作品タイトル不明
第8話 第六王女は王族の矜持を見せる
「え? 国王陛下が?」
冬本番まであと三ヶ月となり、秋の風が吹く頃。予想外な報告が私の耳に届きました。
「はい。ギレイア共和国側から帝国軍の進軍があり、瞬く間に王都に攻められ、陥落いたしました」
やはり、ギレイア共和国側の情報操作がされていたということですか。
戦況が入ってこないことにもっと注意して……今更何を言っても詮無きこと。
「国王陛下は討ち死にされ、王太子殿下も……」
「そうですか。お兄様も……」
いい思い出はありませんでしたので、特に王太子に関しては何もいうことはありませんね。
「それで、私に王都に戻れということかしら?」
「はい、王族の皆様に足を運んでいただくようにと」
「そう、ご飯を食べ終わってからでいいかしら?」
現在私は他の兵と共に夕食を取っているところなのです。
そこにこの一報が入ってきて、皆が寝耳に水状態。多くの兵や給仕の女性たちがいるにも関わらず、シーンと静まり返っていました。
「あと、ライラ。彼女たちに金貨一枚づつ渡してあげて、私が支援することはこれ以上、出来なさそうだから」
「はい、姫様」
戦後処理となると私はこれ以上彼女たちの支援をすることはできなくなる。
私とライラぐらいなら生きていける自信はあるけど、流石に彼女たちの面倒までは見ることはできない。
まぁ、王族が集められて打首をされなければの話だけど。そのときはライラだけでも助けてもらいましょう。
「ああ、貴方もご苦労さま。食事は好きなように取っていって」
ここも引き上げることになるでしょうし、ここの物資は兵たちに分けられることになるでしょうからね。
これは私個人が運営する商会のことも考えないといけません。
食事を終えて席を立ったところで、この戦場の指揮官の方々に囲まれていることに気が付きました。
なんだか嫌な予感がしますわ。
「セレスティア様」
リヒトが私を背にかばうように立っています。そう、リヒトは何故か私を名で呼ぶようになったのですよね。
最初は姫君呼びでしたのに。
「いかがされたのでしょう? ファスエラン大佐」
ここの責任者というべき大佐に声をかけますが、リヒトが邪魔で見えません。
「帝国は貴女の存在を許さないでしょう」
「まぁ、そうでしょうね」
よくて幽閉だと思っていますよ。
私の存在は疎ましいでしょうからね。
「姫様!」
「ライラ。その場にいなさい」
「いいえ! 私は姫様のお側に」
女性たちに金貨を渡していたライラが、この異変に気がついて駆け寄ってきました。
ライラに戦闘能力がないのは知られているので、通してくれたようですね。
「それで、貴方がた自ら、私を王都に運ぶと提案してくださっているのかしら?」
己の保身のために、私が逃げ出さないように見張るということでしょうか? そのようなことをしなくても、王都には戻りますわよ。
「違います」
「あら?」
「貴女の首を帝国に差し出します」
「まぁ! まぁ! この私の首を差し出してどうするのです? 王族の身柄は勝者に委ねるべきでしょう」
「我々の減刑を求めるためです」
その言葉に思わず笑ってしまいました。
そんなことで減刑になるとでも?
「お前達! 姫様から受けた恩を仇で還すつもりですか!」
ライラ、人というのは欲深い生き物なのです。己の保身のため、最悪な道を選ぶこともあるのですよ。
「ファスエラン大佐! 聖女様は我々のために!」
「そうです! 殺すなど人のすることではありません!」
「大佐! 考えを改めてください!」
「黙れ黙れ黙れ! この場に王族がいるだけで危険だと思わないのか!」
……思わないですが?
