軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

吸収した盗賊達は、概ね半数ほどから記憶情報を入手できた。

有用そうな情報はさらに半分まで減り、内容も大体被っているので同じ情報内容の正確さを測る目安くらいにしか使えなかった。

だが、使える情報自体には中々面白い内容があった。

アーチ門を作った先にある街だが、名を『スクール』。一通り施設が揃っているがどうやら小規模な街らしく、あそこから二日分ほど離れた場所にもっと大きな街があるようだ。

そして、スクールの街から半日ほど離れた場所にダンジョンがあるらしい。

スクールの街は、この地方の中心となる大きな街から来た冒険者達が、そのダンジョンに向かう為の中継地点だという事が分かった。

街づくり好きな迷宮核は、ならばそっちのダンジョンに挑戦する冒険者達の為に道を作ろうかと考える。

「そのダンジョンの近くに街はないのかな」

盗賊達の記憶情報からは、そちらのダンジョンに関する詳細は得られなかった。

吸収した盗賊の一人に『元冒険者』の肩書を持つ者が居たので記憶内容を注視すれば、その男がどんな人物で、どのように生きて来たかが示される。

酒癖、手癖が悪く、信用を失って仲間ができず、冒険者を挫折した。なので、ダンジョンに挑んだ事はないらしい。

この辺りに潜伏していたのは、ダンジョンに挑みに来たまだ力の弱い新人冒険者や、冒険者達と現地で取引する単独の商人を狙っていたようだ。

鳥の地理情報にも街らしき形は見当たらない。ただ、ダンジョンの位置は分かった。

スクールから伸びる街道らしき太めの道がそこそこ離れた場所にある山の麓に続いており、その一帯は切り開かれてぽつぽつとテントっぽい物が並んでいる感じ。

鳥の視点から見た記憶の情報故に、どこまで正確に把握できているかは測れないが、居住用のしっかりした建物は見当たらない。

ここ数日の記憶情報なので、建物の配置は今現在も大きく変わらないだろう。

「ダンジョンの周りに街がないなら、こっちで作らせてもらおう」

人が集まる場所にこそ快適な居住環境を用意すれば、規模もどんどん膨らむ筈。そんな計画を立てる街づくり好きな迷宮核に、魔核から警告が下される。

『他所のダンジョンとかち合えば、喰い合いになる』と。

『現状では戦力不足。接触は避けるべき』

「喰い合いって具体的にどうなるんだ?」

魔核は、他所の魔核と戦う準備ができていないので、近づかない方が良いと訴えている。

ダンジョン同士が接触すると互いに侵食が始まり、喰われたダンジョンの魔核は喰った方にそのダンジョンごと取り込まれるらしい。喰われた方の迷宮核は大量の魔素として吸収される。

多くの喰い合いを勝ち残ってきた巨大なダンジョンは、喰った数だけ魔核を有しており、それらはダミー魔核に使われたり、ダンジョンの一部エリアを管理させるなど従わせられるそうだ。

「それは便利そうだな」

巨大な街や拠点、いくつもの施設を造ったとして、一人で全て管理するのは大変なので、方針に従って運営してくれるサポーターができるのは助かる。

「いずれ都市レベルの街ができたら、分野毎に役割振り分けるのもいいな」

などと、自分が喰われるかもしれない事など微塵も憂慮していない迷宮核に、魔核は頼もしいと喜べば良いのか、危機感が足りないと嘆けばいいのか迷った。

「さて、他所のダンジョンまで道を敷くのは またそれ(喰い合い) 用の武器を作ってからとして――」

盗賊達から得た知識にはもう一つ、活用できそうなものがあった。

それは賞金首制度で、冒険者達の中でも賞金稼ぎを生業にする武闘派が居るくらいには浸透している。社会秩序機構の一つとして機能しているようだ。

そして、吸収した盗賊達の中には賞金首が居た。

何人かはもう跡形もなく吸収してしまっているが、この情報を得てから首だけ残すように調整した。盗賊の持ち物なども保管している。

「記憶情報によると、賞金首の討伐は冒険者じゃなくても有効らしい」

『……』

この迷宮核が今度は何をしようとしているのかを察した魔核は、流石に閉口するしかなかった。

※ ※

スクールの街から辺境方面に出て少し進んだ先には、異界化した街道とその入り口を示しているかの如く、凝った彫刻を施されたアーチ門が鎮座しており、今も調査が続いている。

