作品タイトル不明
70.~VS.モンスター・ビビア・ハルノア その⑤ 覚醒モンスター・勇者ビビアに敗北する勇者パーティー三人
70.~VS.モンスター・ビビア・ハルノア その⑤ 覚醒モンスター・勇者ビビアに敗北する勇者パーティー三人
~ビビア視点~
ぐ、ぐぎぎっ……。
ちくしょうっ……!
じぐじょうっ……!
うっ……! えぐぅっ……!
俺は悔し涙が止まらない。
俺の体はプララの高出力の魔術にさらされ、今やその命は風前の灯火であった。
しかも、
「ふふふ。人類の盾たる俺がいる限り、例えどんなモンスターであっても恐るるに足らんわ! 無敵! 最強! 筋肉! がーはっはっはっは!」
「私にかかればどんな敵であっても楽勝ですわ! やれやれ、本気をついつい出してしまいましたわ」
「あたしもだよ~。きゃはは、ちょっとやりすぎちゃったじゃん。無駄にでかいから張り切りすぎちゃった! ま、あたしの実力からしたら、どんな敵だってザコなんだけどね~、キャピ☆」
人類の至宝であり、魔王を倒す希望そのものである俺は……、あろうことか仲間だと信じていたパーティーメンバーに裏切られたのだ!
(許せねえ許せねえ許せねえ許せねえ許せねえ許せねえ許せねえ許せねえ許せねえ許せねえ許せねえ許せねえ許せねえ許せねえ許せねえ……)
「ア"-ア"-ア"-ア"-ア"-ア"-ア"-ア"-ア"-ア"-ア"-ア"-ア"-ア"-ア"-ア"-ア"-ア"-ア"-ア"-ア"-ア"-ア"-ア"-ア"-ア"-ア"-ア"-ア"-ア"-ア"-ア"-ア"-ア"-ア"-ア"-ア"-ア"-ア"-ア"-ア"-ア"-ア"-ア"-ア"-ア"-ア"-ア"-ア"-ア"-ア"-ア"-ア"-ア"-」
だが口からは言葉にならない空気の漏れる音しか出ない。
「ふ、まだ生きているのか、あの勇者の成れの果ては。哀れな姿だな。どれ、この俺の筋肉でエンディングと行こうではないか」
「ええ、ひと思いにとどめをさしてあげましょう。ですが、やはりここは私が。ここで活躍して今までの失態をチャラにしないとですわっ……!」
「あっ、二人は休んどいてよ~! アタシがとどめさすからさ! うん、ちゃんと勇者パーティーだった履歴を過去のものにして、新しい英雄として名前を売んなきゃだし! ほらどけよ!」
聞くに 堪(た) えない 喧噪(けんそう) が俺の耳に届く。
かつての仲間の俺を、ただの獲物として舌なめずりする声。
それはあまりにも醜悪な光景。人類の悪を凝縮したかのような汚泥のごときもの。
いや、汚物そのもの。
だから、俺は思わず祈った。
(ああ、誰か……誰でもいい……。あいつらをぶっ殺せるなら、何でもいい……。だから、誰か……)
「ダレ"カ"……タ"ス"ケ"テ"……ク"レ"」
「ふむ、よかろう。勇者ビビア・ハルノアよ」
声が、聞こえた。
(ワルダーク宰相?)
目の前にはなぜかワルダーク宰相がいた。
(だが、おかしいな)
俺は心の中で首を傾げた。
なぜなら、俺は魔法で吹き飛ばされて空中を舞っている最中だ。ただの人間であるワルダーク宰相が、そんな俺の目の前を、フワフワと浮いているのはおかしい。
だが、宰相は俺の疑問など無視して、当たり前のように目の前を浮遊しながら、話を続ける。
「魔人ポセイドンの器となりえる邪悪な魂を持つものよ。我の神核として融合し、最強の存在として人類を 蹂躙(じゅうりん) する災害となるが良い」
邪悪な心? 誰のことだ……?
神核? 何を言って……?
「ラッカライの成長。聖槍ブリューナクの覚醒。それらは真の賢者アリアケによって 成(な) された。そなたが覚醒させる予定であったが、結果は同じ。かの聖具はいかなる封印をも破る光輝の槍。そなたがブリューナクに貫かれた時、持っていた魔人の封印石の結界も同時に解かれた。そして今は、魔人はそなたの中で安定している。頃合いだ、さあ一つになろうではないか」
(ひとつ? ひとつになる? 何を言って……)
「案ずるな。そなたは単に、魔王の配下たる我、四魔公の一人になるだけだ」
四魔公? 一体……。
だが、そんな意味の分からない言葉を最後に……。
俺の意識は「プツリ」と途絶えたのだった。
ただ一つだけわかったのは。
この俺が魔族へと融合し、世界を蹂躙できるだけの力を手に入れたという、その事実だけだった。
~アリアケ視点~
「何度も言わせるな、あれは俺の獲物だ!」
「何を言いますの! 筋肉バカは引っ込んでいてくださいます!?」
「そうだよそうだよ! ってか、マジここで挽回しとかねーとヤベーじゃん! だからアタシに譲ってじゃん!」
モンスター・ビビアを追い詰めたはずの三人は、なぜか唐突に言い争いを始めた。
(馬鹿なのか! 三流……いや、四流でもやらんぞ!?)
