軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

199.黒幕、逃亡するが鑑定士に捕まり敗北

鑑定士アインが、魔王となったアンリを撃破してから数分後。

【それ】は、遙か銀河の彼方を目指して、逃亡を図っていた。

宇宙を漂う漆黒のオーラ。

それはミクトランやアンリが纏っていた物。

【くそっ! 失敗した……! 計算外だ。あの小僧が、あんな規格外の存在へと進化するなんて……!】

【それ】は人の悪意や憎しみといった、負のエネルギーの集合体とも言える存在。

誰かや何かにとりつき、その運命を狂わせ、世界を脅かすことで食料たる負の感情を手に入れていた。

【ミクトラン。それにアンリ。あの利用しやすいガキどもとちがって、アイン・レーシック。やつは危険だ。おれの精神支配が効かないなんて。化け物なんて生やさしい、あいつは理外の存在だ】

何度も何度も、【それ】は背後を振り返り、アインが来ないことを確認する。

【……ふぅ。さすがにここまで来ればアインも追って来まい。まったく、とんでもないガキと関わってしまったものだ】

【それ】は恐れおののきながら言う。

【ミクトランたちは良かった。あいつらの心の中の不安や憎しみを、ほんの少し増幅させただけでおれのオモチャになった。……だがアインは違う。恐るべき胆力の持ち主だ。強靱な心と体を持ち合わせている。アレは、危険だ】

ミクトランの魂を宿主としていた【それ】は、アインの肉体に入り、その魂を新たなヤドヌシにしようと試みた。

だがアインの精神と肉体を乗っ取ることはできなかった。

自力で【それ】の支配から逃れたものは、一人も居なかった。

【もういい。アインは諦めよう。やつが死ぬまで今は身を潜める。なに、100年程度でやつは死ぬ。その後じっくりと、第2のミクトランやアンリを探すだけだ】

と、そのときだ。

「そんなこと、させると思うか?」

バッ……! と【それ】は背後を振り返る。

【なっ!? ば、バカなぁ!? あ、ああああアイン・レーシックだとおぉお!?】

【それ】は恐怖で喉を震わせた。

やつの驚異的な戦闘能力については、今さっき痛感させられたばかり。

出会うことすなわち死を招く。

まさしく、【それ】はアインと相対した瞬間、死神を前にした錯覚を覚えた。

【なぜだ!? なぜおれに気づいた!?】

そう、気づくわけがないのだ。

アイン視点では、ミクトランが闇落ちし、悪しき魂となって、ゼウスに封印されていたと見えていたはず。

その悪しき魂こそが【それ】そのものなのだが、やつが名前も実態もない自分に気づくわけがない。

「俺の目は神眼を超えた。森羅万象をこの瞳に映す。戦闘中、おまえの姿はハッキリと見えた」

【なんだそれは!? そんなもの、もはやこの世のルールから外れた規格外の超常的存在じゃないか!】

アイン・レーシックは化け物だと理解したはずだった。

だが目の前のアインは、想像の遙か上を行く規格外っぷりを発揮していた。

【それ】は……戦慄するほかなかった。

「眼がなくとも気づく。ミクトランもアンリも、元は優しい人たちだった。誰か彼らをゆがめた元凶がいると」

『さすがじゃアインよ。その洞察力、見事じゃ』

【それ】は、生まれて初めて、他人に対して恐怖を感じていた。

【お、おれを倒しても無駄だぞ! この世から争いや憎しみは消えない限りおれは何度だってよみがえる!】

「関係ない。俺はおまえをここで倒す。仮にまた復活したとしても、俺の代わりが必ずおまえを倒す」

アインの視線は揺るがない。

【く、くそっ! こうなったら全身全霊を持って、おまえを喰らってやる!】

ゴォッ……! と黒いオーラが、アインを包み込む。

一度は闇に落ちかけたアインだ。

【本気を出せば人間なんて下等な存在、おれが取り込めないわけがない!】

「そうやって馬鹿にするから負けるんだよ、おまえは」

【な、なにぃいいいいいいいいい!?】

アインは闇のなかで完全霊装を纏う。

彼の発する圧倒的な聖なる輝きにより、黒いオーラは弾かれる。

「よくも、他人の人生を良くももてあそんでくれたな」

【ひ、ひぃいいいいいいいいい!!! 嫌だ嫌だ死にたくない! 死にたくなぃいいいいいいいいい!】

アインは聖剣を取り出すと、躊躇せず、剣を振るった。

ズバァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!

