軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

232.魔王イヴスティトルの独白と大賢者に課されし謎

232.魔王イヴスティトルの独白と大賢者に課されし謎

魔王イヴスティトルは、その醜悪な巨躯を玉座から離すと、一気にこちらに間合いを詰めるように跳躍した。と、同時に、周囲にたかっていた、人体ほどの大きさのある蝙蝠……。いや、蝙蝠に見えていた、人体と虫が合体したような奇妙なモンスターをこちらへ飛来させる!

「雑魚を何体連れて来たってなぁ! この勇者様の敵じゃねえぜえ! おらぁ! うんぎゃああああああああああ!?」

威勢の良い啖呵を切る、先陣を切る、そして雑魚モンスターに吹き飛ばされて体中を泥まみれにするという、一連の流れをビビアが体現した。

「ビビア! 勇気があるのは結構だが、蛮勇とはき違えるな! 下手したら今ので死んでいたぞ!」

「ひい!? しょ、しょんな! 俺が雑魚ごときに負けるはずがぁ!? あ、あえて魔王は避けて、かっこいい姿を見せてやろうと雑魚を一掃しようとしたってのにぃいいい!?」

「確かに露払いは必要だが、その蝙蝠のような敵、一体一体がやはりA級レベルだ! 俺の支援は必須なのは明らかだ! 俺の指示を待て!」

「ぐぎぃ!? 当たり前のように命令すんじゃねえ!」

ビビアが威勢の良い鬨の声を上げる。まだまだ意気軒昂なようだ。さすがだな。

と、フェンリルも淡々とした様子で。

「相手戦力という、貴重な情報は得られた。下級勇者にしてはよくやった」

「てめえはてめえで、憐れみの目線で褒めるんじゃねえ! フェンリルぅうううう!!」

こんな感じで一見言い争いのようだが、あくまで緊迫感のある中で意見交換をしているのだ。

俺もビビアも、そしてフェンリルも冒険のプロ。

まさか感情的に言葉をぶつけ合うような愚行はおかさない。

現に、俺たちは魔王より離れて俺たちに襲い掛かる蝙蝠モンスターを迎撃していった。

「ひいいい! べ、別に頼りになんかしていないけどよ! し、支援はまだかよお!」

「フェンリルが先だ」

「はあああああああ!? 幼馴染でリーダーの俺を優先しろよ! い、いや! しろよ下さい!!」

「彼女の方が小回りがきくんだ。それに、そう急くな。遅れてもお前の取り分が減る分じゃない。魔王は残しておいてやる」

「ち、ちがっ……!」

ビビアが何か言いかけるが、それどこではない。

魔王と勇者パーティーの戦闘なのだ。

それは、ゼロコンマ数秒で生死の決まる神話に語られる大戦ということだ。

それに、

「≪スピードダウン≫≪攻撃力低下≫≪スチール成功率減少≫≪飛行モンスター被ダメアップ」

敵モンスターの能力値を大幅に削ることを優先する。

その方が、勇者パーティー全体が有利になるからな。

「はあああああああああああああああああああああああ!!!!」

フェンリルが持ち前のスピードで、フィールド上を縦横無尽に駆け巡り、岸壁をまるで地面のように自在に走り抜け、天井に爪を立ててつかまったかと思えば、次の瞬間には大地へと重力を利用した強力な斬撃を放つ。

『ギイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!??!?!?』

数十いた奇妙な蝙蝠型のモンスターは塵に還り、他の個体らも一時的に怯んだ様子を見せた。

魔王への道程が開けた。

「いまだ! 行け! 勇者ビビアよ! 魔王にその聖剣の一撃を喰らわせてやれ!」

「ひいいいいい! 嫌だ! 嫌だ! 雑魚でさえあんなにつえーのに! 魔王になんか勝てる訳ねえ!」

なぜかビビアが怯えた様子を露骨に演技する。

俺は思わず言った。

「馬鹿! 魔王イヴスティトルに『油断』を誘うスキルは効くはずがない! 下級モンスターではないんだぞ!」

狙いは悪くないが、さすがにSSSクラスの魔王に効くスキルではないはずだ。

しかし、

「なんと愚かで脆弱な存在であろうか。見るに堪えぬ醜悪さだな、勇者とやら。イヴの因子を与えても、腐り果て、灰になるほどのポテンシャルしか持たぬ、下らぬ個体だ」

完全に見下げ果て、格下相手であることを確信したような、せせら笑うような声音を上げる。

「さ、さすがだな……。まさか魔王にまでスキルを及ぼすとは。俺を驚かすほど成長したか、ビビア……」

俺は思わず脱帽し、弟子の成長を称賛した。

「いや、あれはスキルではなく、魔王にすら呆れられてしまうほどレベルが低い証明なんじゃ……」

露払いを終えたフェンリルが、一旦後退して来て、何ごとかを呟いている。

が、アイテムを渡して迅速に回復してもらうほうが先だ。

「ポーションだ。で、何か言ったか?」

「は~、別に何でもない。それより奴が死にそうだぞ」

おっとしまった。

せっかくビビアが渾身の演技で魔王の油断を誘ったのに、無駄にするところだった。

「まずは貴様から葬ってやろう。価値なき勇者ビビアよ!」

「ひ、ひいいいいいいい、ど、どうしてだよおおお!?!??」

本当に堂に入った演技だ。

まるで演技じゃないみたいに。

と、その時、魔王が魔力を集中しだした。

その魔力は奇怪な形をした口蓋に集中しており、それに惹かれるように、残っていた蝙蝠たちが魔王の口元に集まり出す。

どんどん蝙蝠たちは溶けて、その魔力へと変換されて行く。

放たれればフィールド全体を覆うほどの魔力が放出されるほどの致死性の一撃だ。しかも、その魔力量はどうやら、このフィールドを致死性の魔力で満たし尽くし、一撃でこちらが死ななくとも、徐々に死に追いやる熱量をほこっているように見えた。

「終わりだ」

魔王が飛び出た目玉を醜悪にうごめかせながら、ニヤリと嗤った気がした。

早い!