俺すらもギョッとさせた三人を、俺は厳しく叱責する。
「獲物を前に舌なめずりなど何をしている!? 戦いの基本すら忘れたか!?」
だが、
「はははは! 何を言っているアリアケ! 奴が何をしようと俺の防御を突破できる可能性などない!」
「ほほほほほほ! このデリア様にかかれば、どんなモンスターでも 一捻(ひとひね) りですわ。焦る必要など皆無! 絶無ぅ! なのですわ!」
「あたしってば超有能な万能魔法使いだし~。魔王だって楽勝なタイプっていうか~☆」
その欲にまみれたかのような醜悪な表情に、俺の背筋すら凍らせる。まるで人類の汚物そのもの……。
「くそっ!? まるで話が通じない!? ビビアの攻撃で知能低下の超デバフがかかっているのか!?」
そんな効果はなかったはずなのに。
「もういい! コレット! ビビアをたおすん……」
しかし、
「誰を、倒すと? 真の賢者アリアケ・ミハマよ」
瀕死状態だったはずのモンスター・ビビア・ハルノアは、浮遊するかのようにゆっくりと大地に降りてきたのである。
その姿は元の人間の状態に戻っていて、傷一つない。
「旦那様! こやつはっ……!」
「アリアケさん。結界強化しますね……」
「先生、あれはもはや別人……」
「ああ、その通りだ。こいつは……」
コレット、アリシア、ラッカライと言葉をかわす。
だが、信じられないことに、勇者パーティーの三人はまだ言い争いをしていた。
あるわけないが……。まさか、目の前のビビアから感じる魔力の波動が分からないほど、知能が低下してしまっているのだろうか。
そして、あろうことか、
「わーっはっはっはっは! 俺の力で、ただの人間の状態に戻ったようだな! なら死ねえええええええ!」
「おーっほっほっほっほ! 私の人生の 糧(かて) に成り果てなさい! おーっほっほっほっほ」
「勇者ばいばーい! 楽しかったよ☆ だからまた来世で会おうねーん♡」
三人は何の戦術も、考えもなしに、ビビアに突撃したのである。
「馬鹿者どもが! 初心者冒険者だって、もっとマシな戦いをするぞっ!?」
三人のあまりの愚かさに、俺すらも驚愕で動きを止めてしまった。
あらゆる難関にひるまぬ俺の動きを止めたのだから、彼らを逆にほめるべきかもしれない。
世界一の愚か者どもと……。そして。
「邪魔だ。ゴミは視界から疾く去ね」
ビビアが手を軽く振るう。
「うぎゃあああああああああああああああああああああああああ!?」
「ほんげええええええええええええええええええええええええええ!?」
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああ!?」
油断の限りをつくしていた三人は、その衝撃波を顔面やみぞおちに思いっきり叩き込まれ、悶絶しながらコロシアムの場外まで楽々と吹き飛ばされていった。
「ああ、一瞬でやられたぞ!?」
「何やってんだよ! 勇者パーティーのメンバーどもは!」
「本当だよ。いかにアリアケ様のバックアップがあっても、しょせんは勇者パーティーのメンバーたちだな……」
「アリアケ様の率いる真なる賢者パーティー・メンバーは本当にすごいのに、それと比べて勇者パーティー・メンバーは格落ちも 甚(はなは) だしい! 本当に勇者パーティー・メンバーはダメだな!」
民衆を脅威から守っているアリシアやコレットたちへの称賛が上がる一方で、勇者パーティーメンバーの三人には雑魚だ、無能だと、そんな落胆と罵倒の声が渦巻く。
ただ、民衆の意見はもっともだが、少し手厳しすぎるだろう。
俺がじきじきに率いる賢者パーティー・メンバーと、勇者パーティー・メンバーを比べること自体に、そもそも無理があるのだから。
ただ、そんなことは大衆には関係のないことであろうし、俺の率いる賢者パーティー・メンバーとは対照的に、勇者パーティー・メンバーに埋められないほどの実力差と言う名の『格差』があることは本当のことだ。
そういう意味で、彼ら大衆の意見は正鵠を射てはいた……。
だが、今はそんな、俺たちと比較されてしまった、哀れな勇者パーティー・メンバーたちの心配をしている暇はない。
「さあ、真の 御前試合(最終戦) を始めようではないか、アリアケ・ミハマよ。このビビア・ハルノアと世界の命運を……。いや……」
男は冷徹で傲然とした視線でこちらを見ると、
「魔王配下、四魔公ワルダークと、この世界の覇権を競おうではないか」
ビビアの姿を借りて、その男は、かすかな笑みを浮かべたのであった。