軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ep65 すべての先に明日はあるか?

地上に帰還した俺たちは、渋谷探索者ギルドで一息を吐く。

今回の一件ではかなり死を間近に感じた探索者も多かったらしく、無事に帰還できたことで安堵の空気感が広がっていた。これで一人でも死人が出ていたらこうも行かなかったので、不幸中の幸いだ。

怪我の酷い探索者たちは病院へと搬送され、治療を受ける。

骨折している俺も当初はそのつもりだったのだが……。

「これまた随分と無理をしたようだな」

「友部さんだって、かなり無理してきてくれたんじゃないんですか?」

「まぁ、疲れたのは確かだな」と答えたのは、我が命の恩人である友部さんだ。夏祭りの医務室で別れて以来、約数時間ぶりの再会となる。

どうやら松本さんに話を聞いて、何か手伝えないかと飛んできてくれたらしい。

「わざわざありがとうございます」

「礼なんていらない。それにどうやら遅かったようだしな」

「そんなことありませんよ。現にこうして怪我を治してくれているじゃないですか」

「そういってもらえると嬉しいよ。ありがとう」

そんなことを話しながら、友部さんに右腕を治してもらう。

他にも細かな傷を負っていたが、こちらも彼女の回復魔法で完治した。

治療が終わると「他の探索者を回復させて来るよ」と言って手を振り、友部さんは背中を向けて歩き出した。相も変わらず格好いい人だ。個人的、憧れてる人ランキングでも常に上位を独占していたりする。好き(直球)。

「にしても……ふぅ。さすがに疲れたな」

ギルドのベンチに腰掛け、背もたれに体重を預ける。

壁掛け時計に視線をやると、時刻は深夜一時を過ぎていた。

(本当に忙しい夜だった)

数時間前まで委員長と夏祭りを巡っていたのが嘘のよう。

ここ数時間の間で、異世界の騎士と戦い、異世界の決闘王と戦い、最悪の神を名乗るクソ女に出会ったかと思えば、ナイトメア・エンジェルロードなんて化け物とも戦った。

ちょっと戦いすぎじゃな~い?

息つく暇もないとはこのことだな。

「あ、見つけました相馬さん」

「これはこれは、宮本さん」

声をかけてきたのは狸原さんの美人秘書の宮本さんだ。

「お疲れのところ申し訳ないのですが、少し着いてきていただいてもかまいませんか? お話がありまして……」

俺は「構いませんよ」と答えて、彼女の後を着いて行く。

案内されたのは、初めてギルドを訪れた際にも案内された一室だった。

扉を開けると――ぱっと笑顔を浮かべたフラウが駆け寄ってくる。

「創! 無事だったか!?」

「あぁ、おかげさまで。バドラクルスに勝てたのはフラウのおかげだ。ありがとう」

感謝すると、彼女は嬉しそうにしっぽを振った。可愛い。

「それにしても、こっちに帰ってきてたんだな。てっきりどこかに身を潜めてるのかと……」

「あぁ、七規と幸坂に手を貸してもらいながら帰ってきた。二人はすぐに創の下に戻っていったが……」

「なるほど、そういうことだったか」

納得していると、彼女の後ろから一人の男性が現れる。

「狸原さん」

「お疲れさまでした、相馬さん。ご無事で何よりです」

「そちらは、これからが忙しそうですけどね」

「そうですね。ですが、できる限りのことはしますよ。あなた方が命を懸けて守り抜いてくれたのですから」

「お願いします。……と、そういえばあれからサドラたちの方はどうなりました?」

「四人の騎士とバドラクルスなる少年は大人しくこちらの指示に従ってくれています。気休めではありますが、今はある地下施設の方へと隔離しております」

気休め、というのは本気を出せばクァンの転移魔法で逃げられるという話だろう。まぁ正直、彼らがもう敵に回ることはないと思うけど。

「問題は山積みですが、今回の一件で異世界のことは完全に露見するでしょう。世界ダンジョン機構も、これで無視はできなくなる。これまでに比べてもっと大々的に、侵略に対する動きがとりやすくなるのは幸いです」