だが!

「それはこちらも同じだ! 油断して大技を放とうとして隙が出来たな、魔王よ! さあ行け、下級勇者ビビア! 大賢者アリアケの支援の元、そして、アリアケ王の名の元に、魔王イヴスティトルを打倒することを命ずる!」

俺はそう言いながら、多重スキルを詠唱した!

≪聖魔力アップ≫

≪クリティカル威力アップ(超)≫

≪攻撃力アップ(超)≫

≪人類の脅威殲滅(超)≫

「ひいいいいいい、な、なんか知んねええけど、大技使おうとしてやがるっ……! お、俺だけでも、こ、こんなところからは逃れてっ……!」

ふっ。俺は微笑む。

「ああ、分かっている。こんな遠距離の場所ではお前の攻撃は当たらない! 一気に間合いを詰めて決めるぞ! それにお前だけを戦わせるつもりはない! フェンリル!」

俺は少女の名を呼ぶと共に、最強のスキルの一つを使用する。

≪決戦付与≫!

「了解した! アリアケ殿! 私の本来の力を見せよう!! ワオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!」

メキメキメキという音を立てて、可愛らしい少女姿のフェンリルの口から牙が生える。爪が伸びる。

小さな体は大きく膨張し、美しいブルーの光沢を持つ、聖獣フェンリルの姿へと変貌した。

そして、あんぐりと口を開けると、

「ひいいいいいいいいいいいい! 前門の魔王!? 後門の狼ぃいいいい!? ぎ、ぎゃあああああああああああああああああ! 喰われたああああああああああああああああ!? し、死んだあああああああああああああああ!!!」

ビビアにかぶりついた。

「アリアケ殿は背に!」

「ああ、了解だ」

俺たち勇者パーティーは、フェンリルにつかまると、一気に魔王イヴスティトルへと接近する!

「まさか、このための隙を作るために、あのような情けない演技をしていたというのか!?」

「当然だ! 下級勇者ビビアは不出来とは言え、俺の弟子! 魔王相手に恐怖の感情など持つ訳がないだろう!」

「ガウガウ……(そうかなぁ……)」

「うわああああああああああああん!!!!!」

魔王や俺たちの言葉にまじり、ビビアの鬨の声が轟く。気合が入り過ぎてまるで悲鳴だな。俺は苦笑する。

と、同時に、

「俺たちの勝ちだ、魔王イヴスティトル」

俺の落ち着いた声に、魔王も死期を悟った様子で呟いた。

「我が役割もここまでか……」

「う、うわあああああああああああああああああああああああああああんんんんん!!! デリア―!!! デリアー!!!」

ポテンシャルを解放した聖獣フェンリルの突進の力を利用し、ビビアはあえて聖剣を振りかぶるでもなく、ただ、前方へと『突き』のような形で剣を伸ばした。

腰が引けて、出来るだけ接近しないように手を伸ばしただけのように見えるかもしれないが、そんなわけあるまい。

魔力でパンパンに膨れ上がった魔王に対し、フェンリルの突進力を完全に利用する形になる聖剣ラングリスの一突きは、山をも穿つであろう。

だから、この一見素人がするが如き『突き』こそが正解なのだ。

グシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!」

魔王の断末魔が響く。

俺のスキルによって強化された聖剣の力によって、魔王が塵に還って行く。

「ひいいいい!? 死にたくなっ……って、勝った!? 俺、生きてんのか!? ぐ、ぐはははははははは! どうだ、思い知ったか、この最強勇者ビビア様のッ……!!!!!」

何事かをビビアがフェンリルの口の中で叫んでいるが、俺の注意は塵に還ろうとしている魔王の口元に集中していた。

なぜなら、

「邪神様……申し訳ありま……せん……。ですが……既に因子は十分に蒔かれ……ました……。人類を……する……第一条件『孤独』は……達成して……」

(邪神?)

俺は微かな違和感を胸に抱く。

「あーっはっっはっはっは! 勝った! 俺の勝利だ! 見てたか、この俺の活躍を!!!」

目の前の勝利に歓喜して叫んでいる不出来な弟子を微笑ましく思いながら、俺は魔王の放った言葉の持つ意味を考えるのだった。

(なぜここで邪神が出てくるんだ? 出てくるはずがないのに。なぜなら……)

俺の頭脳は目まぐるしく動く。

(今、星神イシスと痛み分けし、次元の狭間で傷を癒しているアレは偽神のはずなのだから)

俺はそんな 微(かす) かだが、確かな違和感を胸に抱いたのだった。