軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

EP 4

カイトの違和感

カイト農場に、奇妙な「分断」が生まれ始めていた。

農場の南エリア。難民たちが暮らす居住区に、サルバロスは豪華な 天幕(マジック・パビリオン) を作り出し、そこを『救世主のサンクチュアリ』と名付けた。

「さあ、おいで。疲れただろう? お腹が空いたろう?」

サルバロスは玉座に座り、指先から甘い香りのする菓子や、極上のワインを無限に湧き出させていた。

「私の力があれば、君たちはもう働く必要はない。汗水垂らして泥にまみれるなんて、野蛮人のすることだ」

その言葉は、国を失い、心身ともに疲れ果てていた難民たちの心に、毒のように染み渡っていった。

「ああ、サルバロス様……! ありがとうございます!」

「もう働かなくていいんだ! ここは楽園だ!」

一人、また一人と、農具を捨ててサンクチュアリへと吸い込まれていく。

かつて砂漠の国で起きたことと同じ。

「努力の放棄」と「奇跡への依存」。それが崩壊への第一歩だとは知らずに。

一方、北側の畑エリア。

カイトは、少し寂しそうな顔で畑を見回していた。

雑草が少し伸びている。

収穫時期を迎えたキュウリが、採り手がいなくて大きくなりすぎている。

いつもなら難民の人たちが手伝ってくれていた場所が、今は静まり返っていた。

「……みんな、来なくなっちゃったね」

カイトが呟くと、隣で黙々と作業をしていたオークの 将軍(ジェネラル) が鼻を鳴らした。

「ブヒッ。人間とは脆いものですな、カイト様。あの 優男(サルバロス) の甘い餌に釣られて、働く喜びを忘れてしまうとは」

「……うーん」

カイトは首を傾げた。

彼が感じているのは、怒りではない。

もっと根本的な、胸の奥がザワザワするような「違和感」だった。

カイトは 鍬(くわ) を置き、南のサンクチュアリへと向かった。

天幕の中は、異様な熱気に包まれていた。

働かずに満腹になり、酒に酔い、サルバロスを讃える歌を歌う人々。彼らの顔は笑っているが、その目はどこか虚ろだ。

「やあ、カイト君! 君も仲間に入りに来たのかい?」

サルバロスがワイングラスを片手に、余裕の笑みで手招きした。

「どうだい、この光景は。みんな幸せそうだろ? 君が強いていた『労働』という呪縛から、私が解放してあげたんだ」

サルバロスは勝ち誇った。

カイトが反論すれば、「君は民衆を苦しめたいのか?」と論破するつもりだった。

しかし、カイトは真っ直ぐにサルバロスを見つめ、静かに言った。

「……サルバロスさん。君の作った野菜や果物には、『種』がないね」

「……は?」

サルバロスの動きが止まった。

予想外の指摘。

「さっき、君が作ったトマトを見たんだ。真っ赤で綺麗だけど、種が入ってなかった。……それじゃあ、次は育たないよ」

カイトの言葉は、農業の話であり、同時にこの「楽園」の本質を突いていた。

「食べて、おしまい。……未来に繋がらないんだ。そんなの、命じゃないよ」

カイトは悲しそうに、酔い潰れている難民たちを見た。

「彼らも同じだよ。今だけ楽しくても、明日へ繋がる『 種(ちから) 』を無くしてしまったら……この魔法が消えた時、彼らはどうなるの?」

ドキリ。

サルバロスの心臓が跳ねた。

バレている?

この農夫は、私が最後にはしごを外し、彼らを絶望に突き落とす 未来(シナリオ) を、本能的に察知しているのか?

「……ふん。生意気な口を」

サルバロスの仮面(笑顔)に、ピキリと亀裂が入った。

「未来? 種? そんなものは私が無限に供給してやればいいことだ。私は神に近い存在なのだからな」

「違うよ」

カイトはきっぱりと否定した。

初めて見せる、頑固な「農家のオヤジ」の顔だった。

「土と、水と、お日様と、人の手。……全部が揃って初めて『実る』んだ。君のやり方は、ただの『消費』だよ。……僕は、そんなの認めない」

決定的な決裂。

カイトは背を向けた。

「行こう、ポチ。……ここは空気が悪いや」

カイトの足元で、影がグルルと唸った。

サルバロスは、去っていくカイトの背中を睨みつけ、ワイングラスを握りつぶした。

パリンッ!

「……認めない、だと? この私が? 下等な農夫ごときに?」

サルバロスの瞳から、慈愛の光が消え、どす黒い愉悦と殺意が浮かび上がった。

「いいだろう。そこまで言うなら見せてやる。……私が作り上げる『最高の絶望』をな!」

農場は完全に二つに割れた。

カイトを信じて働く者たちと、サルバロスに依存する者たち。

そして、その様子を遠くから眺めていた魔王ラスティアが、ついに動く。

「……確信したわ。あの男、やっぱり『黒』ね」

彼女の手には、サルバロスの正体を暴くための、ある「証拠」が握られていた。

次回、魔王VS偽救世主!

「ラスティアの看破」へ続く!