軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ep29 侵略

翌朝、両親から気まずい表情で起こされた。

「別に創の決めることだからとやかく言うつもりはないが、水瀬さんところのお嬢さんは良いのか?」

とは父さんの言葉。

フラウとは本当に何もない、と弁明したがどこまで響いたかは不明である。

良かったね七規。

俺が答えを出す前に外堀が埋まり切りそうだよ。

以前霜月さんからも同じことを言われたので、俺の周辺人物はだいたい同じことを思っていそうだ。

別に嫌ではないし、美少女な後輩と関係を噂されるのはむしろ喜ばしいことだが……何というか、もう少し俺の気持ちを整理させてほしい。

特に最近は、自分でも人間の感情が分からなくなることが多い。

(……?)

まぁいいか。

小さく息を吐きつつ、俺はフラウと並んで朝食を摂る。

本日は彼女の好きなトースト。

ニコニコ笑顔でむしゃむしゃしてるのとても可愛い。

因みに両親は俺たちを起こすと、早々に出かけて行った。

何でも月末に行われる夏祭り――俺が委員長に誘われた例の祭りのお手伝いだとか。

時計を見ると朝の八時過ぎだったのでご苦労なことだ。

個人的にこういうイベント事の手伝いとか面倒に思うタイプだけど、二人は——特に母さんは積極的で、様々なところに顔を出す。何というか陽キャって感じだ。

そんな訳で二人きりの朝食。

静かさをごまかすためにテレビを付けると——。

『土曜日恒例――【今週のトピック】のコーナー! 今週もさまざまなことがありましたが、中でも今一番話題なのはあの一件! そう、先日Sランク探索者に認定された相馬創さんが夜叉の森ダンジョンにて初のダンジョン配信を行い、その実力を見せつけました!』

そうして流れるのは先日の認定式の映像。

流石に配信の映像を勝手に切り抜いて使うということは無かったらしい。

次いでフリップを使い、配信内で討伐したモンスターやランクが説明され、元ダンジョン探索者の肩書を持つ里中という男に話を振る。

誰だいキミは。

お呼びじゃないんだよ。

男よりも道長さんを出せ、道長さんを。

ダンジョン専門家の道長女史を出すんだ。

俺の愛してやまない道長さんはどこに行ったんだ。

以前ネットで調べた時は、干された云々という書き込みを見たが本当なのだろうか。

ちょっと流石に許せない。金は腐るほどあるし、テレビ局を買い取って彼女のための情報番組を作ってやろうか。

「何を考えているんだ?」

「金の使い道」

「へー」

自分から聞いてきたくせにマジで興味なさそう。

実際興味ないんだろうけど。

『元探索者という視点から言わせてもらうと、これぐらいはやって当たり前かなというのが所感ですね。仮にもSランク探索者であるなら、出来て当然。他のAランク探索者――それこそ米山さんや時雨さん、富岡さんと言った面々は魔法特化という訳ではありませんので何とも言えませんが、礼司さんでも相馬少年と同じことは出来たかなと』

『ですが、それは十分に凄い事ですよね? 礼司さん何かはまさに日本を代表する探索者な訳ですし』

『確かに。相馬少年が行った内容は十二分に凄い事です。私などでは一生かかっても成しえない事です。しかしながら、それがSランク相当の実力かと言うと、懐疑的にならざるを得ませんね。私は以前ロシアに向かった際、ルキーチ・カラシニコフ氏の戦闘術をちらりとではありますが見る機会がありました。その時の衝撃と比べると、彼の戦闘術は見劣りすると言わざるを得ません』

『なるほど……』

なるほど……、じゃないんだが?

大体なんだこの里中とかいう男は!

一見褒めているように見えて、思いっきり貶してるじゃないか。

実際ルキーチ・カラシニコフの戦闘と比べると見劣りするのかどうかは知らないけど、凄いって思ったなら素直に褒めてくれたらいいじゃん!

何でわざわざネガティブなこと言うの!?

レイジの時はわっしょいわっしょい持ち上げてたじゃん!

(まぁ、こんなおっさんに褒められなくても美少女や美女がいっぱい褒めてくれるからいいけどね)

なんて思いつつTwitterでエゴサすると、意外と里中に対する批判ツイートが多くてビックリ。

早速、配信の効果が出たのか。

『続いて、その裏で起こった出来事ですが……なんと渋谷ダンジョンにて『異変』が発生しました。これを解決したのはBランク探索者パーティー『夜銀』で、対象モンスターは無事に討伐。一方で、前回発生した『異変』から一か月という短いスパンで発生したことで、その頻度の高さに注目が集まっております。こちら里中さんはどうお考えになりますか?』

『頻度が高くなることはままあります。『異変』に関しては完全に偶然の産物ですので、それこそ連日出現することも可能性の上では存在します。現状討伐できているというのであれば問題視する必要もないと思われますので、周辺住民の皆さんは特に心配することなく平穏に過ごしてください』

……まぁ、言いたいことはあるけどいいや。

里中氏はあくまでも客観的視点で話しているし、何より一般人が不安がらないようにという最も重要なことを伝えている。

ならばそれでいい。

実際、『異変』が頻発することはあるし。

かつての三船ダンジョンで発生していた『異変』は十中八九、あのギュスターヴというモノクルの男の差し金だろうが、『異変』の全てがそうな訳では無い。

里中氏の言った通り、全く関係ないダンジョンでも頻発することはあった。

十年ほど前、エジプトのとあるダンジョンで頻発していた『異変』。その対処のためにダンジョンに潜り続けて経験を積み重ねたのがSランク探索者のアサド・モハメドだったりする。

