軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ep5 平穏が続かない!

突発的に始まった友部さんとの勉強会。

松本さんからの連絡を受けたのが仕事終わりのことだったらしく、彼女は家へと向けていた足をギルドへと変更してくれたのだとか。

「わざわざありがとうございます」とお礼を言うと「暇だったから構わんよ」と帰って来た。

かっこいい。

俺もいつかは言ってみたい台詞だ。

そんな訳で始まった勉強会は——驚くほど順調に進んでいた。

「まったく、何故わからない? ここは先ほどの公式にこの数字を当てはめてだな……」

「あ、なるほど!」

この人教えるのが上手すぎる。

俺が行き詰ると、尋ねる前に察して指摘してくれるし、難しい説明も分かりやすくかみ砕いて教えてくれる。

バカに物を教えるのは難しいと言うし、本当に憧れるな。

それに友部さんは教え上手なだけでなく——。

「こう……ですか?」

「正解だ。やればできるじゃないか」

「ありがとうございます!」

ちゃんと褒めてくれる。

褒められて伸びる子的にはこう言うのとても嬉しい。友部さんは教師なんかも向いていたんじゃないかな、とか思う。

「よし、一度休憩するか」

「わかりました~」

一息つくと、書類仕事をしていた松本さんがコーヒーを入れてくれた。

「二人ともお疲れ様」

「すみません。お仕事中に」

「いいのよ。基本的に魔石売却だけだし、それも水瀬さんにも手伝ってもらってるから、案外手は空いてるのよ。……はい、友部さんも」

「あぁ、ありがとう松本」

現在俺はギルドで勉強をしていた。

流石に友部さんを家に連れ込むのはね……。

かといって、三船町というクソ田舎には他に勉強する場所もなく……必然的に、三船ダンジョンが消えて過疎りに過疎ってるギルドロビーの机を借りていた。

まぁ、同所が過疎ってるのはダンジョンがあった時からだが。

「それにしても、キミは想像以上にバカだったんだな」

「ぐうの音も出ませんね~」

「別に非難している訳じゃない。環境を思えば当然だ。……それに、物覚えは良いし、理解力や思考力も十分。集中力に関してはさすがAランク探索者と言ったところだな」

「いやぁ、それほどでも」

ほんと褒め上手なんだから。

集中力に関しては、モンスターが出てくるまでずっと気を張り詰める事とかダンジョン内ではざらにある。

数時間は集中力を持続させることが出来るだろう。

「この調子なら他のみんなにもすぐ追いつけるさ。いや、それどころかそこそこの大学だって狙えるだろう」

「ほんとですか!?」

「あぁ、とりあえず明日もこの時間でいいか?」

「え? 明日も教えてもらえるんですか!?」

「そのつもりだったが……何か用事が?」

「いえ、俺は大丈夫なんですけど、友部さんの方は仕事とか大丈夫なのかなと」

「私は医者や看護師とは違うからね。急患でもない限り、この時間には終わっている」

「でも、俺が入院してた時は夜でも検診に来てくれてたじゃないですか」

あれはもっと遅い時間だった。

そんな疑問に、友部さんは口元を歪ませると耳元に顔を近付けて——囁いた。

「それはもちろん、キミだけの特別検診さ」

「と、特別……!?」

なんだそのいかがわしい響き。

もしかして、気付かぬうちに友部さんルートに入っていたのか!?

なんてドキドキしていると、松本さんが手にした書類を丸めて友部さんをポンッと叩く。

「こら、いたいけな高校生を揶揄わないでください」

「ははっ、悪い悪い。反応が可愛いかったからつい……な」

「え、からか……え?」

もしかして弄ばれちゃった?

俺の純情、人妻に弄ばれちゃったの?

「すまない、今のは冗談だ。けど、特別なのは本当のこと。キミの場合は怪我の具合が酷かったからね。頻繁に様子を見る必要があったんだ。通常あんな大怪我をする人はいないし、というか死んでるし。そう言う意味では 特別(と・く・べ・つ) だろ?」

「ぐぬぬ」

「勘違いしたかい?」

「しましたよ。男心を弄ぶなんて……ひどいっ」

「はっはっはっ」

「はっはっはっ、じゃないですよ!」

「何はともあれ仕事は問題ないし、家に帰ってもやるのは旦那の食事作り。それに関してもここ最近は忙しいみたいで外食多め……個人的な暇潰しにもキミに勉強を教えるのはちょうどいいのさ」

「そう、なんですか?」

「そうだ。故にキミは気にせず、勉強に集中したまえ」

ニッと笑って頭を撫でてくる友部さん。

何その主人公ムーブ。

俺ってばかなりチョロインだからなでなでされたら惚れちゃうよ? ナデポしちゃうよ?

