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作品タイトル不明

236.地母神ナンムからの告別 後編

236.地母神ナンムからの告別 後編

『我が仔どもたちよ……』

「おお!」「ナンム様がお話になられたぞ!」「地母神様! どうか我らを見捨てないでください!」

連れて来た数百の兵士たちが浮足立つ。

それはそうだろう。

何せ自分たちが信奉している神が目の前に顕現しているのだ。

そして、地母神とは豊穣や誕生を司る、まさに『母』としての象徴的意味合いをあわせもつ。

だから、彼らがナンム神に慈悲を期待し、自分たちを見捨てることを思いとどまってくれることを、こい願う気持ちはよく理解できた。

だが、

『我がこうして姿を見せたのは、この地を去るため。これまで我を信仰し、尽くしてくれたことを母は嬉しく思う。しかし、我はあなたたちを捨てる以外に、あなたたちを救う方策を見出すことが出来なかった』

「見捨てることが救うですって!? どういう意味ですか!?」

兵士たちが悲鳴のように問いかけた。

『我は地母神。あなたたちの命を守るとともに、命を刈り取る存在。我が存在は今や星が欠け、■■■■■による■■■■■■によって、終末の性質が偏在しつつある』

なぜか途中の声が聞き取れない。

「何て言ってるかわかんねえぞ! はっきりしゃべりやがれぃ!」

空気を読まずにビビアが叫ぶ。

兵士たちが眉をひそめたが、彼に関わっている場合ではないのでとりあえず無視される。

フェンリルが淡々とした調子で、

「無礼者は私の腹の中で静かにさせておくか」

と、人の姿のまま、牙を見せながら言った。

「じょ、冗談だよ。ははは……」

ビビアが俺の後ろに隠れる。

「うむ、我にも聞き取れぬかったが、恐らく神にのみ解釈できる概念なのであろう。何せ神だからな!」

ナイアはナイアで、一人納得したように言った。

神にのみ理解できる概念だから、人には聞き取れないというのは、ありうる話だ。

しかし、

(ふむ、本当にそうだろうか?)

俺は何となく違和感を覚える。

根拠はない。

ただ、これまで幾多の経験を積んできた歴戦の兵としての。

いや、賢者としての勘とでもいおうか……。

そんな俺たちのやりとりをしているうちにも、地母神ナンムの言葉は続いて行く。

『やはり■■■■■■によって■■■■■のようだ。このような最期になることを許せ。愛し仔たちよ。あなたたちの行く末の安寧を願っている。さようなら』

「そんな!」「お、お待ちください!」「何か私たちに過ちがあったようなら直します! だからなにとぞっ……!」

兵士たちの。

いや。

民としての。ただ神を信仰するただ一人の人間として、彼らは叫んだ。

しかし、

『■■■■ではない。もう手遅れだ』

そうナンムが 宣(のたま) うのと同時に、

ピシッ!!

神の体躯から激しく何かが割れるような音が鳴り響いた。

見れば、徐々に足元が石のように灰色となり、それが徐々に体の上方へと広がる。

その石化した部分に亀裂が徐々に入って行くのだ。

「地母神様!?」「お、お救いせねば!? だが、どうやって」「ああ、なんてことだ!!」

兵士たちから絶望の声が上がった。

同時に、ナイアも悲鳴を漏らす。

「おお、なんということだ。我としたことが迂闊であった! よりにもよって兵士たちに神の死ぬ場面を見せてしまうとは!」

彼女は唇を噛みながら言った。

「お前は地母神を倒しに来たんじゃなかったのか?」

「無論、そのつもりであった。神殺しも辞さぬ覚悟でな! だが、これは違うではないか!」

ナイアは大きな声で言う。

兵士たちにも聞こるほどのはっきりとした声で。

「『人が神を捨てる』のと、『神が人を捨てる』のとでは、全く意味が異なる! これは明らかに後者である! 神が絶望し、人を捨てたようにしか見えぬではないか! これでは! これでは!」

彼女は悲鳴のように宣う。

「滅亡種人類王国はもたぬぞ!!!!」

それは民たちの絶望をはっきりとした言葉にした、恐ろしい事実の宣告のように響き渡ったのだった。

そう。

これはそういうことなのだ。

神から捨てられた人々が抱く感情は一つしかない。

すなわち『絶望』。

ぎりぎり保ってきた人類の滅亡と存続の天秤が、一気に傾くほどの出来事を、冥王ナイアは看破していたのである。