作品タイトル不明
245.大賢者による防衛線 後編
245.大賢者による防衛線 後編
ビビアの覚悟を無駄にするつもりはない。
俺はすぐに行動を開始する。
フェンリルには遠距離からブレスを吐いて来るドラゴンたちの相手をしてもらうが、100匹はさすがに多い。
それを見越してビビアは囮になると言ったのだ。
「囮役は頼んだぞ! ビビア!!」
「は、はぁ!? 誰もそんなこと言っちゃっ……!」
「スキル使用! ≪挑発≫を付与!!」
その瞬間、
ボン!!!!!
という音を立てて、ビビアの髪の毛が真っ赤でトゲトゲなヘアスタイルとなり、無駄に凶悪なオーラがあふれ出る。
ビビアのマントも無駄に重力を無視するようにひるがえり、嫌でも目にとめる様相に変身した。
それを目にしたドラゴンのうちの半分が、その自分たちを舐めた挑発的な恰好が我慢ならないとばかりに、ビビアへと殺到してくる!!
『キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』
「う、うわああああああああああああ!? な、なんで俺の方に!??!?!? クソどもが! 空飛ぶいきがりトカゲの雑魚助のくせに! この最強勇者ビビア様にたてつくんじゃねーよ! おとなしく地面を這ってやがれえ!!!」
自分の姿がどんな風なのか見えていないビビアは、突然襲撃してきたドラゴンたちから距離を取る。
だが、さすがだ。
役割は忘れていない。
ビビアは大急ぎで後退しながら、ドラゴンたち相手に口汚く 罵(のの) しったのだ。それによって、挑発の効果を更に増幅させようとしているのだろう。
……だが、それにしても凄い効果だな。
「せいぜい釣れるのは10体程度かと思ったが……凄いな。どうしてだろう?」
俺は首を傾げつつ、
「ふむ、やはりビビアが意識的に聞くに堪えない罵声を発したりして、敵を引きつけてくれているからか」
俺は納得して、感心した。
戦場をコントロールする才能は、何も俺のように万能というだけではないということがよく分かる。
「あいつのような、知略を用いた戦い方もあるのだなぁ」
「いえ、いつもあんな感じだと思いますが……」
隣のフェンリルが何かぼそっと呟いてから聖獣の姿へと変身した。
そして、たちまち、遠距離から攻撃しようとしているドラゴンの元へと肉薄する。
彼女もブレスを放つつもりなのだ。
あちらは彼女に任せておいて大丈夫だろう。
おかげでこちらに集中出来る。
「よし、ビビア、お前のおかげで敵戦力の分断に成功した! この隙に一掃するぞ!!」
『ギシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』
「ひぎゃあああああああああああああああああああ!?」
「おっと、≪無敵≫付与」
50体からなるドラゴンたちがちょうど一斉にブレスをビビアへ発射したところだった。
山をも溶かすブレスを一身に浴びて、ビビアが阿鼻叫喚の悲鳴を上げる。
が、
「ふ、ふひいいい! ふひひいいい!!」
「ふ、甘いなドラゴンども。初級勇者パーティーを舐めないでもらおう」
ビビアは健在であった。
むしろ鼻息荒く武者震いをしながらたたずんでいる。地面は融解して、クレーターが出来ており、その中心にて、だが。
彼のドラゴン50体を前に一歩も退かない姿勢が鮮明に見えた。
だが、それにしても剣くらい抜いたらいいとは思うのだが……。
「自分は盾なのだという心意気の現れなのだろうな」
俺は微笑む。
三十四重障壁作戦のために、自分が魔法使いたちの盾となり、攻撃をさせないことこそが、今作戦の成否を握るということをよく理解しているのだろう。
とはいえ、心意気は買うが、攻撃をしなくては相手を倒すことが出来ないのも事実。
「よし、行くぞ! ビビア! 次のブレスまで10秒はある!!」
俺はクレーターの中心から動かないビビアに声を掛けた。
「い、嫌だぁ!?」
「だが、もう≪無敵≫は切れているぞ? 攻撃しないと死ぬが……」
「は、早く引き揚げろ!?」
「ふ、了解だ!」
あれだけのブレスをくらっても戦闘意欲が高いことに感心する。
そして、
「空を飛んでもらってもいいが。お前にはこっちの方がいいだろう。スキル≪地形操作≫!」
「あ、ああああああああああああああああああああああああ!!!!」
『ドゴゴッゴオゴオオオオオオオオオオン!!!!』
轟音とともに、大地が脈動して、周囲一帯にとげとげしい針のような岩が何十とそそり立つ。
クレーターから生えた一本にビビアは押し上げられ、それを足場に穴から脱出した。
と、同時に、
『ギ、ギシャアアアアアアアアアアアアアアアア!?』
俺の作った鋭い岩場はドラゴンたちの周囲にも生えて、一瞬ではあるが身動きを封じる!