「難しい顔をしているが、どうした? 『てれび』が変なことを言っていたのか?」

「いや、ちょっと渋谷ダンジョンで色々あったみたいでな」

なんて世間話のつもりで口にすると、フラウはふいに食事の手を止めた。

「創、一つ聞いて欲しいことがある」

「聞いて欲しいこと?」

なんじゃらほいと首をかしげると、彼女は真剣な面持ちで続けた。

「以前、私がこの世界に来る前のことは話したよな? 森の中で気が付き、遺跡にあった空間の裂け目に飛び込んだ、と」

「あぁ」

「その遺跡――正確には森神ファナトスの遺跡なのだが、実はそこに到着した際、私は意味不明な言語を口にする二人組を目撃した。一人は真っ白な装束に身を包んだ青い髪の女。もう一人は褐色の肌に銀髪の軍帽をかぶった女だ」

「……」

その特徴に、俺は絶句。

間違いない。

フラウが目撃したのは――ルナリアとテスタロッサ。

「私は特にその両名を気にしていなかった。何を言っていたのか理解できなかったし、記憶を失ってそれどころじゃなかった。しかし、ここ最近『てれび』や『ぱそこん』を通して耳にする生の日本語を聞いていて思い出したのだが……その両名が口にしていたのは日本語で間違いない、と思う」

「……」

言われて見れば、俺はルナリアやテスタロッサが言語理解の魔道具を使っていると思っていたが、実物を見た訳ではない。

――まさか、日本語を覚えて口にしていたのか?

(待て、深く考えていなかったが、ギュスターヴも確か――)

俺はスマホに残っていた動画を再生し……。

(いや、違う。 動画の言葉(・・・・・) を理解できている時点で、奴が話していたのも日本語で間違いないんだ)

或いは、俺の知らない翻訳の魔道具でもあるのかもしれないが、ルナリアとテスタロッサが日本語を口にしていたというフラウの証言を信じれば、その可能性は低い。

「……創? 大丈夫か?」

「あ、あぁ。少し驚いただけで……」

「……まさか、その二人は知り合いか?」

「そう言えば、詳しい特徴は言ってなかったか。……フラウがやってくる数日前、こちらの世界に侵略――そいつら自身は情報収集って言ってたけど、とにかく攻め込んできたのがその二人。ルナリアとテスタロッサだ」

「……っ」

大きく目を見開くフラウ。

次いで彼女は慌てた様子で立ちあがる。

「す、すまない! そんな重要な連中なら、もっと早く伝えておけば……」

謝罪を口にするフラウであるが、それは少々酷という物。

何しろ彼女は記憶を失い、この世界に来たばかりだったのだから。

「いや、大丈夫だ。それより……今、この瞬間でその二人について切り出したってことは――」

「あぁ、そうだ。短い会話だったが、二人の会話の中に『しぶやだんじょん』という単語が確かに含まれていたからだ」

「……因みに、何を話していたのかは覚えているか?」

「少しだが……。あの時は記憶がないことに気付いた直後で、少しでも情報を得ようと必死になっていたからな。ただ、それでも意味を理解していないから『音』のみの伝達になるが……聞くか?」

「頼む」

するとフラウは魔道具を外し、理解できない言語を『音』として羅列していく。

「『つぎ、ねらうの、も、このだんじょん、か』――今のが、褐色の女の言葉だ」

(次狙うのもこのダンジョンか、か……このダンジョンっていうと夜叉の森ダンジョンで間違いないだろう)

思考する俺に対しフラウは「そして」と続けてもう一人の口にした『音』を並べる。

「『まさか、きょうてき、さける、のじゃ』」

(『のじゃ』……これはルナリアで間違いないな)

特徴的な言葉を思い出しつつ、続くフラウの言葉に耳を澄ませる。

「『つぎ、せめるは、さいあくのかみの、ひざもと。たしか――そうそう、しぶやだんじょん、といった、のじゃ』――以上が、白い服の女の言葉。私は敵かもしれないと隠れてやり過ごしたから、これ以上は聞けなかったのだが……創?」

言語理解の魔道具を装着し直し、問うてくるフラウ。

小首をかしげる仕草が非常にラブリーだが、そんなことを気にしている余裕はなかった。

「フラウ、すぐに出るから準備してくれ」

「は、創? 一体どうしたんだ。せめて先ほど私が何を言ったのかだけでも教えてくれ」

心配げな瞳が俺を射抜く。

それほどまでに俺が焦っているように見えたのだろう。

それもそうだ。急がなければならないが、だからといって手順を飛ばしても意味はない。

俺は頬を軽くはたいて「悪い」と謝罪すると、フラウを見つめ返して答えた。

「フラウが耳にしたのは、次に奴らが仕掛けてくる場所に関する情報だ」

「なっ!? ということは、まさか――」

「あぁ、奴らが次に狙うのは『渋谷ダンジョン』。――つまり、この国の首都がある東京に攻め込むつもりだ」