軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ep42 異世界からの来訪者3

ドラゴンの腕にドラゴンの尻尾。

鋭い黄金の瞳で俺を見つめる彼女は、笑いながら吠えた。

「くはははっ!! この姿を見せるのなんざ一体何年ぶりだろうなァ!! 誇れよ相馬創!!」

「別に見たくて見てるわけじゃないんだけどなぁ……」

「はんっ、今更泣き言言ってももう遅ェ!! 竜人族(ドラゴニュート) 相手に啖呵切った落とし前。今ここで払うんだな――ッ!!」

吐き捨てると同時に、テスタロッサが突っ込んでくる。俺は即座にアイスエイジを正面に配置。先ほどまでなら回避してから攻撃を繰り出していた彼女であるが、竜の腕は氷の壁を容易く砕いた。

「チッ――」

「アァ、いいなァ、いいぜお前ェ!! すげェイイ!! 滾るってもんだぜェ!!」

魔速型で回避行動を優先する俺に対し、テスタロッサも機動力を上げて追いすがる。速さでは負けていない。反応速度も負けていない。それでも身体の使い方が上手すぎる。

両翼を用いた空中での姿勢制御。そして何より手足に加えて尻尾が増えた現状、単純に彼女の攻撃パターンが増している。その数は加算ではなく乗算。

尻尾でバランスを取りながらの蹴りなど、人間相手では決して見る事のできないトリッキーな技も増える。そしてそんな技一つ一つが洗練され尽くしていることに『剣聖』の技量が垣間見えた。

「くっ、そがッ!」

「これでも反応すんのかよッ!! ますますイイッ!! ならァ――こいつはどうだァ!?」

そう言うとテスタロッサは徐に立ち止まり、正面に腕を突き出す。何だ――と警戒した瞬間、彼女の掌に魔方陣が出現。見たこともない文様の刻まれた魔法陣は一瞬で構築完了し――。

「――ッ、マジかよ!?」

発射されたのは、かつて三船ダンジョンで討伐したドラゴンの見せた最高火力『ドラゴンブレス』によく似た攻撃。唯一異なる点があるとすれば、威力が桁違いだという点。

まだ距離があるというのに肌を焼くような熱量に加えて、広大な攻撃範囲。回避は間に合わず、仮に四肢を犠牲にしながら逃げたとしても追撃をかわせる自信がない。

つまり、受けるしかないという事。

期せずしたロック・ビートルの砲撃を前にしたのの猫と同じ状況である。

だがどうする。通常のドラゴンのブレス攻撃ですら紙くず同然だったアイスエイジで受けるのは論外。ナイトメア戦以降、魔法の威力が上がっているとしても、この攻撃は 絶対に(・・・) 無理だ。

故に――それはほぼ反射だった。

俺は左腕に氷の義手を再生成すると、迫りくるドラゴンブレス目掛けて――かつての相棒の一撃を模倣する。

胸に焼き付いた魔力回路が輝き、記憶を削るぎりぎりまで魔力を注ぎ込んだ一撃は、インフェルノと並ぶ俺の最高火力。

――『No.3サファイア』の一撃。

氷の義手を媒介とし、青白い魔力の弾丸が打ち出される。カートリッジがないので散弾にならないそれは、まるでレーザーか何かの様で――まっすぐにテスタロッサのブレス攻撃と正面衝突。衝撃波で周囲の地面が抉れるが、構っている余裕はない。

氷魔法で身体を守ることもせず、俺はただ相殺することだけを考え――そして。

俺の打ち出した一撃は――テスタロッサのブレスを貫通した。

「なんだとッ!?」

素っ頓狂な声を上げるテスタロッサ。

彼女は驚いた様子でサファイアの攻撃を回避しつつ、しかしその瞳に困惑と動揺、悔しさと高揚を浮かべながら俺を見つめて、笑った。

「ははっ、なるほどなァ。道理で姫様が逃げたわけだ」

「……」

「お前、アタシたちを殺そうと思えばいつでも殺せたな? 目的が拘束だったからしなかっただけで。……つまるところお前が最も得意としているのは魔法による戦闘。姫様と組んで襲ってたら、周囲一帯丸ごと吹き飛ばす算段だったろ?」

「さて、どうかな」

とぼけてみるけど正解。

ここで俺が殺されると七規達に危害が及ぶ。

というか彼女たちの帰還の手伝いが出来なくなる。

そうなるぐらいなら、俺は喜んでこの手を汚そう。

「はんっ、気に入らねェ! 気に入らねェし、お前の魔法でアタシの鱗を貫通できるとは思えねェが……まァいい! その強さに免じて、今の魔力がほとんど残ってないお前を見逃して退いてやる」

「……」

うそーん。

何でバレてるの?

実際、俺の魔力はほぼ空。

次の手は記憶を削るつもりだった。

「竜人族ってェのは目が良いんだよ。……っと、んじゃ、あんまり遅くなると姫様に怒られっからそろそろ行くとするぜ。じゃあな、相馬創! 次に会う時はもっともっと楽しい殺し合いをしよう! んでもって――、その後 アタシと結婚しよう(・・・・・・・・・) !!」

「殺し合いなんて……ん? ぁ、え? け、結婚?」

いきなりなんの話?

「アタシはつえー奴が大好きだからなァ! だからそれまでにもっともっと強くなれ! そしたらアタシみたいな美女と結婚できるんだ! やる気も出るだろ~!?」

「……強い奴が好きなら魔王と結婚してろよ」

「あぁ? さっきも言っただろ? アレ(・・) は神話の領域だって。いくら強くても、そう言う対象にはならん。それよりは……相馬創!! お前がイイッ!! 何がイイって若いし成長の余地があるのがイイ!! アタシもそろそろガキを作りたかったんだ!! だからお前を番候補にするッ!!」

「えぇ……」

「くはははっ、じゃーな! 未来の旦那様!!」

そう言ってテスタロッサは、自分勝手な高笑いを上げながら霧の中へと消えていった。

対する俺はというと、フレイム・サーチを使う余裕もないし、追いかけたところで再度戦うことも出来ない為、彼女の気配が消えるのを待ってから大きく息を吐いた。

「……はぁ、疲れた」

これだけ疲れて二人を捕らえることが出来なかった。

代わりに判明したのは敵の戦力が想像以上に強いという事。

俺や他のSランク探索者。或いはレイジレベルのAランク探索者でもない限り、異世界の戦闘員を相手にするのは難しいだろう。

加えてモンスターの存在。

ルナリアとテスタロッサは連れていなかったが、状況から考えてロック・ビートルは彼女たちの手駒。以前のナイトメア・ゴブリンたちを考慮しても、圧倒的な戦力だ。

そして――そんな彼らをも凌駕する『魔王』の存在。

(……神話の領域、ねぇ)

テスタロッサの言葉が脳内を反芻する。

個々人の戦力差。

圧倒的なまでの物量差。

(はぁ……戦争なんかやめて平和に行こうぜ。ラブ&ピースってやっぱり大事だと思うのよ)

そんな泣き言を飲み込んで、俺は軽くスーツの埃を払って六十六階層に帰還するのであった。