作品タイトル不明
179.鑑定士、封印を解いて神々を討伐する
俺が豊穣の女神を討伐してから、数日後。
王都郊外に、敵が現れたのだ。
「ごきげんよう、鑑定士さん」
「おまえは……いつぞやのダークエルフ」
俺の前には、美しいダークエルフがいた。
こいつはゾイドやシェリアのとき、裏で糸を引いていた女だ。
「何をしに来た?」
「決まっているでしょう? いつも通り、あなたに【倒されにきたのよ】」
「倒されにきた……だと?」
ダークエルフは静かに微笑んでいる。
……油断ならない。
正直俺をなめきってやってくる、神たちの方が気が楽だった。
「一体どういうことなんだ?」
「深く考えなくていいわ。あなたは、知らなくて良いことだからね」
ダークエルフ実にうれしそうに笑う。
そして……俺の前から、消えた。
「なっ!?」
彼女は俺のすぐ隣に現れた。
「精霊を8体。二重霊装を会得し、5柱の神の力を取り込んだ」
俺のほおに、手で触れる。
「ああ……なんて美しい【器】なの……」
俺は聖剣で、ダークエルフに一撃を食らわせる。
だがまた彼女は俺の前から消えた。
「アイン、素晴らしいわ。やはりあなたは、あの方の器にふさわしいわ」
……霊装状態の神眼でも、彼女の動きが目で追えなかった。
どんな敵の動きも見切っていた、最強の眼が、である。
「おまえ……何者なんだ?」
するとダークエルフは、俺の前で腰を折る。
「私は【エキドナ】。かつて世界樹の精霊だった女よ」
かつてウルスラと話したことがあった。
このダークエルフが、エキドナではないかと。
だから予想外のことに戸惑うことはなかった。
「いいえ、あなたは姉さまじゃありません!」
俺の隣に、ユーリが顕現する。
「わたしは、あなたのしてきたことを、アインさんの目を通してみてきました!」
……じわ、とユーリが目に涙をためる。
「エキドナ姉さまは、人を傷つけたり利用するようなひとでは決してありません!」
いつも穏やかなユーリが、激情をあらわにしていた。
それくらい、怒っているのだろう。
自分の大切な姉の名前を、騙ることが、許せないのだろう。
「ひどいわユーリ。私は本物のエキドナ、あなたのお姉さんなのにね」
「それは違う!」
パァ……! と俺の左目が輝く。
俺の隣に、八女マオが出てくる。
「アタシの【浄眼】に嘘偽りは通じない。あんたは、姉さんの体を乗っ取っているだけの偽物よ!」
「体を乗っ取る……だと?」
「さすが【浄眼】。魂の形で判別したのね。たいした子だわ」
じゃあ、マオの言ってることは本当なのか?
「返して! 姉さんを! 返してよぉ!」
ユーリが涙を流しながら、必死で訴える。
「そうはいかないわ。目的を達成するまでは、この子に眠っててもらわないと」
エキドナがそう言って、ポケットから何かを取り出す。
「それは……精霊核」
「そう。精霊たちの力の源。魂の形。あなたたちの愛しいお姉様は、眠っているわ」
真っ白な色の精霊核を、エキドナが手のひらの上で転がす。
「それを返せ。今すぐに」
俺はエキドナに聖剣の切っ先を向ける。
「いいわ、力尽くで奪ってみなさい。ただし……」
パチンッ! とエキドナが指を鳴らす。
また俺の目の前から消えた。
『ここから生きて脱出できたら、ね』
そのときだ。
俺の足下が突如輝きだしたのだ。
「なんだ……これは?」
『封印術じゃ! 今すぐ待避を!』
『無駄よ。もう術は発動したわ』
地面の光が、より強く輝く。
パァアアアアアアアアアアアアアア!
純白の光が俺を包み込む。
それはあっという間に、俺を閉じ込める、【光の監獄】へと変わった。
「……ここは?」
俺は真っ白い、何もない空間に立っている。
『……【 六芒星封印(ヘキサグラム・シール) 】。最上級の封印術じゃ』
ウルスラが沈んだ声で言う。
『これに閉じ込められたら最後。誰一人として、この封印を解いた者はいないという』
『……アイン君。ごめんなさい。未来を予知できなかった。あの人に、スキルで邪魔されたわ』
あの人、つまりエキドナのことだろう。
アリスの未来予知を出し抜くとは。
……ただ者じゃない。
「姉さん……」
俺の隣で、ユーリが落ち込んでいる。
ぽろぽろ……と涙を流していた。
「やっと会えたと、思ったのに……」
泣いている彼女を見て、俺の体は、自然と動いていた。
彼女を、正面から抱きしめる。
「アインさん……」
「大丈夫。俺が、必ずおまえの姉ちゃんを、助け出してやる」
ぎゅっ、とユーリを強く抱く。
そして彼女の頭を、優しくなでた。
「でも……姉さま、乗っ取ってるひと、強い……です」
「心配するな。エキドナを乗っ取っているやつは倒す。姉ちゃんも助け出して、必ずおまえに、家族全員にあわせてやる」
「……どうして、そこまで、してくれるん、ですか?」
……最初は、恩返しのつもりだった。
けど、ユーリと過ごしていくうちに、俺は。
「俺は、おまえの笑顔が好きなんだ。笑っているおまえを、守りたいんだ」
「アインさん……」
ユーリがさめざめと泣く。
俺はぽんぽん、と背中をさする。
「ユーリ、力を貸してくれ。俺一人じゃ駄目なんだ」
俺の一人で、できることなんて限られている。
強敵に立ち向かえたのは、みんなが力を貸してくれたから。
そして、力をくれるみんなのために、戦っていたから。
「わかり、ました! わたし、あなたについていきます! どこまでも!」
ユーリの体が輝き、俺と一体化する。
クルシュ、そしてユーリを霊装として身に纏う。
『ひゅーひゅー、熱いねアイちゃん』
『愛の告白だね☆ 相思相愛じゃん。いいなー、うらやましー☆』
『わ、わわ……は、はずかしいよぅ……』
そ、そうか。
これ、告白になる……のか?
「とにかく、脱出するぞ」
『しかしアインよ……どうするのじゃ? これは脱出不可の光の監獄だぞ?』
「問題ない。アリス、力を貸してくれ」
俺の言葉に、しかしアリスは答えない。
『……アイン君は、ユーリのこと、好きなの?』
「好きだよ。けど俺はアリス、おまえのことも好きだ。みんな大好きだよ」
『……そう。なら、よかった』
俺の体に、3体目の精霊が宿る。
『な、なんと! 三重霊装するとは! 見事じゃ!』
アリスを纏ったことで、千里眼が強化される。
封印の外、これを作っている神々を視界に捕らえた。
「目で見えているのなら【虚無】が使える。いくぞ!」
俺は霊装で虚無の力を増幅させる。
それを聖剣に纏わせ、剣を振るった。
ズバァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!
虚無の斬撃は、光の牢獄を突き破り、外にいた6柱の神々を消し飛ばした。
その瞬間、封印術が解除される。
『さすがアインじゃ。たとえ最強の封印術であろうと、術者を倒せば封印が解ける。その発想、あっぱれじゃ!』