作品タイトル不明
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クローゼン大陸の中央。内陸部を占めるヴィヴァーレ王国の、南東に位置するサマラヴォイ聖国。
小国ながら大国並みの国力と影響力を有するこの信仰国家は、クローゼン大陸の民達に根付いている『ヴォイエス教』の総本山である。
「猊下、北部のテラコーヤ王国に属する領地の教会から、このような書状が届いておりますが」
「……ふむ、我が国の信徒達が、奴隷狩りに攫われていたと?」
近年、とある鉱山の採掘権を巡り、ヴィヴァーレ王国との小競り合いが続いて緊張が高まる中。サマラヴォイ聖国の信徒が、ヴィヴァーレ王国領内で行方不明になるという事例が相次いでいた。
「ヴィヴァーレ王国側が意図的に我が国の信徒を狙っていた、というわけではなさそうだが」
「はい。たまたま地方領地を巡礼中に攫われたものかと」
届いた書状の内容によると、奴隷狩り集団は攫った人々を一ヶ所に集めるべく、国境地帯に潜む盗賊団のアジトを目指していた。
その際、テラコーヤ王国へ越境するルートを使って異界化領域内に入り、そこで人攫いが発覚し捕縛されたという。
この時、異界化領域内でダンジョンに助けを求めたのが、サマラヴォイ聖国出身の修道女だったらしい。
「ダンジョンに助けを求めた……?」
「ハイスーク領のイレギュラーダンジョンの事です。猊下のお耳にも入っていませんか」
訝しむように呟く枢機卿に、側近の司祭が補足を入れる。
「いや、確かに聞いてはいる、が……アレはどこまでが本当なのだ?」
人間に友好的なダンジョンと意思疎通を果たしたハイスークの領主が、地上にダンジョン で(・) 楽園を築いている、などという話は、流石に荒唐無稽が過ぎる。
「いえ、殆どそのままの内容で合っています」
荒唐無稽な御伽噺が「大体あってる」と聞かされて唖然とする枢機卿。
少し前に、テラコーヤ王国の王都カンソンに置かれたヴォイエス教会本部から、聖域認定の申請とお伺いの書簡が送られて来ていた。
その内容は、ハイスークの領主から最西端の古い森を聖域に認定して欲しいとの要望を受けているので、鑑査隊派遣の許可を求めるというものだった。
ハイスーク領は教会への寄付金や心付けもかなり多く、司祭達にも評判が良かったが、あの辺境の領地はテラコーヤ王国内でも悪い噂が絶えず、長らく問題視されていた。
ヴォイエス教会による聖人認定や聖域認定などの祝福は、政治的な思惑や箔付けに利用される事もしばしば。故に、ハイスーク領主の申し出も慎重に見定めなければと保留にしていたのだ。
側近の司祭が、ハイスーク領の現状について語る。
「テラコーヤ王国内で今最も強い発言力を有しているのがハイスーク領です。直近の王国功労賞で序列一位を取り、それに掛かる恒例の大舞踏会に参加した貴族達は、その殆どがハイスーク領と友好を願い出たとか。最近では冒険者ギルドが本部を王都カンソンからハイスークの新領都に移転していますし、実はヴォイエス教会本部もハイスークの新領都に移りたいと相談が――」
「それほどまでにか……」
側近司祭の熱弁に思わず仰け反りながら呟いた枢機卿は、しばし熟考して結論を出す。
「ヴィヴァーレ王国との抗争の問題もあるし――ハイスーク、ひいてはテラコーヤ王国と縁を深めておくのも、悪くはない、か……」
この枢機卿の判断により、聖域認定の可否を担う鑑査隊の派遣に許可が下りたのだった。
※ ※
国境地帯の地下に配管ダンジョンを通しつつ、所々で潜望鏡のように地上まで伸ばして視点を作り、周辺一帯を探っている街づくり好きな迷宮核。
この視点は目立たないよう、石ころや樹木に偽装している。
「お、討伐は上手く行ったみたいだけど、重傷の怪我人が出てるな」
盗賊団のアジト前に作った視点に、討伐隊と救出されたらしき多数の被害者達が映ったのだが、討伐隊メンバーの血濡れの姿は、返り血だけというわけではなさそうだ。
「被害者集団の健康状態も悪そうだし、このままだとサービスエリアに戻る前に脱落する人が出そうだな」
被害者達の有様からして、監禁場所の衛生環境も酷い状態だったであろう事が窺い知れる。
「既に討伐と救出は成ってるし、ここからは手を出してもサポートの範疇だな」
