ほう! それはめでたい! 昇格したらみんなでご飯でも食べに行くか!」

そんなことを話しながら、俺たちは幸坂さんと合流し、彼女の車で夜叉の森ダンジョンを後にして三船町へと帰るのだった。

§

Side『???』

――ここはどこだろう?

私は深い森の中を走っていた。

頭がぼんやりしている。

記憶が欠落している。

それでも残った破片をかき集めると、どうやら私は何かから逃げているらしい。

何故逃げているのか。

家族はどこにいるのか。

虫食いの穴あきみたいな記憶を探るけれど、答えは見つからない。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ」

走る。走って、走って――森の奥。

古びた遺跡を見つけた。

その遺跡に関する知識を、私は有していた。

『森神ファナトス』の遺跡。

ふと遺跡の方角から足音が聞こえて、私は木の陰に隠れる。

すると遺跡から全身真っ白の服の女と、褐色肌に軍帽の女が出てきた。

二人は何か言葉を交わす。

「×××××?」

「××、××××××××。×××××」

聞いたことのない言語で話す二人。

彼女たちは急いでいたのか、私に気付くことなく去っていった。

残された私は逡巡した後、遺跡へと足を踏み入れる。

埃とカビと濃密な魔力の匂い。

すっかり朽ち果てているというのに、荘厳さは失われていない遺跡の最奥で――私は大きな空間の裂け目を発見した。

「何、これ……」

わからない。

わからないけれど、何故かそこに飛び込むことが正解だと、身体が告げていた。

だって私はまっすぐこの場所に向かっていたのだから。

つまり、記憶をなくす前の私が目指していたのがこの遺跡な訳で――。

私は意を決して、裂け目に飛び込む。

その空間の裂け目が『ダンジョン』と呼ばれることを、この時の私は知る由もなかった。