軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ep46 異変

「狸原さん、異世界人と接敵しました」

『特徴を教えてください。フラウさんに聞きます』

俺は手短に三人の騎士服の男女と、半裸の男の特徴を伝える。

すると、その間に一人の探索者が声を荒げた。

「おい、何だよ異世界人って……こんな時にふざけてんのか? っていうかアンタ! 取り残されてた探索者か!? 何でいきなり俺たちを攻撃する!」

声の主は確かBランクの実力者だ。

混乱はしているが取り乱していないのは流石。

それどころか周囲の探索者も明確に警戒心を強めている。

俺とレイジが敵対心を剥き出しにしており、加えて明確な攻撃を仕掛けてきた相手だ。当然と言えば当然だが……しかし、今の問いかけは 悪手(・・) だ。

「なるほど、準備は間に合わないという吸血姫と剣聖の言葉は真実だったようだ。見るからに情報伝達もまともに行えていない。この様子であれば、ここが戦争のフロントラインだということも理解していないのではないか?」

(剣聖……テスタロッサか)

一人納得する一方で、先程怒声を飛ばした探索者が答える。

「戦争? フロントライン? なんの話だ。……あんた、外国の探索者だよな? どこの国の人か知らねぇけど、日本で今の蛮行は見過ごせねぇぜ? それに今は『異変』対応の真っ最中だ。これ以上ふざけた真似しようってんなら、容赦しねぇぞ」

「ふむ、血気盛んだな。……が、ならば気にする必要はない」

サドラは一度言葉を区切ると、両手を広げて宣言した。

「我々こそが、その『異変』とやらで間違いないからな」

次の瞬間、サドラの隣に立っていた金髪に尖った耳が特徴的な女性が魔法を詠唱し、俺たちを囲むように地面が輝きだす。

それは魔法陣。

どこかで見覚えのある形は……間違いない。

――転移魔法陣だ。

と、そこで狸原さんからフラウの言葉が伝えられる。

『相馬さん、気を付けてください。四人のうちの一人――耳の長い女性に関しては、エルフ族と呼ばれる高い魔力を有する種族の可能性があるそうです』

(エルフ……)

狸原さんの忠告が届いた直後、転移魔法陣が作動し――現れたのは夥しいモンスターの軍勢だった。

「こいつら、エンジェル・ポーン……いや、それだけじゃない! ナイトに、見覚えのない個体まで居やがるぞ!」

「っ、レイジ! どうする!?」

米山さんと時雨さんの焦りに満ちた声が聞こえた。

日本において間違いなくトップクラスの実力者である二人だが、焦るのも無理からぬこと。何しろ、エンジェル・ポーンこそCランク指定のモンスターであるが、エンジェル・ナイトは問答無用のSランク指定モンスター。

加えて見覚えのない――おそらくエンジェル・ナイトと同格かそれ以上の個体も散見される。

そんな軍勢が――およそ 二百体(・・・) 。

その内半数以上がエンジェル・ポーンであるが残る二種だけでも百体近い。

Sランク指定のモンスターが百体。

絶望という言葉がこれほど似合う状況もあるまい。

だがしかし、焦る彼ら彼女らに対して、レイジは一切臆した様子なく答える。

「落ち着けお前ら。俺たちならやれる。――戦闘準備」

それだけで米山さんと時雨さんから焦りが消えた。

レイジに対する絶対的な信頼。

パーティーとしての絆を感じる。

他にも富岡さんと沙耶さんも、油断なく刀の柄に手を添えて、自分たちを取り囲む天使の軍勢を睨み付けていた。

上位探索者が落ち着いたことで、それは他の探索者にも伝播する。

まぁ、仮に阿鼻叫喚の地獄絵図になろうとも、 この程度(・・・・) なら俺一人で問題ない。

(それより気にするべきは、さっきから俺を見つめている四人……いや、三人か?)

目の前にいる異世界人は四人。

その内、同じ騎士の制服を着たサドラ、耳の尖ったエルフの女、そして桃色の髪の少女の三人だけが俺を睨みつけている。一人だけ仲間外れの様に上半身裸の青年は、俺ではなくその隣――レイジたちへと視線を向けていた。

(おかしいな、視線は 四つ(・・) 感じた気がしたが……まぁいい。それよりも気になるのは『何故、ナイトメア種がいないのか』だな)

三船ダンジョンに現れた『亜獣の国』はすべてがナイトメア種だった。

しかし、見渡す限り同所に漆黒のモンスターは存在しない。

(ナイトメア種にしなかった……いや、出来なかったと見るべきか?)

思い起こせば、『亜獣の国』を率いていたギュスターヴはモンスターを『ナイトメア種にした』と言っていた。

つまり、彼は意図的にモンスターをナイトメア種にする術を持っていたのだろう。

一方で、目の前の彼らは違う。

莫大な労力がかかるのか、或いはギュスターヴにしかできない芸当だったのか。

それは定かではないが、仮に後者だったならば、『亜獣の国』が第一陣に選ばれたのも頷ける。それほどまでに、ナイトメア種の軍勢は強すぎた。

(何はともあれ、居ないのならそれに越したことはない)

俺は静かに魔法の詠唱を開始。

先ほどサドラがそうしたように『アブソリュート・ゼロ』で周囲の天使を一掃しようとして――薄ら笑いを浮かべるサドラと目が合った。

(気付かれた!?)