どうやら、国が負けたという衝撃に耐えられなかったようですわね。
周りの声を聞く耳もないようです。
しかし、私がこの場に居座っても、何もいいことがありませんからね。
「リヒト。クオン。契約は満了とします。護衛お疲れさまでした」
「セレスティア様! 王都までは我々が護衛いたします!」
「いいのよ。あ、ファスエラン大佐。彼らは今回だけ雇った護衛だから気にしないであげて」
私はリヒトの背から出て、ファスエラン大佐の元に……手を掴まないでください。リヒト。
「ライラ」
「はい、この護衛のクセに姫様の行動を阻害するなど、蛆虫以下が」
「護衛は解除したわよ」
「では蛆虫が! 影に捕縛されていなさい『シャラデリバル!』」
言い直さなくていいわよ。
ライラは、影の捕縛魔法をリヒトとクオンに使ったようです。
月がまだ出ていない空は宵闇に満たされている。だから影は至るところにあり、黒い鎖が二人に絡みついていった。
「なっ!」
「ここまですることですか! そこの無礼な侍女! リヒト様の魔法を解きなさい! あと蛆虫は訂正しなさい!」
それほど効力は持続しませんが、足止めには有効というぐらいですね。
因みにここ最近、クオンがリヒト様、リヒト様とウザいことに気が付きました。
それをライラがからかうから、二人は犬猿の仲と言っていいほど、口喧嘩をしています。
そして私はファスエラン大佐の前に立ちました。
「ファスエラン大佐。苦しまないようにここを切ってくださいね?」
私は自分の頸動脈のところに手刀を落とすようにして言いました。
そう、聞いたところによると、達人じゃない限り苦しむとか言うではないですか。
「わかった」
そう言って、剣を抜くファスエラン大佐。
そしてライラは相変わらず私の側に立っています。
「ほら、早くしないとライラの魔法が解けてしまいますよ」
リヒトがライラの魔法を解除しようとしているので、想定しているよりも早く解除されそうですわね。
「ちっ! あの蛆虫。最近特に姫様にベタベタとくっついて、鬱陶しい」
……ライラ。護衛として雇ったので、ほぼ毎日共にいるのは普通だと思います。
「第六王女殿下に感謝を」
私に振り下ろされる銀色の剣。
「セレスティア様!」
あ、もう解除されたのですか。ですが、間に合いませんわよ。
「感謝しなくてよろしいですわ」
私の首に剣が当たる瞬間に、笑みを浮かべました。
頬にかかる生暖かい液体。
驚愕の表情で傾くファスエラン大佐。
「はぁ、だから一撃でと申しましたのに」
首から血を流して地面に膝をつくファスエラン大佐。その首を押さえ、何か口にしようとパクパクしています。
「こ……ころ……殺せ!」
その言葉に周りにいた幹部たちが動き出しました。
「はぁ、本当になぜ今まで私が護衛もつけずに戦場をウロウロできたのか、何も思わなかったのですね?」
私とライラに剣を振るってきた者たちに言葉をかけます。しかし、その意を誰も理解することなく、血を吹き出し地面に倒れていきました。
私の受ける傷は、相手にそのまま返る。
自分の魔力を持たない私だからこそできる魔法。
そう、大気にある魔素が彼らを攻撃しているのです。
私に敵意を持つものは、始末しておかないと、また襲ってきたら面倒ですもの。
「姫様。お着替えをされてから出立いたしましょう」
「そうね。返り血を浴びたまま馬車に乗りたくありませんもの……そういえば、幹部の人はまだ残っているのかしら?」
すると顔見知りの医療班の者が手を上げてくれました。
ああ、彼なら大丈夫ですね。
「私は一足先に戻りますので、兵たちをまとめて、帰還してくださいね」
「はっ! この度の聖女様への無礼。誠に申し訳ございませんでした!」
「あ、いいのよ。死人には何も咎めないわ」
これで、この場の後処理はしてくれるでしょう。今更、遺体が増えたところで数として数えられるだけ。
まぁ、ご家族の方には申し訳なかったけど、戦後処理の扱いによっては、このほうが良かったとなるでしょうね。
そして、私は先ほどから無言で見下ろしてくるリヒトを見上げます。
何ですか?
「どうかされましたか? 契約は満了ですので、もう護衛はされなくていいのですよ」
「貴女を失ってしまうのかと思いました」
そう言って私の頬を拭うリヒト。
確かに、彼らの前では神の力と偽っている治癒の魔法しか使っていませんからね。
しかし、そんなに頬をグリグリ拭かれたら、皮膚があとでヒリヒリするではないですか。
「あの、後で洗い流すのでいいです。なので、手を離して欲しいです」
何故か最初に敵兵を殺してしまったことを怒ってから、手を握られることが多くなったのです。
まぁ、これがライラがリヒトを蛆虫扱いしている原因なのですけど。
「契約期間は半年です。お城までの護衛はいたします」
「手……」
「なので、このようなことは二度としないでください」
「手を離して欲しいです」
「約束してくださるのなら離します」
「私に敵意を向ける者がいない限りしないわよ」
「……敵意を……やはりそうでしたか。では、撤収の準備をしてまいります」
そう言ってリヒトは、私の手を離してくれました。
私の手を握ってもなにもありませんのに。
そしてリヒトは何か気づいていたようですわね。私が戦場にいても敵にほぼ襲われない理由を。
あれは、敵意を向けるものを遠ざける魔法ですね。これは他の人にもかけることができるので、医療班の人達にもかけていました。
「ライラ。私たちも準備をしましょう」
ってライラの方をみると、あちらはあちらで口喧嘩をしていました。
リヒトに捕縛魔法を使ったことと蛆虫と言ったことへの文句をクオンが言っており、私にベタベタするリヒトが悪いとライラが言い、全く話が進んでいません。
「ライラ」
「はい、姫様。すぐに湯浴みの用意をいたします」