軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

197.教主、屈辱の撤退

197.教主、屈辱の撤退

「何をしている、ビビア! 貴様それでもこの神たる儂の下僕か!」

吹き飛ばされて情けなく餌付いている、勇者……、いや元勇者ビビアに対し、教主ジャルメルは罵倒の言葉を浴びせた。

「ぐぎぎっぎぎぎぎっぎいいいいい!!!」

その言葉に、ビビアは怨嗟の色を瞳に一瞬浮かべるが、

「なんじゃ、その目は!!! 儂が神となった暁には、貴様にもたらそうとする恩寵をなしにしてやっても良いのだぞ!」

「わ、分かってるさ。うげ、うげえ。キキ、キキキキキキキキ。ちょっと油断しただけだ。まだまだ本気じゃねえ。ちょっと……ちょっとだけ油断をっ……! だから俺を神に」

「馬鹿が! このゴミが! 使えぬ輩になど用はない! 誰が落ちぶれていた貴様を拾って、この儂の下僕にしてやったと思っている!」

ジャルメルの怒声は続き、

「今こそ、主人の儂の恩に報いる時じゃろうが!!!」

「ふんぎぃ! ふんぎぃ! わ、分かってます! ふんぎぃ!!!」

ジャルメルの言葉に顔を真っ赤にしながらも、神になりたいという欲望を叶えたい一心で、ビビアは憎しみの怨嗟の声をふりしぼりつつも、表面上は笑顔を浮かべる。

だが、その唇は歪み、どう見ても顔面の神経と言う神経がひきつっていて、見るも無残であった。

そんなやりとりをしながらも立ち上がり、こちらへとその怒りの矛先を向ける。

「こ、こんな屈辱を味わうのも、てーめらのせいだ! どういうつもりなんだ! アリアケはともかくて舎弟たるてめえらまで敵に回るとは! ええ!!」

ビビアは雄たけびのような声を上げながら、

「デリア! プララ! エルガー! この裏切りもんがああああああああああああああああああああああ!!!!」

神殿に相応しくない醜い怒声をこだまさせる。

しかし、彼ら三人の瞳は澄んでいた。

そのような 論難(ろんなん) には、まったく動じる道理などないとばかりに。

「ビビア! 目を覚まして! あなたは騙されているのよ!」

デリアが悲痛な声を上げた。

「そうだよ、ビビア! ちょっと考えれば分かるじゃん。パッと見で、そいつ絶対悪者だよ! そんな奴についてたってろくなことにはなんないよ! ほら、一緒に帰って、パーティーを再結成して、また冒険しようよ!」

プララも仲間を思った温かい言葉を口にする。

そしてエルガーも、腕組みをしつつ微笑みを浮かべながら、

「俺たちはいつも一緒だ。やめる時も健やかなる時もな。パーティー結成の時、決して裏切らないと誓ったではないか。俺たちはお前を救いたい。決して、お前だけをパーティーから逃がし……ごほん。パーティーから見捨てたりはせん! 間違いは、全員でただす! 仲間だからな!」

そう宣言したのだった。

それはまさに勇者パーティーが人々に指し示すべき、仲間の形。

美しい友情を体現したものだったのである。

「すごいですわね。あれが勇者パーティーなのですね」

「うん。さすがかっこいいね」

キュールネーとソラが言う。俺も満足げに頷く。そう、あれこそが俺が育てた勇者パーティーの真の力なのだ。膂力やスキルといったものではない。人々を勇気づけ、助け合う。そんな愛にあふれた力。それこそが俺がはぐくんだもの。財産なのである。

「のう、コレットよ。そなたあれを見てどう思う」

「絶対嘘じゃろ、あれ。絶対裏があるのじゃ、あれ」

「我も、そう、思う」

フェンリルとコレットも何かひそひそと話しているが、おそらく生徒たちと同じような内容だろう。

と、そんな二三言をかわしている間にも、ビビアが本気を出して襲い掛かってくる。

「まずは、てめーら裏切りもんからだああああ! 死ねやあああああああああああああああああああ!!」

聖剣ラングリスに暗黒のオーラをまとわせながら、衝撃波を伴いながら斬撃を繰り出してくる。

しかし、

「アリアケ! 支援をお願いしますわ!」

「心得た。≪防御力アップ≫≪攻撃力アップ≫≪素早さアップ≫」

俺は複数のスキルを彼らにかける。

「喰らいなさい! 絶対に一人だけ抜け駆けなんてさせませんわ! 一人だけ神様になって栄華にっ……ではなくて、人間をやめるなんて馬鹿な考えは捨てなさいビビア!! 目を覚まして!!! はああああああ!!!!」

「ぐえええええええええええ!!!」

防御無視のスキルを持つデリアの攻撃が、直接ビビアの体内にダメージを蓄積し、上空へと打ち上げられる。

そこに、

「そうだよ! ビビア! あたしたち仲間じゃん! 人の世界で生きて! どんなけ借金……、じゃなくて、返せない恩がこの世界にあると思ってんのさ! それを返さないまま一人だけ逃れようとするなんて絶対に許さないじゃん! せめてそれ《ラングリス》だけでも置いていってよ! でないと絶対に一人で行かせたりしないよ、ファイヤー・ストームゥゥゥッゥゥウウウウウ!」

「あじいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!」

上空でもがくビビアに対して、冷水ならぬ、烈火を浴びせて、プララなりにビビアを説得しようとする。人の世界で受けた恩を勇者パーティーとして返すことを説くという説得力のあるものだ。

そして最後に、

「俺は別に勇者パーティーなどどうでもいい。だが、お前がいないと勇者パーティーとは名乗れなくなる。やはり腐っても勇者パーティーという ガワ(名声) がないと、俺の名前だけではこの筋肉を見てくれる者は少なくて……げふんげふん! お前がいなくては勇者パーティーは始まらんし、俺も本調子が出せん! この筋肉で世界を守るという崇高な使命、最後までつきあってもらうぞ、わが友、ビビアよ!! はああああああああああああああああああああ!!!!」

「んごええええええええええええええええええええええええ!?!??!?!」

そう、やはり勇者あっての勇者パーティーだ。

魔族との戦いは終わっても、モンスターの討伐の希望としての勇者パーティーの役割はまだ残されている。

本当の平和を取り戻すために、自分だけではなく、勇者お前が必要だと、エルガーはいみじくも看破し、優しく告げたのである。焼き焦げた彼を空中で捕まえ、耳元でそう叫びながら、ぐるぐると回転しながら彼の体を固定しつつ、大地へとパイルドライバーをかましたのであった。

「荒治療だな。それだけあいつらなりに愛をもった説得だったわけか」

幼馴染だからこそ気兼ねなく本気の説得が出来る。

それもまた、勇者パーティーの強みなのだろう。

俺がその温かい光景を微笑みながら見ていると、

「ぜ、前言撤回しますわね」

「この世界で一番 悍(おぞ) ましいものを見た気がします」

なぜか生徒達が青い顔して、呟くように何かを言っていた。よく聞き取れないが……、

「な、何をしている! 何をしているか! この役立たずのぼんくらが! ビビア! 立たぬか! ビビア! ぬあああああああああああああああああああ!!!!」

気絶させられた使徒ビビアを見ながら、教主ジャルメルが悔しそうに絶叫した。

顔を真っ赤にして、その醜悪な太った腹をゆする。

だが、何をどなろうと、彼らの友情の力で説得されたビビアは起き上がる気力がないようだ。

目や鼻、口から体液と言う名の体液をたらしながら、ピクピクと 蠕動(ぜんどう) している。

そんな様子を見たジャルメルは、見切りをつけたように後ろを振り向く。

そこには、

「ワ、ワイズ神様! そ、それにルギ!!!」

ここまでの戦いに決して口や手を出さず、傍観していた二人がいた。

「神よ、どうかお助けを! ル、ルギも何を傍観している! 主人の危機じゃ! 早く助けんか! このノロマめがぁあああああああああああ!!!」

そう忙しく懇願と怒りの声を交互に上げる。

しかし、

「あれが賢者の力か。なるほど邪神を屠るだけのことはあるな。道化とはいえ、私の加護を持つ者をこうも簡単に無力化するのだから」

「はい。ですが真の力は発揮されていない。ただあれは闇雲に増大した力に振り回されていただけです。僕とは違います。そうでしょう、ワイズ神様」

「そうだな。まだ可能性は潰えてはいない。そして、ここは舞台としては少し粗末だ。私の神殿に招くとしよう」

「そうですね。僕もここでは窮屈で力を出し切ることが出来ませんから」

ジャルメルのことを一顧だにしないように、ワイズ神とルギは言葉を交わす。

「ワイズ神様! どうなされるおつもりなのですか! どうかお導きを!! ルギ! お前も何をしているか! お前の命は儂が握っていることを忘れているのではないだろうな!!」

たまらずジャルメルが叫ぶと、ワイズ神が初めて気づいたようにその老人へ目を向ける。そして、

「ジャルメルよ。一旦引くのも悪くない。あれはしょせん捨て駒。お前の力を発揮するのに、もっと相応しい場所と時期があろう? 時宜(じぎ) を見計らってはどうか?」

「な、なるほど。確かにそうですな。ルギもまだ本調子ではありませんしな! は、ははは! くそ! アリアケよ! 覚悟しておけ! 次こそが儂の本気じゃ! そしてお前の最後なのだからなぁ! くは、くははははあはははははははは!!!!」

そう悔しさを押し殺し、無理やり哄笑しつつ、去ろうとするワイズ神たちに必死に追いつくように駆けてゆく。

「悔し紛れの撤退といったところですわね。先生、追わないのですか?」

「ワイズ神がこの場を去ろうとしているんだ。ならば、追っても無駄だろうさ」

「だけど、あいつルギの命を握ってるって言ってたぞ! 心配だよ!!」

フィネが悲鳴のような声を上げる。

俺はそれには真剣な面持ちで答えた。

「もちろんだ。それについては、利子をつけて返させるとしよう」

俺の言葉に、全員がごくりと喉を鳴らしたのであった。