黄金の光の奔流は【それ】を飲み込む。

そして……完璧に消滅したのだった。

俺が【黒幕】である【それ】を倒した直後。

宇宙にある星々の海にて。

俺の目の前に、ふたつの魂が現れる。

『ありがとう、アイン。私たちを救済してくれて』

「ミクトラン……。それに、アンリも」

俺の左目が白く輝き、エキドナが出現する。

「アンリ。久しぶりね」

『エキドナ……ごめん……ごめんなさい……』

幼女はじわ……と目に涙をためると、エキドナの腰にしがみついた。

『わたし……ミクトランが好きだったの! 彼を自分の物にしたかったの! だから……人間を言葉で操って、あなたを殺すよう仕向けたの!』

アンリは滝のような涙を流す。

エキドナは聖母のような優しい笑みを浮かべて、幼女の頭をなでる。

「いいのよ。あなたもまた利用されていただけ。その黒幕もアインが倒してくれました。……全ての罪が許されるわけではありません。ですが、私はあなたを許しましょう」

ぎゅっ、とエキドナは強くアンリを抱きしめる。

「私こそ、ごめんなさい。あなたの気持ちを、察してあげることができなくて」

『うぐ……ぐす……うわぁあああん! エキドナぁあああああ! ごめんなさぁああああああああい!』

大声を上げて泣くアンリを、エキドナがよしよしと頭をなでる。

その一方で、ミクトランは俺に近づいて微笑む。

『アイン。本当にありがとう。私の代わりに、全てを終わらせてくれて。さすが、エキドナの妹が選んだ守り手だ』

「いや、俺だけの力じゃない。ユーリたち、それに……ミクトラン。あんたがいなかったら勝てなかった」

ミクトランは微笑むと、満足そうにうなずく。

『これで勇者も役目を終えた。見てごらん、君の右手』

「勇者の印が消えていく……」

『これで勇者の魔力は私と同時に消滅する。少しの弱体化は避けられない。ごめんね』

「問題ない。俺はもう、十分すぎるほど強くなったし。それにみんながいる」

振り返ると、精霊姉妹、それに守り手たちが笑っていた。

『さすがだね、アイン。やっぱり君が、真の勇者だよ』

彼は目を閉じて静かに微笑むと、きびすを返す。

『さて、じゃあ私たちはいくよ。アイン、エキドナ。息災で』

ミクトランが微笑みかける。

エキドナは涙を流しながら、こくりとうなずいた。

「今までありがとう、ミクトラン。大好きよ」

『私もだ。ただ、あんまり早くこちらに来ないでくれよ』

「ええ……楽しい思い出を、妹たちといっぱい作ってからいくわ」

勇者は微笑むと、アンリの元へ行く。

彼は幼女を抱き上げると、俺たちに手を振った。

『それじゃあ、元気でね、アイン』

『アイン! わたしを救ってくれてありがとう! さすがだったよ!』

二人は強く輝くと、やがてその魂は浄化し、消えていった。

「行って、しまったな」

勇者たちが居なくなった後。

「アインさんっ!」

ユーリが俺めがけて、飛び込んでくる。

むぎゅーっと俺を抱きしめる。

「ありがとう! あなたのおかげで、みんな幸せに、なれました!」

俺はユーリをお姫様抱っこしながら、精霊姉妹たちを見やる。

「ありがとう、アイン。心からの感謝を、あなたに捧げます」

「ほんと~。アイちゃんありがとね~」

「アイン様のおかげですわ……本当に……ありがとう」

エキドナ、クルシュ、テレジアが言う。

「……アイン君。あなたにあえて、本当に良かった。ありがとう」

「ふぁぁ~……アインくん、きみ、ほんとぉにたいしたやつだったよ~……」

アリス、カノンが続く。

「わが眷属よ。よくやった。褒めてつかわそう……ま、まあありがとね」

「お兄さん、みんなを救ってくれて本当にありがと☆」

「みんなしあわせー! おにーちゃんだいすきー! あんがとー!」

マオ、ピナ、メイが、それぞれ俺に感謝の言葉を述べる。

みんな、そして……ユーリは、笑顔だった。

「ユーリ。約束、ちゃんと果たせたよ」

「はいっ! 家族みんなと……また会えました!」

ユーリは、最高の笑顔で、俺に言う。

「ありがとう、大好きですっ!」