異界化の侵食が止まった為、街の住人の避難も一時取りやめとなっているが、まだ予断は許されない状況。

領主の正規軍が到着次第、イレギュラーダンジョンの討伐は再開される見通しだ。

一方で、ダンジョン研究者たちの中には、このイレギュラーダンジョンの討伐に異議を持つ者が現れ始めた。

異界化の侵食防衛戦であれほどの侵食速度と攻撃力を見せつけながらも、一人の負傷者すら出していない事や、こちらの意思を汲むようなタイミングで侵食を止めた事。

そして、異界に呑まれたと思われていた件の村。

現在の状況を確認に行った斥候調査隊の報告によると、村は完全に姿を変えていたが、村人達は全員健在で、 異形化(モンスター) もしていなければ 不死者(アンデット) にもなっていないという。

村の見てくれと生活環境だけはやたら高品質になっていたが、村人たちはその快適な環境下で平穏な暮らしを続けているというのだ。

それらの報告を聞いたダンジョンの研究者は、このイレギュラーダンジョンには人類に敵対する意思が無いのでは? という仮説を提唱している。

「何を馬鹿な――と言いたいところだが……」

「まあ、アレを見てるとなぁ」

ベテランの冒険者達が仲間同士で集まり、調査中のアーチ門脇で少し離れた場所にある広場を眺める。

噴水のある憩いの場と化している異界化街道上の広場には、若い冒険者やダンジョンの研究者が屯しては、談笑したり寛いだりしていた。

よくダンジョンに挑んでいるらしい高ランク冒険者パーティーメンバーの話では、この異界化街道の空気はダンジョン内にある休憩ポイント――安全地帯のような加護が働いているのだとか。

つまり、この街道には危険な動物や魔物の類が寄って来れないようになっているのだ。

「本当にそんなダンジョンがあり得るのか?」

「いや、そもそもこれをダンジョンって言っていいのか。そこからだな」

そんな掛け合いをしていると、アーチ門の付近で騒ぎが起きた。

「うわっ!」

「なんだこりゃっ!」

周囲にいたベテラン冒険者たちは一斉に臨戦態勢を取り、何があったのかと騒ぎの方向に注視する。

アーチ門の傍に、先程までは無かった石の台座が現れており、その上に生首が並んでいた。

「っ!」

「こいつあ……」

「誰かやられたか!?」

被害を受けた研究者グループや冒険者パーティーは居ないか。この首に見覚えのある者は居るかと、迅速に状況確認が行われる。

その時、冒険者の一人が首を見て気づく。

「んん? こいつ、悪手のカースじゃねえか?」

「何? あ、マジだ」

「知り合いか?」

「いや、賞金首だよ。最近盗賊共と徒党を組むようになったらしいとは聞いていたが……」

元々は大きい街の周辺で長年採取や害獣狩りを続けてきた熟練冒険者だったが、手癖が悪く度々仲間の持ち物を盗んで金に換えたり、新人に絡んで装備を巻き上げたりと評判が悪かった。

組んでいた仲間も大概悪辣な輩だったが、ある時、その仲間から盗人野郎と詰られたカースは、酒に酔った勢いで剣を振るい、相手に重傷を負わせて逃げた。

熟練冒険者だけあって、なまじ腕が立ったのが災いしたらしい。

その後は、ダンジョンに挑むべく中継街のスクールを目指す年若い新人冒険者や、ダンジョンとスクールの間を行き来する単独の行商人を襲って追い剥ぎをしていたようだ。

ある時、行商人に化けた騎士に襲撃を仕掛けて返り討ちに遭い、その場は逃げ遂せたものの、顔が割れて賞金首となった。

そんな経緯を持つ元冒険者の盗賊の首が晒されている。

「しかし……どういう事だ、これは」

「とにかく一旦ギルドに報告しよう」

このまま触らず首検めの役人が呼ばれて、間違いなく『賞金首:悪手のカース』だと確認された。だが、なぜこの賞金首がここに晒されたのかは謎のままであった。

ダンジョン研究者も集められて、今回の出来事の推察が行われようとしていたその時、首が並んでいた台座の前にもう一つ、台座が生えた。

「っ!」

「今度はなんだ!?」

身構える冒険者達。その台座の上には、お皿のような容器が乗っている。

「……?」

「皿?」

「何も入ってないようだが……」

しばらく様子を見ていると、容器の乗った台座が、首検めの役人の前にズイッと移動した。

「ひぇっ!」

「動いたぞ!」

「何なんだ、一体」

さらに、賞金首が並んでいる台座が少し揺れた事で、生首も揺れた。意味が分からない現象に困惑する冒険者達だったが、誰かがふと思い至った事を口にする。

「なあ、もしかして……賞金寄越せって言ってるんじゃねえ?」

「「「……」」」

しんと静まり返る一帯。誰も何も言わなかったが、誰もが『多分、それだ』と思っていた。