作品タイトル不明
160.新たな勢力に、鑑定士は目をつけられる
鑑定士アインが、特級魔族キングを討伐してから、数日後。
そこは人間の世界とも、魔族たちの世界とも異なる場所。
【天界】と呼ばれる、神々の住まう聖なる土地。
天界の奥にある、【神殿】にて。
1人の天使が、跪いていた。
ーー【熾天使セラフィム】よ。面を上げよ。
脳内に直接響くのは、人のものとは思えない、荘厳さを秘めた声だ。
セラフィムは立ち上がる。
神殿の中には、彼女以外に誰の姿もない。
しかしセラフィムには、神々の気配を感じることができる。
ーーセラフィム、地上で起きた異変について、報告せよ。
「ハッ……!」
セラフィムは懐から、映像を記録しておく 結晶(クリスタル) を取り出す。
結晶に力を流し込むと、立体映像が映し出される。
そこに写っていたのは、黒髪の少年アインだ。
「どうやらこのものが、地上で【奇跡】を起こしたようです」
結晶のなかで、先日のキング戦の映像が映し出される。
「個体名【アイン】は、魔神キングを討伐。キングは能力によって地上の生き物を全て殺していた。アインは【 完全再生(パーフェクト・リバース) 】の効果で、生物全てを復活させたという次第でありました」
セラフィムは結晶を仕舞う。
ーーやはり人間の仕業であったか。
ーー以前より運命の歯車を狂わす【 異分子(イレギュラー) 】の存在は感知していた。
ーー10人や20人程度の蘇生なら許せるが、さすがに今回の件は看過できぬ。
ーー我ら神の威信を失墜させる、危険分子である。
神は1柱のみではない。
多種多様な神がこの天界には住んでいるのだ。
その誰もが、アインのことを快く思っていないようだ。
ーーセラフィムよ。
「ハッ……!」
再びセラフィムは頭を垂れる。
ーー固体名アインを、抹消してまいれ。
セラフィムは目をむいて言う。
「し、しかし主よ……。相手はたかが人間。我々天界のものが直接手を下すことなど、前代未聞ではありませんか……?」
ーー我々に口答えするか? 一介の天使ごときが。
「滅相もございません! ただ……人間を相手に、神が干渉する事態など有史以来、あったことはなかったもので……」
ーーそれほどまでに、固体名アインは危険なのだ。
ーーアインは人を蘇生させるチカラがある。
ーーヤツが存在すると、人間どもの我ら天の神々への信仰心が薄れてしまう。
「た、確かに……いるかいないかわからない神に祈りを捧げるよりも、現実に死者蘇生の力を持つアインに頼った方が良い、と考えるものが出てくるやも知れませんね……」
ーー然り。神々の威信を失墜させかねぬ行い、見過ごすことはできぬ。
ーーセラフィムよ。なんとしても、アインを殺し、その魂をここまで連れてくるのだ。
「ハッ……! 仰せのままに!」
セラフィムが深々と頭を下げる。
そばにいた神々の気配が、完全に消えたタイミングで、大きくため息をついた。
「まいったー……。ちょー厄介じゃん……。だっる~……マジでだるい……」
ボリボリ……とセラフィムが頭をかく。
「まー、適当にやるポーズくらいは見せるかー。というか、上も何を焦ってるのかしらね。人間なんて、ほっとけば100年くらいで勝手に死ぬのに」
セラフィムは結晶を取り出し、そこに写るアインに向けて、つぶやく。
「あなた、そんなに危険なわけ?」
☆
天界がアインに目をつけた、一方その頃。
魔王城の地下に、ダークエルフ・エキドナがいた。
眼前には、枯れ果てた【世界樹】がある。
世界樹の幹には、【9つ】のくぼみがある。
くぼみには、すでに3つの宝玉が埋まっていた。
「キング、クィーン、その子4人分の宝玉。ああ、これで……ついにそろうわ」
エキドナは、今回の件で手に入れた宝玉を、1つ1つ、くぼみにはめ込んでいく。
宝玉をはめるたび、世界樹がドクンッ……! と脈動する。
そして……ついに、9つの宝玉が枯れ果てた世界樹に埋まった。
ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ!
世界樹が、力強く脈動した……そのときだ。
ごごごごごごっ…………!!!!!
しおれ、朽ち果ていた世界樹が、赤黒く光り輝きだしたのだ。
「アハッ! ついに! ついにこのときが来たのね!」
エキドナは狂喜する。
普段仮面をかぶり、本性を隠している彼女が、心からの笑みを浮かべる。
枯れ木にどんどんと生気が満ちていく。
しおれていた枝は天を向き、枝先にはみずみずしい葉が生える。
やがて世界樹は、ユーリたちのそれと同様、完全な形を取り戻した。
『……う、うう。ここ……は?』
世界樹から、男の声が聞こえてきたのだ。
少し高い、青年と少年の中間と言えるくらいの声。
「【ミクトラン】!」
エキドナはダッ……! と世界樹に駆け寄り、思い切り抱擁する。
「ミクトラン! ああ……! 気がついたのね!」
『エキドナ……私は……一体……?』
「本当に良かった! ああっ! 無事で何よりよ!」
エキドナは涙を流す。
そこにいたのは、魔族たちをいたずらに殺す冷徹なる指導者の姿ではなかった。
愛しい男を前に歓喜する、ただの【女】の姿だった。
「待ってて、ミクトラン。あとは器を完成させるだけだから。そうすれば、あなたはこの地に完全に復活するから」
エキドナが世界樹の幹を、愛おしく撫でる。
世界樹は枝を、上へ上へと伸ばす。
それは地下を突き破り、地上にある魔王城に絡みつく。
あっという間に魔王城は、世界樹に取り込まれる。
それだけで止まらない。
伸びた枝葉、やがて魔界全土へと伸びていく。
エキドナは地上へと出て、眼下を見下ろす。
世界樹から伸びた枝が、魔界に住む有象無象の魔族どもに絡みつき、その命を吸っていた。
「喜びなさい、塵芥ども。あなたたちは彼が完全復活するまでの、栄養源となることができるのですから。さて……と」
パンパン! とエキドナは手を叩く。
すると、エキドナの前に、【4人】の【魔神】たちが現れる。
「さぁ、出番よ、【魔王四天王】のみんな」
4人の強者たちが、こくりとうなずく。
「エキドナ様、おれたちは何をすれば良いんですか?」
四天王の1人が、エキドナを見て言う。
「準備が調い次第、わたしと一緒に、人間界へ打って出るわ」
エキドナは魔界を見渡す。
世界樹の枝は魔界の住人たちを殺す。
その一方で、次元に穴を開け、そこから人間界へと枝を伸ばす。
「さぁ、 人間(むしけら) どもよ。長き沈黙を破り、いよいよ【魔王】がこの地に復活するわ。絶望の悲鳴を上げ、王の帰還を祝福しなさい」
エキドナは実に楽しそうに言うのだった。