まぁ、人妻相手なので、惚れたところで叶わぬ恋が確定しているのだが。

「……」

俺は胸中でため息を吐き、勉強を再開した。

§

以降も一時間ほど勉強を続け、午後六時。

松本さんの仕事が終わるのを待ってから、俺たちは解散する運びとなった。

友部さんとはギルドでお別れ。

松本さんの車に揺られて家に帰る。

別に送らなくていいと言ったのだが、近いし気にしないでとのこと。

そうして松本さんとの会話を楽しみながら数分——到着したのは、俺が一人暮らしをしている家だった。

「にしても、ご両親の事思い出したのに、実家の方に戻らなくていいの?」

「そうですね。ぶっちゃけこっちの方が学校に近いですし、引っ越しの作業も面倒ですから。それに、土日にはちゃんと帰って顔見せてますよ」

「そう? まぁ、相馬くんがそれでいいならいいけどね。っと、とうちゃ~く!」

「わざわざありがとうございました」

「いいのいいの、気にしないで。……あ、それと明日以降もギルドで勉強するみたいだけど、別に用が無くてもギルドに来てくれていいからね」

「いいんですか?」

「もちろん、私も相馬くんと話すの好きだし。って言っても、ダンジョンが無くなった今、いつまでギルドが残ってるかは分からないけど……」

小さくため息を吐く松本さん。

通常、ギルドはダンジョンの存在する地域に支部が建てられる。

松本さんの働く三船支部も、その一つだ。

が、ダンジョンが無くなった今、支部がどうなるのかは分からない。

何故ならダンジョンがなくなった事例は、三船ダンジョンを除いて過去三度しか起こっていないから。

その三度の事例も、周辺に別ダンジョンが存在したため、そちら専門の支部に変更しただけだ。

故に、ギルドがいつまで残っているのかは分からない。

「流石に、魔石を全部売却するまでは残ってると思うんだけど……ま、とにかくそんな感じ。それじゃ、また明日~」

「はい、さようなら~」

松本さんに手を振り、俺は自宅へ。

ドアを開けると、中から美味しそうな香りが鼻腔を擽った。

思わずお腹が鳴るこの香りは——。

「ハンバーグ!」

キッチンに顔を出すと、くすんだ金髪の女性がフライパンの上でハンバーグをじゅうじゅう焼いていた。

「お、おかえり主さま」

我が家のお世話係兼コック長、霜月さんである。

「ただいまです。美味しそうですね~」

「だろ~? 得意料理だから期待してくれていいぜ~」

「霜月さんの料理に期待しない日はないですよ。そして期待が外れたこともない!」

「ははっ、嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか。んじゃ、もうすぐできるから手ぇ洗ってこい。んでもってこっちのサラダ、先にテーブルに並べといてくれるか?」

「は~い」

なんだろう、このやり取り。

まるで新婚夫婦の様ではないか。

まぁ……彼女も既婚者なんだけどね。

「ほい」

サラダを手渡す彼女の薬指には、きらりと輝く結婚指輪。すっかり見慣れたアクセサリーである。

悲しいね。

というか相変わらず凄い人妻率だ。

今日の放課後に会った人、全員人妻だ。

知り合いで独身なのは七規と幸坂さんぐらいなものか。

パーティーメンバーである二人を思い浮かべつつ、テーブルにサラダを並べる。

するとすぐにハンバーグも完成し、エプロンを外した霜月さんが持ってくる。

デミグラスソースの掛かった、シンプルにして昔ながらのハンバーグ。いい焼き色で、ソースも香からしてオリジナルっぽい。

これだよこれ。

胸中で一人孤独のグルメ的な独白を零し、着席。

霜月さんも対面に腰掛ける。

最近彼女は我が家で食べることが多い。

友部さんとこの旦那さんと同様、彼女の旦那さんも最近忙しいのだとか。

それで男子高校生と食事とか、いけない予感がマックスだけど、驚くほど何もないのだから俺が気にすることではないか。

「それじゃ、いただきます」

「どうぞ」

ぱくぱく。

「ん~、世界一おいしいです!」

「かかっ、そいつは良かった」

ニヤニヤと満足げに笑う霜月さん。

彼女と一緒にハンバーグに舌鼓を打つ。

あぁ、なんと平穏な日常か。

ナイトメア戦で擦り切れた心が回復するのを感じる。まぁ、戦闘で苦しんだというよりは、ネットの反応でへこんだのだが。

何はともあれ、こんな平穏な日常が続けばいいな、なんてそんなことを思いながら夕食を終え——午後十時。

松本さんから電話がかかってくるのだった。