「ビビア! その足場を使ってドラゴンたちを駆逐しろ! ちなみに落ちたら死ぬから気を付けるんだぞ! スキル≪竜殺し≫を再度、初級勇者ビビアに付与!!!」
「う、うおおおおおおおおおおおおおおおお!!! くそったれがああああああああああああああああ!!!! 後で覚えてろよアリアケぁぁあああああああああああああああああああ!!!!」
彼は勇猛に叫びながらドラゴンたちに肉薄していく。
まさに死をも恐れぬ行軍。
そして、
「あああああああああああああ!!!!!!!! 究極的終局乱舞(ロンドミア・ワルツ) あああああああああ!」
まるでやけくそにすら聞こえる気合の入った、勇者固有の必殺技を連続で放つ!!
『ギ、ギシャアアアアアアアアアアアアアアアア!??!?!』
風よりも早く岩場を駆け抜け、致死の一撃を連続で繰り出すビビアの聖剣によって、ドラゴンたちはまるで虫か何かのように大地へと落下してゆく。
「おお、凄いな! あっち(フェンリル) も決着がつきそうじゃし。さすが勇者パーティーである!」
隣にやって来たナイアが笑いながら言った。
ああ、と俺は頷きながら、
「俺のスキルで大幅に増強された聖剣による攻撃とはいえ、ビビアの完全な状況判断が無ければこうもうまく一掃することはできなかっただろう」
そう言ってやはり微笑み返のだった。
「あ、うーん、まぁそうじゃな。うむ、まぁアリアケのそういう視点も斬新で良いのかもしれん!」
「?」
俺は首を傾げる。と、そこへ。
「ひい、ひい……お、終わったぞ、はひ、はひ。ばたん」
疲労困憊といった様子のビビアが戻ってきた。
さすがに50体はきつかったのだろう。
同時に、
「こちらも終わりました」
フェンリルも戻ってきた。
ビビアに比べると特に疲労した様子はないが、さすがに返り血まではかわせなかったのか、顔が汚れていた。
そのことを指摘すると、
「ええ、そうですね。汚れています。ですが困りました。ハンカチをもっていませんので」
そう言って、目を閉じて、顔を「ん」と少し突き出してきた。
時々、汚れているときに顔を拭いているので、そういう意味だろう。
ただ、
「すまない、俺の持ってるのも今の戦闘で少し汚れたみたいでな。誰かので代わりに……」
「それでいいです」
「いや、しかし汚れて」
「い・い・ん・で・す」
そう言って、更にズイと顔を突き出してきた。
「えーっと、本当にいいのか?」
「はい。むしろ、はい」
彼女はポーカーフェイスなので感情が読めないが、まぁ、「いい」と言っているものはいいんだろう。
そう思って、彼女の顔についた返り血をぬぐった。
なぜか隣でナイアがニヤニヤと笑っていた。
「なんで笑っているんだ?」
「にゅふふ。何でもない。これは我の楽しみであるから秘密である!」
「?」
ふーむ、よく分からんが、まぁご機嫌そうなので放っておこう。
さて、
「とりあえずこれで第3の魔王には専念出来るかな?」
そう人心地つこうとした、その時であった。
「た、大変です!!!」
伝令兵が顔を真っ青にして、冥王ナイアの元へ駆けて来たのである。
そして驚愕の言葉を口にした。