作品タイトル不明
239.ナイアにからかわれて顔を赤らめるフェンリルさん
239.ナイアにからかわれて顔を赤らめるフェンリルさん
~フェンリル視点~
今日は冥王ナイア様に、国内の状況を報告に来ていた。相変わらず官吏たちは忙しそうである。
だが、人類の命運を、まだ諦めていないということだ。
地母神ナンムが死んだことで一時的に絶望感が蔓延した滅亡種人類王国であった。
しかし、幸いながらアリアケ様の活躍によって徐々にそのショックから立ち上がりつつある。
魔王イヴスティトルの因子によって汚染されたモンスターの襲撃は続いており、まともに他の国……例えば獣人族やエルフたちとの交流はできない状況に変化はない。
だが、彼という救世主が一人いるということが、人類の希望となっているのだ。
アリアケ様おひとりの力で、こうも雰囲気が変わるとはな。
私は彼の顔を思い浮かべて、少し口元を緩めたのだった。
「良い表情である! 萌えであるな! 良きかな! さすが我が従僕である。思い人を想って、知らず知らずのうちに唇を綻ばす。まことに素晴らしい! 萌え! であるな! 特に普段武人っぽい少女が可憐に微笑む様は永久保存したい気持ちでいっぱいである!!」
「……」
いつの間にかナイア様がいた。
そして、意味の分からないことを、唾を飛ばしながら力説していた。
ナイア様は人類種を滅亡から守る、まさに英雄であるが、時折意味不明なお方である。
「ナイア様、本日は街の様子などを報告に来たのですが」
「うむ、そなたの大好きなアリアケの活躍を 惚気(のろけ) に来たというわけじゃな!? 良かろう! その惚気話、聞こうではないか」
「違います」
私は心を冷え切らせて言う。瞳も絶対零度である。絶対服従を誓っているが、表情のコントロールまでは難しい。
だが、ナイア様はますますニヤニヤとした笑みを浮かべる。
回れ右をしてダッシュで離脱しようか?
いや、この御方はその瞬間目の前に瞬間移動して来るだろう。
さっきだって、明らかに気配はなかったのだ。
それはともかく、
「ほほーん、惚気ではないというのか、ほほーん。じゃが、内容のほとんどにアリアケが関わっておるのじゃろ~?」
「それは、そうですが……」
「ほーら、やっぱり~」
「何がやっぱりなのですか……」
私は嘆息する。
「英雄が活躍するのは当たり前です」
「そうじゃな、そうじゃな」
「だから、私がアリアケ様の行動を克明に観察し、報告することに他意はありません」
「その通り、その通り」
「ただそれは、彼の働きが素晴らしいうえに、目を離せない活躍をする時があるからです」
「わっしょい、わっしょい!」
「ナイア様!」
「うおっと」
ナイア様は「わっはっはっは」と笑ってから、
「じゃが、そなたがそこまで入れ込むのは珍しいじゃろ?」
と言った。
「別に入れ込んでなどおりません。ただ、あの方は強いだけではなく、本当に色々なことを考え、見えておられる。優しいだけではなく厳しさも。それが少し好ましいと思うだけです」
「……」
「ナイア様?」
急に黙ったので気分を害してしまったか? と思った。
だが、
「くぁ~、マジではないか、マジではないか。修行にしか興味のなかったあのフェンリルがなぁ。いやはや、聞いてる我の方が恥ずいものなのじゃな、恋バナというのは」
そう言いながらパタパタと自分を仰いでいた。
「ナイア様……も結構ウブなのですね……」
「あ、うん。恋愛とかしたことないから……。ちょっと今度教えてくれん?」
「だから別に恋をしてるわけではありません」
「頑固じゃなー。ちなみに、最近アリアケのかっこよかったと思ったシーンは何じゃ?」
「かっこいい? 別に……そういう目では見ていませんので……」
私は言下に否定する。
ちょっと耳が熱いが、気のせいであろう。
「じゃあ、かっこ悪いシーンを教えてみよ」
私は考える。
初級勇者ビビアならば100くらいかっこ悪いシーンを思いつく。
だが、同時にその横でそのビビアをフォローするアリアケ様が思い出された。
全体を見渡しながらも、しっかりと頼りない勇者をフォローする彼の姿は輝いていた。
「さすがアリアケ様……」
「あ、これは重症じゃな」
「い、いえ。違います。かっこ悪いのが隣にいるせいで相対的にかっこよく思っただけです」
そう言いながらも、一緒に食事をした時のことなんかを思い出した。
彼はこんな不愛想な私にも公平に接してくれる。
私が強い言葉を使っても、彼の返事はいつも柔らかく包み込んでくれるようだ。
あと細かいところで紳士的だった。
戦闘が終わった時に汚れた私の顔にハンカチを当ててくれたりする。
汚れるのには慣れているから、最初は余計なこととしか思わなかったのだが。
今はそれがないと落ち着かない。
ケガがないか聞いてくれるのも、なんだかムズがゆいから当初は嫌だった。
今はやっぱり、それがないとそわそわとする。
彼のパーティーにいることで、今までにない充足感を得ている気がする。
でも、
「別になんとも思ってません」
「そんなけ長い物思いしておいて、その結論はないのではないか!? まぁいいか、必要な情報もとれたし」
「?」
今の話に重要な内容が含まれていただろうか?
「わはは、こっちの話じゃよ。未来に備えぬといかんからな!」
それは冥王として職責の話。
でも、私はなぜか、ナイア様がもっと未来を見るような瞳をされているように思った。
ルビーのような、深紅の瞳。
あるいは私が生まれた、地獄に蠢く炎のような色。
あるいは……。
「では他の情報も聞くとしようかな。私室で聞こう。書類がたまっておるのでな。付いて来るが良い」
「はい」
私はナイア様の後に続いて歩き出す。
地獄から召喚されてはや1年。
地獄の番犬と謳われた私を圧倒した存在に従い、私は今日も人について学ぶ。
「うむうむ愛も学んでいて我は嬉しい!」
「心を読まないで頂けますか?」
だが、目の前の 人(ナイア様) のことだけは、他の人間と違うところが多すぎて、いまだに理解できないのだった。