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作品タイトル不明

198.ジャルメルの望まぬ変性と新しき神の誕生

198.ジャルメルの望まぬ変性と新しき神の誕生

~教主ジャルメル視点~

「くそ! くそ! くそ! くそ! 奴らめ! あの役立たずの勇者ビビアどもめ! そして、何よりあのっ……!!」

儂はあのすました面をした若造の顔を思い起こして、とうとう怒髪天をついた。

「アリアケ・ミハマめええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!」

絶叫が轟く。

「私の本殿で唾を飛ばすな。首をはねるぞ?」

ワイズ神様がそうおっしゃった。

「ぐぎっ!? は、ははぁ! も、申し訳ありませぬ……」

無論、教主たる儂を殺すなど、考えてはいらっしゃらないだろう。だが、威厳あるその声と態度に平伏せざるを得ない。

その代わり、儂の怒りは、もう一方の役立たずへと向かう。

「ルギ! この下劣な魔族めが! せっかく神より頂いた ソーマ(神の雫) によって、強化してやったというのに、アリアケどもを倒すことに失敗するとは! この責任、どうとるつもりなのじゃ! この役立たずの疫病神め!!」

儂は怒号を吐きながら、ワイズ神様から少し離れた場所にたたずむルギを罵倒する。

そして、それだけでは気が済まなかったので、

「何とか言ったらどうなのじゃ! このゴミ虫が!!」

『パン!!!』

おもいっきり平手打ちを喰らわせてやった。

だが、なんの反応も示さない。

泣き出したり、許しを乞うかと思いきや、平然としている。それがまた気に食わない。

「こ、このっ……!」

「教主よ。この者の体は神の器となる依り代。乱暴に扱うのは感心するところではないぞ」

「むがっ……」

もう一発、お見舞いしようとしたところで、神からもっともな指摘を受ける。

そうだ。

落ち着け。

こいつはもうすぐ儂にその体を提供することになるのだ。

「し、失礼しました。 ソーマ(神の雫) によって、こやつの体は神の器へと変性する。そこに儂が融合し、意識をのっとることによって、人と魔の両方の力をあわせもった最強の神が誕生するのでしたな」

「意識は一つしか残らぬゆえ、融合という表現が正しいかは私は知らん。だが、おおむねその理解の通りだろう」

「おお、素晴らしい! ルギの今の力を手に入れ、世界を支配して、人類を頂点とした世界を必ずや作り出しましょう。ぐひひひ、そうすれば権力も、金も、女も、全て儂のものにっ……!」

「その意思の強さを私は買っている。して、ルギよ、体の調子はどうだ? 痛むところはないか?」

ワイズ神は、まるで母が子を心配するような口調でたずねた。そのうえ、

「はい、大丈夫そうです」

「そうか。だいぶ馴染んだようだな」

気のせいだろうか、少し微笑まれように思われた。無論、そんなわけはないのだが。儂にはそのような笑みを浮かべられたことすらないのだから。

「神の器として、お前は既に完成している。ゆえに」

案の定、神の器としての進行具合の確認だった。

ならば!

「おお! では早速儂にその体を明け渡してもらいましょう! 何事も早い方がいい! 儂が神へ至ることで、一日でも早くこの世界に秩序と安寧をもたらすことができるのですからな!」

儂の声に、神はいつもの威厳を取り戻し、

「そうだな。頃合いだろう。ルギも良いか? 意識を永久に失うことになっても」

「はい。構いません」

最後の確認にも、ルギは従順に応える。

ワイズ神様は洗脳は不要だとおっしゃったが、まさしくその通りだ。

この教主ジャルメル様に体を明け渡すことを嫌がるなど、虫けらが考えるはずもない。

むしろ、この儂にその体を神の器として使われることを光栄に思うに違いないのだ。

さすがワイズ神様はそのあたりをよくお分かりでいて下さる。

「では、神化の儀を始める。といっても、これは私の血肉を媒介するだけのことだ。少し痛むが我慢せよ」

ワイズ神様は自らの胸に唐突に腕を突き立てられた。

鮮血が飛ぶ。

「な、何を!?」

「先ほど説明した通りだが?」

神はそう言いながら、ドクドクと動く『何か』を取り出した。

「し、心臓!?」

「神核だ」

神はそう言うと、その神核を二つに裂いた。それを、

「では移植する。裂いたこれは再び一つになろう。その力によって貴様らは同一の個体として融合する。と、同時に神核を得た神の器は、正式に神として降誕するというわけだ。あとは好きに世界を救うが良い」

「ぐげええええ??!!!」

「うっ……」

儂は悲鳴を上げる。

ルギはやせ我慢をしているのか、少し声をもらした程度だ。

それがまた癪に障るが、この後のことを思うと、唇を激しくゆがめて笑みを浮かべた。

もうすぐだ!

