作品タイトル不明
EP 5
【炸裂】ホーリー・スマッシュ(物理)と借金取りの幻影
「うおおおおッ! なんでこんな時期に『鉄甲突進イノシシ』が畑に出るんだよ!」
カイト農場の第4エリア。
S級農民のカイトは、クワを構えて冷や汗を流していた。
目の前にいるのは、体長3メートルを超える巨大な魔獣【鉄甲突進イノシシ】。鋼鉄のように硬い皮膚を持ち、一度突進を始めればポポロ村の家屋すら粉砕するBランク指定の危険生物だ。
そいつが今、カイトが丹精込めて育てた『甘熟ハニー・キャベツ』の畑を、ヨダレを垂らしながら睨みつけていた。
「くそっ、あいつに畑を荒らされたら、また今月の利息が払えなくなる……!」
カイトが覚悟を決めて前に出ようとした、その時。
「(カンペを勢いよくめくり)……待ってください、カイトさん! ここは女神である私にお任せを!(そして凛々しい顔で前に出る)」
ト書きを丸読みしながら前に飛び出してきたのは、桃色ジャージに健康サンダル姿のリリスだった。
その手には、食べかけのたい焼きが握られている。
「ふぇぇぇ……あいつが畑を荒らしたら、私のお昼ご飯(キャベツと豚肉の味噌炒め)が消滅しちゃいますぅ! それだけは絶対に許しません!」
動機は完全に「食欲」だったが、女神が戦ってくれるなら好都合だ。
「リリス、頼む! お前の女神としての力を見せてくれ!」
「はいっ! 天界の『神聖魔法アプリ』で、あのイノシシを浄化しますぅ!」
リリスはたい焼きを口に咥え、軍用レベルのゴツいハードケースに包まれた『エンジェルすまーとふぉん』を構えた。
そして、人差し指で力強く画面をタップする。
『ピピッ。エラー:残高不足および信用情報ブラックのため、神聖魔法の出力が1%に制限されています』
「……アババババッ!? 魔法が出ませんぅぅ!!」
「ルチアナの作った借金のせいで通信制限かかってんじゃねーか!!」
もたもたしている間に、鉄甲突進イノシシが前足を掻き、地響きを立てて猛突進を仕掛けてきた。
「ブモォォォォォォッ!!」
「ひぃぃぃ!? 来ますぅぅ!」
時速100キロで迫る鋼鉄の塊。
カイトが「逃げろ!」と叫んだ瞬間、リリスの脳裏に、先日ルチアナから受けた『恐怖の集金』と『空から降ってきたスーツケース』の記憶がフラッシュバックした。
(このままじゃ、畑が壊される……。畑が壊されたら、借金が返せない……。借金が返せなかったら……また、ドナドナされるぅぅ!!)
『払え。さもなくば脱げ(差し押さえ)』
リリスの背後に、マグローザ漁船のタコ部屋を管理する「ヤミ金業者(借金取り)の幻影」が、まるで 背後霊(スタンド) のようにヌゥリと浮かび上がった。
「……嫌ですぅ。もうあんな思いするのは、絶対に嫌ですぅぅ!!」
リリスの瞳に、ウサギのような涙目とは違う、修羅の光が宿った。
彼女はエンジェルすまーとふぉんを逆手に持ち直し、その**「最も硬く、鋭利な 角(カド) 」**をイノシシの眉間へと向けて構えた。
「神罰執行! ホーリー・スマッシュ(物理)!!」
背後の「借金取りの幻影」が、リリスの動きに合わせて腕を振り下ろす。
借金のストレスによって威力が通常の3倍に跳ね上がった、一切の慈悲もないフルスイング。
ゴッシャァァァァァァァァァァンッ!!!!
衝突の瞬間、轟音とともに強烈な衝撃波が巻き起こった。
神聖オーラ(物理)を纏ったスマホの角は、イノシシの鋼鉄の皮膚をバターのように貫通し、脳天にクリーンヒット。
「ブ、モ……ォ……?」
鉄甲突進イノシシは白目を剥き、そのままズドォォンッと巨体を揺らして即死した。
「……ふう。やりました! カイトさん、私やりましたよ!」
リリスは、スマホの角についたイノシシの脂をジャージの裾で拭きながら、ドヤ顔で振り返った。
その背後で、借金取りの幻影が「チッ、今月は勘弁してやる」とばかりに消えていく。
「……お前、スマホの使い方絶対間違ってるだろ。ていうか、あの背後霊みたいなの何だったんだよ……」
カイトは、無傷の軍用スマホと、一撃で絶命したBランク魔獣を交互に見てドン引きしていた。
「えへへぇ、これで今日の晩御飯は『特上ボア肉のステーキ』ですね! 労働の後のご飯は最高ですぅ!」
「お前は一回もクワ振ってないだろ……。まあいい、これで肉には困らないな」
カイトが安堵のため息をついた、その直後だった。
『ピピッ。衝撃を検知。緊急ショートカット機能が起動しました。【天界特製・超高級マッサージチェア(50万円)】をワンクリック決済しました』
「……は?」
カイトとリリスの動きがピタリと止まった。
先ほどの「ホーリー・スマッシュ」の衝撃が強すぎたせいで、画面に触れていたリリスの指が、誤って謎の広告バナーを連打してしまっていたのだ。
『警告:借金残高がさらに増加しました。次回の支払日をお楽しみに!』
キュインキュインキュイーーーン! という無慈悲な大当たり音が鳴り響く。
「アババババババババッ!!! 買ってない! 私買ってないですぅぅ!!」
「バカ野郎ォォォ!! せっかくイノシシ倒したのに、被害額が桁違いに増えてんじゃねーか!!」
カイトの絶叫と、リリスの「アバババ」という悲鳴が、平和なポポロ村の夕暮れに虚しく響き渡る。
女神の必殺技は、魔獣だけでなく、自分自身の首をも物理的に絞める諸刃の剣であった。