軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

54.御前試合にラッカライは誘われる

54.御前試合にラッカライは誘われる

~アリアケ視点~

俺とコレットは海洋都市『ベルタ』に向かっていた。

当初はオールティの町を目指し、海を渡るために寄る予定だった。

しかし、王都から突然使者が寄越され、勇者パーティーとの『御前試合』の依頼があったのだ。

試合は2対2で行われる。

何でも、王族や大衆たちの前で戦うことで、民の心を慰撫し、また魔族へ対抗する士気を高めることが目的らしい。

俺自身は世俗からは引退した身であるし、もはや王族や大衆たちが自分たちの力で未来を切り開いていくことを期待する立場だ。

ただ、

(ふっ)

つい頬が緩む。俺もまだまだ、だ。

俺から巣立った頼りない アイツら(勇者パーティー) がどれほど成長したのか。

教師としては出来損ないの生徒ほど可愛いものだ。

気付けば、俺はその依頼を受けるとともに、彼らを久しぶりに指導してやろうと思ったわけである。

そうすることで、頼りないアイツらも、また一歩、牛歩のごとくではあろうが、成長できるのだから。

導き手とは、不出来な者にこそ、寛容であるべきなのだろう。

そう感慨深く思ったのである。

さて、そんな俺の目の前にいる少女は、聖槍の使い手ラッカライだ。

海洋都市『ベルタ』に向かう途中で立ち寄ったこの小さな町で、悪さを働いていた野盗を壊滅させようと赴いたとき、山中で偶然出会った少女である。

彼女が勇者パーティーに弟子入りし、どんな目に遭ったのか、そして追放されたのかについて詳細は聞いた。

そのうえで俺は彼女をカフェの外に連れ出し、広い場所に到着するや、おもむろに口を開いたのである。

「ラッカライ。君さえ良ければ、俺と一緒に御前試合に出ないか?」

俺の突然の提案に、彼女は「え?」と最初何を言われたのか分からない風であったが、意味を理解するとすぐにシュンとした表情になった。

「アリアケさんと肩を並べて戦えるなんて本当にうれしいです。でも、ボクなんかじゃ、アリアケさんの足を引っ張るだけですよ……」

そう悲しそうに言った。

だが、

「はははは、そんなことはありえないと思うぞ?」

俺は明るく笑う。そして、

「ラッカライ、カフェでも言ったろう? 君には才能がある。そのことを俺は見抜いてしまっているんだぞ?」

そう断言したのである。

ラッカライは頬を染めて一瞬嬉しそうにする。だが、すぐにまた肩を落とし、

「いえ、やっぱり無いと思います。だってボク、勇者様の 究極的終局乱舞(ロンドミア・ワルツ) でボロボロにされて負かされましたし……」

「ふむ、ではその技を一度見せてもらえないか?」

俺のその提案に、

「え? いいですけど」

ラッカライはあっさりと頷く。そして、

「聖槍版ですが……。いきます、ロンドミア・ワルツ! です!」

槍が踊るかのごとく舞った。

「やっぱり、勇者様みたいにスピードが出ないです……」

槍を振るった後、ラッカライが落ち込んだ様子で言う。

だが、俺はニヤリと笑い、

「ほらな?」

「え?」

ラッカライは、分からない、という表情をする。

「一度見ただけで再現してしまえただろう?」

「へ?」

まだ分かっていないようだ。やれやれ。

「そんなことは、誰にも出来ないことなんだ。それが君の才能だ。ラッカライ」

ラッカライはビックリし、混乱した様子で、

「才能? このボクに? でも、どういうこと?」

子供らしくあたふたとした。

「まあ、もしかしたら、勇者パーティには、動体視力がいいだけ、だとか、目がいいから回避が得意だとか言われて追放されたかもしれないな。しかし、それは愚かな間違いだ」

「で、でも、じゃあ、ボク才能って?」

「君の才能、それはな……」

「は、はいっ……」

