作品タイトル不明
183.増長せしワイズ教・教主ジャルネル・ギルメイザー
183.増長せしワイズ教・教主ジャルネル・ギルメイザー
~ ワイズ教教主ジャルネル・ギルメイザー/聖都『マリード』 ~
「くくく、愚かな男だ、アリアケ・ミハマ。人魔同盟などという忌々しい政策、断じて許せぬ。だが、くくく、すぐにこうなる、くききききききき」
ガシャン!
儂は肥えた腹を揺らしながら、わざとグラスを地面へ落とした。それは粉々に砕け散る。
「これがすぐに奴にもたらされる運命そのものよ。この教主ジャルネルのご意向を神もきっとご覧になっているであろう」
「おお。おっしゃる通りです。ジャルネル様」
「神をも恐れぬアリアケに、すぐにでも神罰が下りましょうぞ!!!!」
うむ、と儂は機嫌よく頷いた。
追従の言葉を並べたてるのは、様々な地位の貴族たちだ。
今の国王の政策のせいで既得権益から外れて不満を持っており、この儂に依存せざるを得ない操り人形たちである。
「ですが、アリアケなどしょせん政治の素人。放っておいても、人魔同盟などという夢想は瓦解したのでは?」
一人の貴族が言った。
儂はニヤリと唇を歪めつつ、
「ビワン男爵殿のおっしゃる通り、放っておいてもじきに自滅したでしょう。しかし、魔族との融和などという神の怒りに触れる行いをした以上、この儂みずからが神に成り代わり天誅を下そうと決心したのですよ」
「おお、さすが教主様です!」
貴族どもが称賛の言葉を並べ立てる。
神同然であり、高貴な血筋を持つ教主の儂にとっては当然のものと言えよう。
「見ておれ。ブリギッテ教もじきに凋落する。獣人どころか魔族すらも公平に扱うなどという、かの邪教もまた、神の怒りに触れたのだからな」
「教主様こそが神同然。すなわち、その神の 瞋恚(しんい) に触れたからには、滅びは必然ですな」
「その通りじゃ。ベヒス子爵殿。くひ、ほっほっほ」
ワイズ教は人間至上主義であり、同時に人にはそれぞれ人生において果たすべき役割があるとする教義である。
我ら高貴なる者たちにとっては、ワイズ教は都合の良いものなのだ。
無論、神がそうお定めになったのだから、私情を挟んでいるわけではない。
ゆえに、
「貴族のために死ねる民ほど幸運な者はおらぬ。ましてや仕えることが出来るなど至上の喜びであろう」
「ええ。そして、獣人も魔族もエルフもドラゴンどもも、早く人族の支配下におきたいものです。貴重な資源は我ら貴族が独占すべきでしょう。それが神の摂理と言うもの」
「成り上がりどもをさっさと始末し、そしてブリギッテ教の大教皇リズレットも排除し、この世界を正常な状態に出来るのは教主様と我々だけです」
「言われるまでもない。そして、その時はもうすぐ目の前まで来ておる」
「と、言われますと?」
貴族どもの期待と尊敬のまなざしが儂に集中する。
無論、神たる儂はどっしりと構えたまま、堂々と宣言した。
「アリアケ・ミハマ。あの成り上がり者の懐に潜り込み、弱点となるべき者の懐柔に成功したのじゃよ。くひひひ、儂の手にかかれば、世間でいかに賢者と言われていてもこの程度! 片腹痛いわい!」
ぐひひひひ! と笑う儂の声に、貴族どもがやはり追従の言葉を繰り返した。
「とはいえ、いちおう奴も国王。油断だけはなされませんように」
心配性の貴族が一人発言する。だが、儂は思わずニヤリと笑う。
「その忠告はありがたく頂いておこう、ゼムダ男爵。だが、儂には神のお告げがあるのでなぁ」
「おお、そうでしたな。さすが教主様です!」
そう儂は実際にワイズ神の預言を聞く力がある。
だからこそ、儂こそが神と同等の存在であり、儂以外のすべてを支配し、自由にする権利があるのだ。
おっと、そう言えば。
「ふむ。そろそろそのお告げを聞く時間であるな。諸君、今宵も楽しかった。今後も冒険者や傭兵を融通してもらおう」
「無論です。未来の王よ」
「わはははははあはは!」
儂は全能感に包まれたまま、部屋を後にした。
そして、私室へと戻ると、ドアの鍵をしめる。
すると、
『……聞こえるか、ジャルネルよ。我が声を聞く神の使いよ』
神の声が儂の部屋に鳴り響いたのであった。
ああ、この声が特別な存在である儂を導くのだ。
他の誰よりも優れた儂にのみ、ワイズ神は語り掛けてくる。
「くひひひひひ」
儂は笑いをかみ殺しつつ、アリアケの破滅、そしてブリギッテ教の消滅を確信しながら、神の声に耳を傾けたのだった。