「戦争なんてしたくないですけどね」

「それに関しては同意見ですね。……と、本日はもう遅いのでお二人とも帰っていただいて構いません。もしホテルが必要でしたらこちらで用意しますが?」

「でしたらお願いしてもいいですか?」

流石にこれからフラウを連れて三船町まで帰るのは骨が折れる。

狸原さんがどこかへ電話をかけ始める――と、同時に、部屋の扉が開いて七規と幸坂さんが姿を見せた。

「せんぱい、探したよ~!」

「スマホ、繋がらないから、見つけるのに、時間かかっちゃった」

「すみません。スマホ、たぶんダンジョンの中でなくしてしまって……」

決戦騎士との戦闘をしていた階層。

そこに置いてきた荷物の中にスマホは入っていた。

割と激しく戦ったので、壊れてしまっているかもしれない。

「心配したんだよ。……でも、無事でよかった」

ぽろぽろと大粒の涙をこぼしながら、七規が抱き着いてくる。

傷が治ったとはいえ、彼女には一番ひどい瞬間を見せてしまった。

だから――俺は彼女を抱き返す。

「心配かけてすまない」

抱擁はほんの十秒ほどのこと。

身体を放すと、彼女は少し安心したように笑った。可愛い。

「相馬さん、よければその二人の分も部屋を押さえられますが、どうしますか?」

チラリと幸坂さんに視線を向ける。

一応、俺と七規は高校生で、彼女は大人。

俺たちにとっては保護者のような立ち位置なのだが……。

「そういえば、ホテル、予約、してなかった」

「とのことです」

「分かりました」

急いできてくれたのなら無理もない。

狸原さんは二人の分の部屋も押さえてくれた。

「では、部屋は二つ押さえましたので――」

「やったー! 私せんぱいと一緒の部屋!」

「ま、待て! 年頃の男女が一緒の部屋というのはまずいだろう! こ、ここは一緒に暮らしている私が……!」

喜ぶ七規と、何故か焦るフラウ。

狸原さんの「いえ、大小二つ取ったので男女別々で……」という声も無視して盛り上がる。そんな平和な光景を眺めながら、俺と幸坂さんは苦笑するのだった。

§

――××日後、渋谷ダンジョン。

周囲から焦りの声が聞こえていた。

原因は視界を覆う深い霧。

次の瞬間、隣にいた探索者が倒れる。

「吉瀬さん! ……くそ! 礼司さん気を付けてください! この霧、何かあります!」

「分かってるけど……お、おい清水!」

次々と倒れていく探索者たち。

死んではいない。怪我もしていない。

ただ眠っているだけなのに、叩いてもつねっても目を覚まさない。

「相馬くん! 一度ここを離れるぞ!」

「ですが!」

「俺らまでやられたらそれこそ――」

と、礼司さんの声が途切れる。

まさか、と背筋に悪寒が走り、俺は氷魔法で全員を運び出そうとして……視界がブレた。足元が不安定になり、思わず倒れそうになるのを必死になって堪える。

だが次の瞬間、世界が途切れ――目を覚ますと、キーンコーンカーンコーンとチャイムの音が耳に届いた。

「……あ?」

顔を上げると、俺は見覚えのない廊下にいた。

片側には扉が並び、扉の上には『二年一組』から『二年八組』までの札がかかっている。対面は窓で、外には燦々と照り付ける太陽と快晴の青空が見えた。

「相馬? どうかしたのか?」

誰かが声をかけてくる。ワイシャツを着た中年の男性だ。

……誰だ? こいつは。

いやそうじゃなくて、どこだここは。

「……学校?」

「ははっ、転校初日だし緊張しているのか? でも大丈夫。クラスの奴らはみんな気のいい奴らだからさ」

「転校……」

そう、か……そうだった。

俺は、転校してきたんだ。

「ほんとに大丈夫か?」

「は、はい。昨日、緊張で中々寝付けなかったもので……でも、もう大丈夫です!」

「よし、その意気だ! じゃあ行くぞ!」

と言って男性教諭――これから俺の担任になる先生が扉を開ける。

教室中から視線が飛んでくる中、先生が口を開く。

「今日は転校生を紹介する。……相馬、自己紹介を」

「はい。本日よりこちらの高校に転校してきた相馬創です。以前は田舎町に住んでおり、こちらの生活はまだ慣れないのですが、皆さん仲良くしていただけると幸いです。これからよろしくお願いします」

笑顔を浮かべると、ぱちぱちと拍手が飛んでくる。

そうして、俺の新生活が始まった。