軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ep25 お墓参りと夏休み

「挨拶が遅れてすみません。相馬創と申します。お久しぶりですね。水瀬さん」

夜叉の森ダンジョンに向かった数日後。

俺は約束通り水瀬のご両親。

水瀬志保さんと水瀬正二さんの墓参りに来ていた。

「もうすぐお盆なんだし、その時に来ればよかったのに」

お墓の前でしゃがみ手を合わせる俺の隣。

そう呟いたのは七規だった。

麦わら帽子に白のワンピース。

青い空と入道雲を背景に、大変絵になる姿だ。

「もうすぐって言っても半月近くあるし、何よりお盆は家族と過ごす期間だろ? 余所者の俺は邪魔になる」

「未来の家族なのに?」

「ぐいぐい来るなぁ~。仮に未来の家族だとしても今は違うからな。やっぱり遠慮しとくよ」

そう言って立ち上がると、俺は麦わら帽子越しに七規の頭を撫でた。

「それより七規は良いのか? 挨拶しなくて」

「そうだね。それじゃ……お父さん、お母さん。知ってると思うけど、こちら相馬創せんぱい。将来の旦那さんだよ~」

「……」

「……突っ込まないの?」

「家族の会話に口は挟まんよ」

「えへへ、せんぱいのそういうとこかっこよくて好きー!」

「そうかい」

小さく息を吐きつつ思う。

俺もこの後輩が好きだ、と。

そもそも、俺が七規との交際を躊躇していたのは、彼女の内心を全く知らなかったからだ。

何故俺を好きなのか——それが、分らなかった。

だからこそすべてが分かった今……俺も普通に七規が好きだ。

ただ何というか、異性として好きというのとは少し違う。

それより一歩飛び越えた、家族に対する親愛に似ている。

恋愛感情のような、そうでないような。

よく分からない感情。

結果として、俺たちの関係性は変わらないまま。

(それにSランク云々で忙しいしな)

三船町で探索者をしているだけなら問題はなかった。

しかし世界で四人目。

日本初のSランク探索者となれば必然、面倒ごとは増える。

ごたごたに巻き込むのは、望むところではない。

故に。

「終わったよ、せんぱい! 帰りにアイスでも買おー!」

「だな、もうほんと……日に日に暑くなるなぁ~」

七規には申し訳ないけれど、今はまだ先輩後輩の関係性でいられたらと思う。

§

「あ、おかえり」

「おう、シャルロッテさん。アイス食べる?」

「……食べる」

墓参りから帰ると、家の前にシャルロッテさんが居た。

基本的にクラウディアさんの側で魔石式機構の勉強をしている彼女だが、午前中はよく我が家に遊びに来る。

何でもクラウディアさんは午後からじゃないとやる気が出ない体質らしく暇なのだとか。

一般的な勉強も問題ないそうで、暇な彼女は俺の家でゲームをするのにハマっていたという訳だ。

そんな彼女の視線は俺の隣に並んでいた七規の下へ。

「あっ、ななお姉ちゃん」

「シャルちゃんこんにちはー!」

七規も夏休みになってから頻繁に俺の部屋を出入りしている。

都合、シャルロッテさんとはかなり親しくなっていた。

流石のコミュ力と言うべきか。

シャルロッテさんも同性のお姉さんということでよく懐いて見える。

俺に対しては相変わらずつっけんどんであるが、七規や霜月さんとも仲が良い。

疎外感を感じてちょっと寂しいけれど、まぁ十歳そこらの少女が異国の地で楽しそうにしているのなら何よりだ。

二人を家に上げ、冷凍庫からお高めのアイスをプレゼント。

シャルロッテさんは嬉しそうにパクパク。

その後、二人はリビングでゲームを始める。

最近流行りのダンジョン探索RPGだ。

どれだけダンジョン好きなんだよ。

と、当初は思っていた。

しかし挑戦してみるとこれが案外楽しい。

何が楽しいって、魔法やモンスターの特徴など、かなり精密に作られている上に、レベルの概念があることが楽しい。

リアルじゃそういうのないからね。

「わっ、いつの間に後ろに!?」

「ななお姉ちゃん、今回復する!」

そんな二人を横目に、俺は宿題。

夏休みの後半からは、補習が待っている。

噂によると、補習期間中にも宿題が出されるそうなので、今のうちに夏休みの宿題を終わらせておく必要があるのだ。

「せんぱいもやろーよー」

「宿題が終わったらなー」

答えるとぶーぶーと不満を口にする七規。

一方でシャルロッテさんはちらりと俺の宿題を覗き込み——。

「……そこ、間違ってる」

「……え」

「そこ、上から三つ目の問題」

「……分かるの?」

「日本語はほとんど読めない。けど、数学なら、少し」

「……」

「……教えないわよ。面倒くさいし」

「わ、わかってるよ」

ちょっと驚いただけで、別に教えを乞いたいわけではない。

楽しそうに七規と遊ぶ彼女の時間を、奪うのは忍びないし。

なんて考えていると、インターホンがピンポーンと来客を知らせる。

「はーい、今行きまーす」

返事しつつ玄関を開けると、霜月さんが買い物袋を持って立っていた。

「こんにちは、霜月さん」

「おう、こんにちは。ったく、今日もあっついなぁ~」

胸元をぱたぱたさせながら入室。

クーラーの効いた室内に「生き返るぜ~」と顔をほころばせた。

「あれ、二人も来てたのか。こりゃ、食材多めに買っといて良かったな。それじゃ、昼飯食べる人ー」

との呼びかけに応じ、俺、七規、シャルロッテさんが手を上げる。

それを確認してから、霜月さんは「りょーかい」と笑みを浮かべ、調理に取り掛かろうとして——。

「そうだ、これやるよ」

彼女が取り出したのは三つの水鉄砲。

プラスチック製のスーパーなんかでよく見る奴だ。

「これはまた、懐かしいですね」

「くじで当たってさ、うちは子供もいないしシャルロッテちゃんにって思って」

「私に……?」

小首をかしげつつも水鉄砲を受け取るプラチナブロンド。

彼女は興味なさそうな表情を浮かべつつ、しかし手元の水鉄砲をちらちら。

「それじゃ、飯が出来るまで外で遊んでみるか」

「……! し、仕方ないから付き合ってあげる!」

そう言って、俺たち子供組は、水鉄砲片手に外へと飛び出した。

みーんみんみん、蝉の声。

じわじわとうだるような夏の暑さの中、俺たちは水鉄砲を打ち合う。

これしきで涼しくなるほど日本の夏は優しくないが、それでも童心に帰って無邪気に遊ぶのは、なんというかこれ以上ないほど楽しいひと時であった。