そう判断した街づくり好きな迷宮核は、アジト前視点を起点に領域化地帯を拡げて、一時休憩所を構築する事にした。
地面に転がっている『普通の石』に偽装した視点から水撒き柱を生やし、周囲に散水して手早く領域化地帯を確保すると、均して石畳の土台を敷き、その上にプリセットの休憩施設を置く。
討伐隊メンバーの中でも、特に憔悴した様子だった若い冒険者は、水撒き柱が生えるのを見て泣きそうな表情を浮かべていた。心底、安心したらしい。
休憩施設の中にはゆっくり休める寝台の他、汚れと疲れを落とせる大浴場も設置してあるので、彼らにはサービスエリアに戻るまでに十分な休息をとって回復してもらう。
「後は部位欠損にも効く回復ポーションを追加で支給して、と……こんなもんかな」
『また随分と手厚いことだな』
『――』
この休憩施設にも迷宮自販機が設置されている為、自販機から発行されるクリアメダルの管理で忙しい麓の魔核が、施設内設備の管理を担う中腹の魔核も巻き込んで皮肉を投げかける。
「まあ初回特典みたいなもんだよ。本格的な依頼を出したのはこれが初めてだからね」
何事も初めが肝心。『ダンジョンからの依頼は美味しい』と周知されれば、今後も何かあった時に冒険者達は率先して引き受けてくれるだろう。
街づくり好きな迷宮核は、そう言って今回の優遇措置の意義を説いた。
「あと、このアジトは罠にしよう」
小規模な洞窟を利用した盗賊団のアジトだが、このまま放っておけばまた別の盗賊やらが住み着いて拠点に使われたりするので、崩落させるなどして使えなくするのがセオリーだ。
が、せっかくここまで配管ダンジョンを伸ばしてきたので、中を領域化してある程度は人が滞在できる環境にした上で放置。
悪党が利用しに来たならば情報を吸い上げて処理。訳アリの旅人や不測の事態でここを訪れる事になった一般民には、安全に一晩を明かせる避難所的な施設にする。
「ちょうど国境地帯だし、隣の国までこっちの領域を伸ばす足掛かりにも使えるだろ」
もし、この前の孤児達のような身寄りのない者や、行き場を失った人々が集まったならば、ここに名もなき村を作るのもいい。
「派手にデカい街ばかり弄ってると、たまに素朴な小さい集落とか作ってみたくなるんだよなぁ」
秘密基地っぽい、ささやかな居住空間から始まる集合体が、やがて村を形成していく。
その過程を観察するのがまた面白いのだと、街づくり好きな迷宮核がアジト跡の洞窟を弄りながら語っていると、西の森の魔核から『ま~た始まった』という呆れ交じりの思念が流れて来た。
だが、なんと評されようとそこはブレないし譲れない街づくり好きな迷宮核なのであった。
アジト跡の洞窟は、見た目だけ少し人の手が入っている放棄された拠点風に整えた。奥に一台だけ迷宮自販機を置いてある。迷宮の泉も設置して完成だ。
「さて、ここはこれでいい。それで? 西の森に教会関係者が向かってるって?」
『うむ。件の聖域認定とやらが関係しているようだ』
先程、西の森の魔核が呆れ交じりの思念で伝えてきた、本題の内容。王都カンソンの教会本部から出発したと思しき関係者集団が、領域化街道を通ってスクールの街に到着した。
その集団が入ったスクールの街にある教会内での会話で、彼らが聖域認定の可否を審査する『鑑査隊』という者達である事が分かった。
「そっか、いよいよか」
街づくり好きな迷宮核と、三つの魔核が鎮座する西の森が聖域に認定されて、教会を後ろ盾に付ける事が出来たなら、同盟領地以外の住民からも信頼を得やすくなる。
大きく動くのはそれからだと、以前に街づくり好きな迷宮核が言及していた通り、順調に事が運んだならば――
「訓練施設の増築を準備しておこうか」
各同盟領地に新たな『迷宮ランド』を開設する事で、近隣の領地からも客を集めて一気に利用者を増やしていける。
「支店第一号は『ゼイラーロフ迷宮ランド』かな?」
『ひとまず、ハイスークの 主(ぬし) にも伝えておくぞ』
『我の負担が際限なく増えそうな予感がする』
『――』
ご当地迷宮ランド構想をぶち上げる街づくり好きな迷宮核に、魔核達は各々必要な手続きの準備に入ったり、地方ごとの運営方針を模索したり、魔素配分の見直しを検討したりするのだった。