軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

10 二度目の挑戦①

――エドアルド隊が滞在する拠点に警鐘が鳴らされたのは、もうすぐ朝日が昇ろうとする時刻のことだった。

「敵襲か!?」

ルーチェを抱きしめて寝ていたエドアルドが起き上がる気配がしたので、ルーチェは今起きたというふうを装って身じろぎをした。

「エド様……今のは?」

「おそらく、新手の魔物だ。ルーチェ、俺はすぐに出るから、君も仕度をしたらテオを連れて救護テントに入ってくれ」

「はい。どうか……お気をつけて」

テントの中だろうといつもどおり上半身の服が脱げていたエドアルドが素早く軍衣を身につけるので、ルーチェも彼が鎧を着るのを手伝った。

そうして「無事で再会しましょう」の気持ちを込めて、互いの頬にキスをした。

エドアルドが出ていって間もなく、テントの外で「失礼します!」とテオの声がした。

「魔物の襲撃が確認されたため、奥様にも至急救護テントにお越しいただきたいです!」

「ええ、すぐに準備するわ」

そう答えながら、ルーチェはエドアルドに抱きしめられて寝たせいで既に半分脱げかけていた寝間着を脱いでローブに着替え、愛用の杖を手にしてテントを出た。

既に拠点のあちこちに明かりが灯されているが、それでも夜明け前の基地はほの暗い。森の方から魔物のうなり声がしており、エドアルドの指揮の下で騎士たちが応戦している音が聞こえる。

(あれがきっと、毒を持つ魔物ね……)

「テオ、回復物資を運び出させてちょうだい」

ルーチェが言うと、テオは「回復物資ですか?」と不思議そうな顔をする。

「それなら確か昨夜、奥様のご提案で馬車から物資テントまで出しておきましたよね?」

「ええ。報告書にあった魔物は全て倒したけれど、増援がいた。それらはどんな能力を持っているかわからないから、必要になったらすぐに使用できるように準備させておいて」

ルーチェが言うとテオはうなずいて、近くにいた騎士に「奥様のご指示だ!」と言って、回復物資の準備を命じてくれた。

昨夜、ルーチェはエドアルドと話をした。さすがに「明日の早朝、毒を持つ魔物が襲撃してきます」とまでは言えなかったが、それでもできることはある。

まずは、回復物資の扱いに関する指揮をルーチェに一任してほしいとお願いした。いちいちエドアルドの指示を待っていれば、手遅れになりかねないからだ。

そしてテオに頼み、馬車に積んでいる回復物資を拠点の中央にある物資テントまで運ばせた。これで、ルーチェの命令一つですぐに解毒剤の入った箱を開けて、負傷者に投与できる。

(今の私はおそらく、過去よりも魔力が上がっている。でも、毒の治療まで完璧にできる自信はない……)

そもそも、毒の治療は神官の回復魔法とは微妙に相性が悪い。体の損傷部分を修復させるのが回復魔法であるため、毒を受けた場合はまず毒を抜かなければならないからだ。体内に毒が残っている状態で傷を塞げばむしろ、体の中で毒を蔓延させてしまう。

そのため、マリネッタのような高位の神官でさえ毒の治療には慎重にならざるをえない。聖女や司教などでさえ、毒の治療自体は回復魔法ではなくて解毒剤を使うことがほとんどだという。

過去よりも魔力量が上がっているかも、という程度のルーチェが、慢心してはならないのだ。

(毒を受けたときには、まずは毒の治療をさせてから私のところに連れてくる必要がある。でも既に指示は出しているから、【1度目】よりも滑らかに進むはず……!)

テオに連れられたルーチェが救護テントに入って間もなく、ドン、と地響きが起きてテントに置いたランプがぐらぐら揺れた。

「きゃっ!」

「今のは……魔物の攻撃か?」

ルーチェが倒れないように後ろから支えてくれたテオが言ったことで、ルーチェは思い出した。

(……そうだ。大きな揺れの直後に、魔物が毒を吐いたのよ……!)

【1度目】ではとにかく全てが後手に回り、十分な兵力が整う前に魔物に拠点までの侵入を許してしまい、そこで毒の霧を吐き出された。

毒の霧は、魔物が自分の体内に毒を溜め込みそれを爆発させることで広がる。つまり、この攻撃により魔物は自爆することになる。だからエドアルドたちは魔物を倒すのではなくて、毒の爆発をできるだけ拠点から遠い場所で行わせるべきなのだ。

エドアルドたちの初動が早ければ、魔物を森の方まで押しやれる。

そうして……先ほどの地響きはかなり大きかったが、【1度目】のときより控えめだ。確かあのときは、「ランプが割れ、テントが倒れるほどの地響き」と記録したはずだからだ。

「奥様、魔物が毒を吐き出して自爆しました!」

間もなく連絡係の兵士が飛び込んできたため、来たか、とルーチェは椅子から立ち上がった。

「すぐさま物資テントにある解毒剤を使って、毒を受けた者の治療を! 解毒が済んだ人から、私が治療に当たります!」

「はっ!」

「テオ、念のために防毒マスクをつけておきたいわ。私とあなたの分、持ってきてちょうだい」

「はい、今すぐ!」

テオを走らせてから、ルーチェは椅子に座り直して目をつむった。

(……大丈夫。同じ戦いでも、【1度目】よりも有利に動いているわ)

出動できる兵士の数、爆発の位置、そして解毒剤の投与開始時期。

全て、【1度目】のときよりも状況がよい。兵士たちの動きも速いから、解毒処置も早いはず。

(大丈夫、大丈夫よ……)

間もなくテオが戻ってきたので防毒マスクを装着したところで、最初の患者が運ばれてきた。

既に解毒は終わっているのを確認してから、毒の影響で呼吸が苦しそうな青年兵士の喉に杖の先をかざして回復魔法を施し、体中の組織の修復も促す。

(いける、大丈夫だわ……!)

次から次に患者が運ばれてくるが、全員解毒剤の投与が早かったからか命の危険がある者はいない。解毒剤投与担当の者たちも、上手に処置をしてくれたようだ。