彼女は固唾をごくりとのんだ。

「『見稽古』だよ」

「へ? み、見稽古?」

彼女はあっけにとられた様子を見せてから、大きくホッと息を吐いた。

「なーんだ」という声が聞こえてきそうな反応だ。

「ははは、『何だ、ただの見稽古か』と思ったか? ま、言葉の通りなら平凡そうに聞こえるか」

見ることで相手の技を盗むという、一見些細な才能だからな。

俺は微笑む。しかし、はっきりとした口調で告げた。

「だが、見るだけで相手の 性質(くせ) を理解し、攻撃方法や防御方法を習得する技術は、相手にとってとてつもない脅威だ。なぜなら、敵の本気の攻撃を一度受けて尚、生還したのなら、次は対策を立てて挑むことが出来る。それは、 その相手には(・・・・・・) 絶対に負けること(・・・・・・・・) がないということだ(・・・・・・・・・) 」

俺の言葉にラッカライはハッとした表情になる。

「そ、そっか。確かに一度見て覚えた攻撃なら、何が欠点かも手に取る様に分かる!」

そう言ってから、更に気づいたとばかりに手を打つと、

「じゃ、じゃあ。勇者パーティーから追放される時に、メンバー全員から攻撃を受けたボクは、今度戦ったら勇者様たちみんなに勝てちゃう?」

そう首を傾げながら呟いたのだった。

「は、ははは……。ま、まあ、さすがに勇者パーティーも本気など出しているはずもないだろうから、そう簡単にはいかないとは思うがな。……う、うん、さすがに、な」

俺は柄にもなく自信なさげに言った。

「そ、そうですよね。さすがに仮にも弟子相手に全力を出すような大人げない真似するわけありませんよね……。まさか本気だったはずがありませんね」

ははははは、と二人で笑う。

「でも、もし万が一そんなことがあったとしたら、御前試合では、ボクが勇者様たちに欠点とか弱点を色々と教えてあげるって事になるのかな……? けど、そんなことあるわけないよね」

彼女が何か呟いていたが、小さな声でよく聞こえなかった。

ともかく話を戻すとしよう。

「ま、君を突然、御前試合に誘ったのはそういうわけだ。勇者パーティーを知る君なら、いい勝負になると思ったわけだ。俺も上に立つ者として アイツら(勇者パーティー) を指導はするが……。ただ、一方で『同輩』の君と戦ってもらうことで、あいつらも別の意味で学ぶことが出来るだろう」

俺はそう言うと、

「不出来な奴らだからこそ、こうして色々な形で手間をかけてやらないとなぁ」

俺はしみじみとそう言ったのである。

だが、その言葉になぜかラッカライが頬を膨らませたのだった。

「……そっか、不出来なのも得になることがあるんですね……。不出来だからこそ、アリアケさんにここまで面倒をみてもらえるんですから……。不出来なことが羨ましいなんて……嫉妬しちゃうなんて……」

ふむ、よく分からないが、何やらラッカライには思うところがあったようだ。ブツブツと言っている。

「……あれ、そういえば・・・。同輩って?」

ラッカライが突然気づいたように言った。

俺は苦笑しながら、

「俺はもう引退した身ではあるが、聖槍の担い手である君が求めるなら、道中、君を弟子として指導しようと思っている。どうだ?」

そう提案する。

「は、はい! 宜しくお願いします! アリアケ先生! ボクの方からお願いしようと思っていました!」

「そうか」

フッ。俺は微笑む。

彼女も嬉しそうに微笑んだ。

武の名門ケルブルグ家。

その末姫が聖槍に選定されたことは知っていた。

その末姫が偶然とはいえ、こうして俺の元にやってくる。

やれやれ、俺はため息を吐く。

分かりやすいものだ。

運命がまたしても、俺を中心に加速し出そうとしているのだろう。

今回は自業自得とはいえ、世界はどうしても俺を中心へと据えたがる。

俺はそんな事実に肩をすくめつつ、新しい弟子、聖槍ブリューナクの担い手ラッカライの鍛錬プランを考え始めるのであった。