軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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西の森近くの村で動作テストを終えた迷宮自販機は、改良を加えながらハイスーク領都の城内や城下街にも設置して引き続き利用者の声を拾い、ラインナップにも反映させていった。

冒険者と一般住民、商人達で求める物品の傾向も違ってくる。商品の仕入れ元にならないように購入制限を設けるなど、新しい機能を追加していく。

この過程で、初めて利用する相手には『無料会員登録』を課す方法を思いついたので、機能に盛った。

「これで転売目的の過剰な購入を防げるな」

穢れ山迷宮ランドで発行される攻略証明書代わりの『クリアメダル』を会員証として併用。無害な呪いの装備であるクリアメダルが大量に生成される事となった。

個人ごとに紐づけされていて、簡単な個人情報も記録しているクリアメダルは、偽造も複製もできないし、他者のメダルを使う事もできない。

落としても勝手に持ち主の手に戻ってくるので、失くしたり奪われたりする心配もない優れもの。

メダル側に記録された情報は、ダンジョンの領域にアクセスする度にダンジョン側にも蓄積される。

クリアメダルの情報管理は、穢れ山迷宮ランドの 迷宮施設(アトラクション) 全般を取り仕切っている麓の魔核に任せられていた。

『ふははっ! ダンジョンに直接関わらぬ外の人間の名簿がどんどん増えるぞ』

「冒険者ギルドの名簿とも連携させたいな。あとこれ、魔素払いの仕組みと上限設定ね」

総合訓練施設の運用と、その利用者を中心に情報管理をしていた麓の魔核は、迷宮自販機を通じて得た冒険者以外の情報、地上で生活する一般市民の動きまで把握できるようになった。

それにより、自身の支配領域が広がったように感じたようだ。何かテンションが高い。

地上の管理に関しては、中腹の魔核が既にハイスーク領の領域化地域全体を把握しているが、敢えて指摘する事もなく、街づくり好きな迷宮核は必要な管理システムを組み上げて麓の魔核と共有した。

『ほう、個人が捧げられる魔素と引き換えに商品を与えるのだな? これも面白い仕組みだ』

迷宮自販機で商品を購入するには、通貨を投入して欲しい商品の見本メニューから選ぶ方法と、通貨の代わりに自身の魔素を捧げて購入する方法を用意してある。

利用者には会員証としてクリアメダルが発行され、クリアメダルに本人証明の機能が備わっているので、実質キャッシュレス決済が可能になった。

迷宮自販機のラインナップには通常の飲料水から軽食、冒険者のお供であるポーション類の他、薬草茶や気付け薬用にお酒も並んでいる。更には衣類や靴の類まで揃っていた。

これらの仕様により、迷宮自販機が設置されている街には、大きな恩恵がもたらされた。

ハイスーク領と同盟契約を結んでいる領地の中でも、全面領域化を希望したゼイラーロフ領や、ハイスークの属領となったオーテイア領の街角に、まずは試験的に設置された。

「やった、今日はパンと肉も買える!」

「僕はまだパンの分しかないや」

「もっと訓練して鍛えたら、魔素もふえるぜっ」

「あしたは西の畑の防衛だ」

街門近くの壁際に設置された自販機に群がる、小奇麗な恰好をした孤児達が、魔素払いでパンを買いながら 良い感じの棒(木の枝) を掲げて、畑の害虫駆除の仕事について語る。

お金が無くても最低限の食べる物と着る物が手に入る環境は、多くの孤児や浮浪者など、行政の手が届かない持たざる弱者達の命を救い、街からスラムのような犯罪の温床地帯を一掃した。

自然と盗みを働く者が減り、地味に治安も良くなっていく。

迷宮自販機の噂は商人達から他所の街まで広まり、王都近郊なら比較的交通網が整備されている事もあって、わざわざ迷宮自販機を使いに他領から訪れる観光客も増加しつつあった。