もうすぐだ!!

もうすぐ、儂が神に!

念願の神に!

これで世界は儂のものだ!!

すべての富、権力! いいや、そんなちっぽけなものでは済まさぬ! 世界のすべての崇拝は儂が一身に浴びることじゃろう!

そして永久に、この世界をあまねく支配し、この儂に従う者だけを生かす理想郷を作るのだ!

儂をこんなつまらぬ地位に追いやった王は土下座をさせたうえで首をねじ切ってやる!

儂にさからった貴族どもや、見下げて来たや面どもを見返すのじゃ!

大賢者などと言われて調子にのっているアリアケ・ミハマも永久に続く拷問にかけよう

ぐは!

ぐははははあははははは……!

はははははは……!

はぁ……はぁ……はぁ……。

な、なんじゃろう。

息をするのも疲れる。

思考をしようとしても、具体的な考えが浮かんでもこぼれていく。

何より、何かを考えようとする気力自体が削れていっているような。

「か、神よ……。こ、これは一体……ふげ!?」

儂がしゃべろうとした瞬間、口が無理やり閉じられて、その拍子に舌を噛み切ってしまう。

「ふんぎぃ!? ふんぎいいいいいいいいいいいいいいいい!?!?!?!?」

激痛に叫び声を上げようとするが、口はその動作すらも許さないとばかりにぴたりと閉じている。

口の中に、かみ切られた時の血がたまるのもお構いなしだ。

(なんじゃ!? これは!? 何が起こっている!? 儂は神になったのではないのか!?!?!??)

儂が混乱の極みに達していると、見覚えのない顔が目の前に……。

いや。

いやいやいやいや!

ワイズ神様だ!

なんということだ、どうしてワイズ神様の顔すら判別できなかった!?

儂を神へと導かれる存在だというのに。

「お、お助け……を……。ワ……神……さ……ま……」

やっとのことで言葉を紡ぐ。

だが、ワイズ神様はいつもの様子で……。

いや。

どうして今まで気づかなかったのだろうか。

ワイズ神様は哀れむような、まるでピエロを見るような見下げ果てた目つきで儂を見ながら、

「やはりダメか。教主にまでなったからには意思の力は勝るかと期待したが、それすらもルギには及ばなかったか」

「な……を……言って……」

「なに、道理を述べたまでのこと。神の器に人の魂を入れる。人と魔の融合した新しき神を生み、人類に新しい神への信仰と統治をこの大陸にもたらそうとした。だが、お前では不足であったようだ、ジャルメル」

「ど、どういう……」

「まだ分からぬか。下郎。お前の穢れた魂では神の器に相応しくないということだ。意思の力すら、仲間を思う優しい少年に劣るとは恥を知るが良い」

「そ……そん……わしが……神になれると……」

「神になれる機会を与えると言った。嘘ではない。だが、お前はその魂のみを差し出すが良い。光栄に思え。そして恥じよ。お前の宿願は、この少年が果たさんとするだろう」

「ぞ、ぞんな! ぞんなごと!!! なっどぐがでぎるわげがぁああああああああああああああ!!!!」

薄れていく意識の最後の灯火。

この目の前の神。

もう名前すら思い出せぬ存在。

だが、この目の前の少女に儂は騙され、辛酸をなめさせられていることだけは分かった。

儂は本能に従い、神となった体を使って、目の前の存在を攻撃しようとするが、

「いけませんよ。教主様」

「う、うぎぎぎぎっぎぎぎっぎぎえええええええええええええええええ!?!?!?」

儂の意思とは無関係に、ほんの灯火程度残った、儂の意識がまるですり鉢にかけられたように、すりつぶされる。

それは直接脳髄を削り取られるような、悍ましい恐怖と激痛をともなっていた。

ルギの体に入った儂の口からは、落ち着いた少年の声と、反対に絶望の絶叫がとどろいた。

「だ、だずげで……だずげで……」

「もちろんです。教主様。この僕があなたの意思を引き継ぎます。ですから、どうぞお眠りください。僕の中で永遠に」

「ぢ、ぢがう! ぢがっ……!」

「お休みなさい」

ああ……。

ああああああ……。

ああああああああああああああああ……。

あ。

ルギの力が更に強まったと思った瞬間、儂の魂はまるで光の前に消え去る影のように、永久にこの世界から消失させられたのであった。