作品タイトル不明
184.ワイズ神の操り人形
184.ワイズ神の操り人形
(前回の続きです)
『……聞こえるか、ジャルネルよ。我が声を聞く神の使いよ』
「くひひひひひ……。ははぁ、我が神よ! ご機嫌麗しきこと何よりでございます! ああ、偉大なるワイズ神が今日も教主たるわたくしに語り掛けてくれることこそが無上の喜びであります!」
我が神の声は透明な音色をしておられる。威厳に満ちているが、どこか幼さもあった。少年とも少女ともとれる少し高い声だ。
姿は見えない。だが、そのお姿はおそらく荘厳なるものであろう!
何せ、儂を王位へと導く存在なのだから!
『世辞はよい。それよりも……』
「神託ですな! くひひひ! 楽しみにしておりました。ありがたく拝聴存じあげます!」
『……は……ぁ』
ん?
儂の聞き間違いだろうか? 何やらため息のようなものが聞こえたような……? ふむ、そんなわけあるまい! この忠実なる信徒を前に、ため息など! ほっほ!
「神よ。どうかなされたのですか? さあ、さあ、ご神託をこの神の使徒へお与えくだされ!」
『そうであったな。だがその前に一つ』
「なんでございましょうか?」
『余り、我の前で 軽々(けいけい) に口を開くものではないと戒めよ』
おお!
しまった。つい神を崇拝するが余り、畏敬の念が口をつきすぎたようだ。
神が偉大なのは当然のこと。ことさらに強調すれば格が堕ちよう。儂が偉大なのと同じように。
「人ごときが失礼を致しました。ですが、さすがワイズ神様でございます。言葉などではなく我が信仰こそを見ておられるということですな」
『…………ああ、まぁそのようなものだ。近き信徒の息吹も、 清(さや) かであるか、よりけりゆえな。私にも趣向がある』
?
どういう意味であろうか? だが神の崇高なる意図を汲み終わる前に、神は言葉を紡ぎ始められた。
儂は神託に集中する。
『アレを使い、手駒を揃えることには成功したな? では次はその者を鍛え、従えよ。従順なる 僕(ぼく) とするが良い』
「ははぁ! 分かりました! 薄汚い魔族です! 拷問してでも従順にさせ、我らワイズ教のために役立てましょう!」
『……その必要はない』
「なんですと?」
儂の驚きの声とともに、カラン、という音が鳴った。近くにあった机の上に、薄紫色をした謎の液体が入ったガラス瓶が出現している。
『それを用いれば従順になろう』
「ほほう! 洗脳薬ですな! これは素晴らしい、ぐひひひ! 魔族ごときにはちょうどよい!!」
儂は哄笑する。すると、
『…………そなたらの嗜好は分からぬな』
神が何ごとかをポツリと漏らされた。しかし、
「は? 何ですと? 恐れながら、お声が小さくてよく聞こえなかったのですが?」
『良い。私にも分からぬことがあると言ったまでのことだ』
「なんと! 知啓の神ともされるワイズ神様にも分からぬことが!?」
『そうだ。ゆえにそなたのような者をわざわざ選んでいるのだしな。それにしても 蒙昧(もうまい) なことだ。試さねば分からぬのだから。その意味ではそなたには手間をかけさせる。かのアリアケと相克する者ともなれば役者はそなたこそ似つかわしい』
「は、ははあ! ありがたき幸せ!」
儂は平伏した。前半のお言葉の意味は理解できなかったが、後半!
後半のお言葉を聞いて全て理解できたからだ。
そう!
「ワイズ神様は儂にとてもつもない期待をされていることが!」
『ふむ、そうだな。その反応も期待通りではあるが……。複雑なものだな。まぁ、その調子で励め、ジャルネルよ。期待に応え続けよ』
「ははぁ! このジャルネル、命に代えましても尊きワイズ神様のっ……!」
『ではな』
「あっ」
ブツリ!
まるで太い糸が切れたかのような音がしたかと思うと、神のオーラが去ったのが分かった。
私室に明るさが戻り、我に相応しい豪奢なきらびやかな調度品が輝いていた。
将来の王たる自分には似つかわしい。
だが、
「まだまだ不足よの。まずは神託に従い……」
儂は机の上におかれた薬液に満ちた瓶を見ながら、舌なめずりする。
愚かな魔族を操り、鍛え、あの増長したアリアケや女狐リズレット・アルカノンを叩き潰すのだ。
神託通りすれば、確実な未来となることだろう。
いや、それだけではない。
ゆくゆくは……。
「我こそが大陸に君臨し、唯一絶対の王となるのだ! やがては神にも手がっ……! ぎひ、ぎひひひひひ!!!」
我の崇高な理念をのせた笑い声が、我が聖都『マリード』に轟くのだった。