たちまち観光黒字を計上したゼイラーロフ領とオーテイア領。その評判を聞いた他の同盟領地からも、迷宮自販機の設置を求める声が上がり始めた。

ダンジョンの領域化は最低限の範囲を希望していた領主も、迷宮自販機の設置場所を確保する為に少しずつ領域化地帯の拡張を受け入れている。

特に、自領内に手の施しようのない貧民街を持つ領地ほどその傾向が顕著だった。

『しかし、冒険者ではない人間の魔素量の貧弱さよ。これなら訓練施設の出張所を作っても良いのではないか?』

麓の魔核は、穢れ山ダンジョンがその山周辺に住む原住民の信仰対象だった頃の記憶(中腹の魔核の記憶だが)を思い出しながらそんな提案をする。適度な試練を与えて鍛えてやらねばと。

穢れ山迷宮ランドの訓練施設全般を管理している麓の魔核は、冒険者の卵から熟練者達、ろくに戦闘経験もない一般民など、様々な人間の施設利用を見守ってきた。

時にギミックの設定をいじって難易度を調整したりもしている。以前、街づくり好きな迷宮核に指摘された、『忖度による成功体験を与えてのリピーター確保』を実践していた。

その影響なのか、すっかり迷宮インストラクターのような視点を持つようになっていた。それが故の提案だったのだが――

「それはもっと先かな」

街づくり好きな迷宮核は、同盟領地に『穢れ山迷宮ランド』のような訓練施設を置くのは、十分な下地を整えてからだと説く。

「ハイスークの領主さんが俺達の居る森を聖域に認定するよう教会に働きかけてるから、大きく動くのはその後だな。教会が味方に付けば、同盟領地以外の住民からも信頼を得やすくなる」

『ふむ、信仰か。 西の(あやつ) も言っていたが、人間の信頼なぞ得ても魔素の足しにもならんと思うが』

麓の魔核は、いつぞやの西の森の魔核と同じような反応を示した。街づくり好きな迷宮核は、もう少し具体的な説明が必要かと判断して、将来の計画の一部を明かす。

「ダンジョンの恩恵がもっと人間社会に浸透してさ、完全に生活の一部にまで融合するんだよ」

教会が授ける洗礼のように、街で子供が生まれたらすぐクリアメダルを発行してダンジョンに登録するような仕組みを作れば、その人の出自を保証したり、戸籍を管理したりできるようになる。

『そ、それは……全ての人間を支配しているようなものではないか』

「流石、麓の魔核は理解が速い」

街づくり好きな迷宮核が目指す地上型ダンジョンの最終形態は、人間社会との一体化。日々の生活と切り離せないところまで融合してしまえば、人の繁栄が続く限りダンジョンも終わる事がない。

『お前の発想は素晴らしいな!』

麓の魔核は、壮大で実に自分好みな計画に感心して、街づくり好きな迷宮核を褒めそやした。すっかり 彼(迷宮核) のやり方に染まっているようだ。

打ち解けた二人? のやり取りをすぐ隣で聞いている西の森の魔核は、何故だか気分がモヤモヤするという謎の現象を訝しんだ。

『……(はて? この感覚は一体)』

『――』

『なんだ?』

『――』

『そんなわけが無いだろう。あの迷宮核は私のだ』

『――』

『馬鹿馬鹿しい。我らは魔核だぞ? 人間や動物とは根本的に在り方が違う』

『――』

『……迷宮核の方針が? いや、それは……だが確かに、その影響は……』

西の森の魔核に『感情の揺らぎ』が生じた事を感じ取った中腹の魔核は、慣れた街管理タスクをこなしながら雑談に興じる。

中枢の魔核が不安定になるとダンジョン全体に影響が出るので、魔核情緒のケアは大事だと、穢れ山ダンジョンで迷宮核をやっていた時代に学んだ。

『――』

『それはまあ、そうだが……そもそもあやつが私の教導を無視するから!』

そんな調子で、しばらく二人の『魔核トーク』が続いたのだった。