軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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テラコーヤ王国と隣国、ヴィヴァーレ王国を繋ぐ街道には、幾つかのルートがある。

孤児の兄妹がハイスーク領都に向けて旅立った 休憩場所(サービスエリア) から、二日分ほど離れた場所にある隣の領地の国境地帯。

こちら側のルートは森の中を通る為、道の状態が悪く盗賊も跋扈しており、治安は最悪レベル。真っ当な商人や旅人が使う事はまずないと言われている。

そんな道だからか、真っ当ではない輩による曰く付きの荷物の運搬路としてよく利用されていた。

ヴィヴァーレ王国側から国境まで続いていた悪路は、テラコーヤ王国側に入ってから急に整備された街道に変わる。

以前はこの辺りも荒れた道が続いていたのだが、テラコーヤ王国側の領地がハイスーク領と同盟契約を結んでおり、最近になって国境地帯まで立派な石畳の街道が敷かれたのだ。

その街道脇にある休憩場所に、ヴィヴァーレ王国側から来た物々しい集団が入場する。

不揃いな革鎧や得物を装備した武装集団は、荷台が全て檻になっている馬車を護衛していた。檻の中には複数人の若い女性や子供の姿。

「おー、やっとついたか」

「なんだここ? マジで石畳が敷かれてやがる」

「おい、あれって魔鉱石のランプじゃねーの?」

「触るなよ? 下手に盗もうとしたら、即おっちぬ事になんぜ?」

ごろつきのような雰囲気の護衛達は、初めてここを訪れた新入りの者が珍しそうに周囲を見渡し、何度か利用した事のある者から注意を受けている。

彼らはヴィヴァーレ王国の奴隷商に雇われている奴隷狩りの一集団であった。

ヴィヴァーレ王国は主産業が奴隷貿易と鉱山開発で、国境を接するテラコーヤ王国に対しては中立を表明しているが、あまり友好的とは言い難い。

今はとある鉱山の利権を巡り、南東の宗教大国、サマラヴォイ聖国とちくちくやり合っているので、北部のテラコーヤ王国にまで兵力を回せない故の中立宣言であった。

商隊のリーダーが号令を掛ける。

「よーし、今日はここで野営だ。適当な 商品(奴隷候補) を三人ほど連れてこい」

「お、今夜の相手っすか?」

「ばっかちげーよ、アレを使わせるんだ」

リーダーの指示に下卑た冗談を飛ばす新入りに対して、熟練の商隊員は壁際に並ぶ四角い箱を指して言った。

「あれは最近テラコーヤ国の街で見かけるようになった、『迷宮自販機』って魔道具だ」

誰でも気軽に買い物ができる魔道具。宿や酒場などの屋内だけでなく、こうして野外にも設置されている。

テラコーヤ国の通貨以外に、宝石などの現物の他、利用者の魔素を捧げての買い物もできるという。嘘か実か、ダンジョンと繋がっていると聞く。

「へぇ~、そういやテラコーヤ国って王都にダンジョンがあるんだっけか」

しかしなぜ、その噂の迷宮自販機とやらを、わざわざ 商品(奴隷候補) に使わせるのかと疑問を浮かべる新入りに、熟練商隊員は自分達の立場の問題だと説明する。

「俺達は こっち(テラコーヤ) じゃ違法な存在だからな。触れると攻撃されるんだ」

ヴィヴァーレ王国では合法な奴隷商と正式に契約を結んでいるとはいえ、商品の仕入れ方法が人攫い式の奴隷狩りなので、そこを知られるとヴィヴァーレ側でも一応違法扱いになる。

迷宮自販機は、野盗や盗賊団など法を犯した者を判別できるらしく、触れると取引を拒否される。もし触れた者が賞金首だったりした場合、即座に殲滅を狙ってくるという。

「なんか魔法でズバッとやられるそうだぜ」

「へぇ~、おっかねぇ」

なぜそんな危険な魔道具が置いてある場所で野営するのかといえば、自分達奴隷狩りが立ち寄れるような辺鄙な村や集落で休むよりも、よほど居心地が良いからだ。

手順さえ誤らなければ、このダンジョンと繋がっていると言われる整備された休憩場所は、どこよりも快適に過ごせる。

危険な場所でもルールに従えば安全快適に過ごせるという点では、スラムのそれと変わりない。そんなわけで、奴隷を降ろして迷宮自販機で補給物資を買わせるという『手順』ができあがった。