驚く俺に、サドラは口端を持ち上げる。

「やめた方がいい。彼らを助けたいのならな」

そう言って背後から連れてきたのは三人の探索者の姿だった。

全員ロープで拘束されている。

間違いない、連絡の取れていなかった探索者だろう。

「ここへ向かう道中で見つけてね。保護しておいた。我々の要求を呑むのであれば、解放することもやぶさかではない」

「要求、ですか? まさかモンスターに黙って蹂躙されろとでも仰るつもりでしょうか?」

「それが叶うのなら願ってもない事だが、無理なのは理解している。故に、我々からの要求は一つ」

そうしてサドラが一度言葉を区切った瞬間、彼我のちょうど真ん中に魔法陣が浮かび上がった。

「相馬創、貴様の相手は我々が行う。場所を移してやるからその魔法陣に乗れ」

先ほども見たその形は、転移魔法陣で間違いない。

通常、転移魔法陣は膨大な魔力を必要とする上に、予め双方向に仕掛けておく必要がある。つまり、この場でこうして話をしていることも全て、相手の想定内ということだ。

(あの数の天使を大量に召喚しただけでも異常なのに、その上すべて想定内とか……やってられないな)

胸中で泣き言を漏らしつつ、俺は小さく息を吐いてから答える。

「……それは、俺一人で貴方たち四人を相手にしろということでしょうか?」

「いいや、貴様の相手は我ら『 決戦騎士団(・・・・・) 』の三人だけだ。こいつには別のことをしてもらう。……が、これは貴様にとって 理想的(・・・) だろう?」

『決戦騎士団』――知らない単語であるが、十中八九サドラと同じ騎士服を着た三人のことだろう。

(いや、それより今の 言い方(・・・) ……『理想的』って、どういうつもりだ?)

俺は彼の言葉を咀嚼する。

言葉の裏に隠れた本心を探る。

そして……確かにこの誘いが 理想的(・・・) であることに気が付いた。

俺は了承の意を返そうとして――。

「口車に乗ってはいけませんよ、相馬さん。これは明らかに罠です」

肩を掴んで待ったをかけたのは富岡さんだった。

「分かってはいます。しかし――」

「人質が気がかりなのは理解しています。が、合理的に考えれば貴方を失う方が全体的な損失が大きい」

富岡さんの言葉は正論だ。

罠であるのなら、万が一にも勝ち目はない。

罠とはそういうものだ。

だけど、人質を見捨ててこの場に残ったとしても 何の意味もない(・・・・・・・) 。

だって――お前たちが邪魔なんだから。

(……っ!? 待て、今俺は何を考えた?)

どこまでも上から目線で、傲岸不遜な他者を見下す思考回路。

渋谷ダンジョンに足を踏み入れた時とは異なる、冷酷な考え方。

困惑していると、サドラの嘲笑が耳に届く。

「ははっ、足手纏いが多いと大変だなぁ? 相馬創」

その言葉で確信した。

やはりサドラはこう言いたいのだ。

『俺たちの罠にかかるか、それとも周りが邪魔で全力を出せないこの場所で戦うか。どちらを選ぶ?』と。

サドラは強い。こうして侵略してきた時点で、実力は確か。

当然、その仲間も強者だろう。

仮にテスタロッサほどの実力者じゃなかったとしても、全力を出さずに勝つことは不可能。殺すにしても殺さないにしても、こんな―― 足手纏い(・・・・) で溢れる環境ではやり合えない。

(……っ、くそ! さっきから何なんだ!)

思考が歪む。

心が崩れる。

だが、構っている暇もない。

俺は小さく息を吐くと、富岡さんの手を振り払った。

「すみません。ですが彼らの言う通りなんですよ。足手纏い抱えて戦える程、楽な相手じゃありません。人質を解放したうえで俺一人で相手できるなら、これ以上ないぐらい理想的な状況なんです」

「……っ」

煽るように言うと、背後の探索者たちから怒りの視線が向けられる。

『何様だ』『ガキの癖に』『調子に乗るな』――そんな視線。

だけど、俺が日本最強のSランクなのは紛れもない事実な訳で、誰も声を出せない。

一方で、俺のやりたいことを理解したのか富岡さんとレイジは後悔に顔を歪めていた。まぁ、この二人がいるのならこの場は大丈夫か。

「決まりだな。転移魔法陣に乗れ」

「お先にどうぞ。一人魔法陣に乗った後、閉じられるのは面倒なので」

「ふん、それぐらいの思考力はあるか」

サドラが片手を上げると、魔法使いの女と桃色の髪の少女が魔法陣に乗って、転移していった。

そして俺とサドラも転移魔法陣乗ろうとして――背後から聞きなれた声が耳に届く。

「待って、相馬っち!」

振り返ると、白木が不安そうな表情で俺を見つめていた。

その周りには友利や江渡、そしてのの猫の姿も見える。

「別に、そんな表情しなくても直ぐに戻って来る。だからそれまでみんなと協力して堪えてくれ。そしたら――俺が 守ってやる(・・・・・) 」

「……え?」

何故か困惑の白木。

何が理解できなかったのか。

なんて思っていると、今度は愛しき人であるのの猫が口を開いた。

「ししょ――相馬くん?」

「大丈夫ですよ、猫ちゃん。直ぐに帰って来て俺が守りますから。だから 無理しないで(・・・・・・) くださいね。 女の子なんですから(・・・・・・・・・) 」

安心させるように笑みを浮かべると、彼女は白木同様に、否――白木以上に困惑し、まるで気味の悪い物を見たかのように顔を歪ませながら、呟いた。

「…………だれ?」

「? 何を言っているんですか? 貴方の後方腕組面師匠、相馬創ですよ。それじゃあ行ってきます。……礼司さん、富岡さん。あとはよろしくお願いします」

そう言って一歩踏み出すと、サドラは人質にしていた探索者三人を解放。

俺たちは同時に魔法陣に乗るのだった。