なるべく罪を犯してなさそうで、それなりに魔素の多そうな者を選ぶ。

「となると、こいつらだな」

檻から降ろされたのは三人の若い女性で、旅人仕様の神官服をまとっていた。彼女達は巡礼中に奴隷狩りの被害にあった、サマラヴォイ聖国の修道女達であった。

「お前らに食わせる分も買うんだからな、言う通りにやれ」

「……わかりました」

指示役が後ろに付き、彼女達を迷宮自販機の前に立たせる。まずは利用者登録とメダルを手に入れるところからだと、自販機の筐体に触れさせた。

※ ※

『んん?』

「なんかあった?」

クリアメダルの管理をしている麓の魔核が、何かに引っ掛かるような反応を示したので、街づくり好きな迷宮核は声を掛ける。

『この前、お前が貧相な 童子(わらし) の世話を焼いた地域に、妙な反応がある』

「隣国との国境地帯か。あの辺り、盗賊とかが多いんだよなぁ」

あからさまに サービスエリア(休憩場所) 内の備品や設置物を盗んでいこうとする者が多かった。文字盤や音声ガイドで十分警告したのち、それでも止めなかった者を何人か処分・吸収している。

その吸収した者から得た記憶知識で分かった事だが、どうやら隣国は主産業である奴隷貿易と鉱山開発の為に、国内で活動する違法な奴隷狩りに大分お目こぼしをしているようだった。

あの孤児の兄妹から、やけに奴隷狩りを警戒する心情が読み取れた背景には、そういう事情があったようだ。

「修羅の国だな」

隣国の在り方にそんな感想を浮かべた街づくり好きな迷宮核は、麓の魔核が言う『妙な反応』の正体を確かめるべく、その近くに意識を繋ぐ。

「んん~?」

『な、奇妙だろう?』

サービスエリア内は全面が領域化地帯なので、その場にいる全員の心情を確認できるのだが、明らかに被害者を表す心情と加害者を表す心情に分かれていた。

「これ、現在進行形で犯罪が起きとるやん」

『ふむ、そうなのか?』

どうやら魔核達には、人間の心情の機微までは理解できていなかったようだ。

明瞭に定めたルールに反しているかいないかで判断しており、賞金首のリストに載っているとか、完全な違法状態が確立されていなければ、そこに犯罪が発生している事が分からないらしい。

この辺りは、もっと人間社会の事などを知れば分かるようになるだろうと、街づくり好きな迷宮核は気長に構える。

とりあえず諸々の管理業務をそのまま魔核達に任せつつ、街づくり好きな迷宮核は今現在、このサービスエリアで起きているトラブルの対応に入った。

※ ※

迷宮自販機での買い出し役に指名された修道少女は、奴隷狩りの指示役に言われた通り、その筐体に触れて利用者登録を行い、発行されたクリアメダルを入手した。

強い呪いの気配はするのに、邪悪さは全く感じないという不思議なメダルだった。買い物の準備が整ったので、後は通貨を使うか、魔素を捧げて商品を購入するのだという。

「魔素払いを宣言してパンと干し肉を買えるだけ買え。魔素が余ったら回復薬もだ」

巡礼に出られるほど地力のある修道女三人分の魔素量なら、今回運んでいる 商品(奴隷候補) の食い扶持を賄えるだろう。

清浄な水もただで汲み放題だし、食料や医薬品、衣類に至るまで、元手を掛けず揃えられるこの休憩場所は、やはり最高の中継地点だと改めて思う指示役の商隊員。

そうして修道少女が魔素払いを告げようとしたその時、迷宮自販機から文字盤の文字と音声による問い掛けがあった。

『いま、あなたは犯罪に巻き込まれてはいませんか?』

思わず息を呑んだ修道少女は、自販機に向かって叫んだ。

「!っ た、助けて! 人買いにさらわれてるの!」

「おい! 勝手な事するんじゃ――」

バシュッ

指示役の商隊員が修道少女につかみ掛かろうと手を伸ばした瞬間、自販機脇に生えた太い石柱から白い線が走り、その腕を斬りとばした。