軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第13話『新たなる戦士、その名は』

日本に比べれば過ごしやすいけど、暑いものは暑いんだよな~、とクロノはうんざりとした気分で太陽を見上げた。

ケフェウス帝国と神聖アルゴ王国は日本に比べると湿度が低く、木陰に入れば涼を取れる。

涼みたいけど、仕事だしね、とクロノは今日も今日とて情報を収集するために食堂兼酒場に向かう。

クロノは開け放たれた扉から食堂兼酒場に入り、自分の指定席……カウンターの席に座った。

「いらっしゃいませ~」

「テキトーに」

クロノはミレイに注文し、食堂兼酒場を見渡した。

食堂兼酒場は混んでいた。

席は八割方埋まっているだろうか。

座っているのは街の住人ではなく、塩や香辛料の買い付けに来た商人である。

それなりに混んでいるにも関わらず、カウンターの席が空いているのは商人達がクロノに気を遣っているからだ。

もっとも、商人達はイグニスの親戚に気を遣っているのであって、クロノ個人に気を遣っている訳ではない。

クロノが神聖アルゴ王国に来てから、一ヶ月が過ぎた。

東西街道の流通は別働隊の活躍で低下したらしい。

どの程度の被害が出たかは不明だが、一部の領地で塩や香辛料の価格が高騰したり、塩の流通が止まったりしたようだ。

アリデッド、デネブ、頑張りすぎじゃない? とクロノは不安になったが、エレインによれば、塩や香辛料の価格高騰と塩の流通が止まったのは過剰反応した商人が塩や香辛料を売り渋ったり、買い占めたりしたせいらしい。

煽った人もいるんだろうけど、経済って何気に脆弱なんだな~、とクロノはそんな感慨を抱いた。

煽った人物に心当たりがあったが、あえて無視するべきだろう。

そう言えば、これに似たような話を何処かで聞いたような気がするんだけど、とクロノは頬杖を突き、不意に歴史の授業……トイレットペーパー騒動を思い出した。

トイレットペーパー騒動とは一九七三年にトイレットペーパーがなくなるという噂が立ち、パニックに陥った人々がトイレットペーパーの買い溜めに走った事件である。

トイレットペーパー騒動は不安心理が原因とされているが、商人がイグニスの領地に塩と香辛料を買い付けに来ているのも新たな交易路を確保して不安を和らげたいという気持ちの表れなのかも知れない。

「なるほどな~」

「え? 何が?」

「いや、こっちのこと」

変なの、とミレイは小さく呟き、カウンターに皿を置いた。

温いスープではなく、熱いスープだ。

塩気も申し分ない。

「景気はどう?」

「見ての通り、商売繁盛」

ミレイは微笑んだ。

あまり嬉しそうではなく、弱々しい微笑みだ。

クロノは千切ったパンを口に運び、スープを啜った。

「何かあったの?」

「ほら、色々と変わったから、ちょっと戸惑ってる感じ」

ミレイは糸で編まれたブレスレットを撫でた。

商人が街に来るようになってから、食堂兼酒場は昼の営業に重きを置くようになった。

何も分からないのに状況が変化していくのは不安だよな~、とクロノは思慮の浅さを反省した。

自分の領地では信用できる人物に根回しを依頼したり、わざと情報を流したりしていたのだが。

「ミレイ、ここだけの話にして欲しいんだけど」

「え?」

クロノが身を乗り出して言うと、ミレイは困惑したように問い返してきた。

「約束してくれる?」

「約束する」

ミレイは真剣な顔で頷いた。

冷静に考えれば秘密にしなければならない情報を人目に付く所で打ち明けたりしないと分かるはずだが、ミレイは突然のことに頭が働いていないようだ。

「……イグニス小父さんは自分の影響力を強めようとしているんだ」

「影響力を」

ミレイはゴクリと生唾を飲み込んだ。

「なんで?」

「うん、イグニス小父さんは」

クロノは言葉を句切り、周囲を見回す。

警戒しているというアピールだ。

「イグニス小父さんは『神殿』の影響力が強すぎるのは良くないと考えているみたいなんだ。そのために交易を発展させようとしている」

ミレイは理解できなかったらしく首を傾げている。

「ほら、イグニス小父さんが交易の場を設ければお金が儲かるだけじゃなくて、商人と利害関係が生まれるでしょ? 無関係ならともかく、関係があれば協力するだろうから」

「それって、私達にも関係あるのかな?」

「もちろん」

クロノは胸を張った。

「商人が来れば食堂や酒場も儲かるし、空いてる部屋を貸して、宿屋もできるかも。それだけじゃないよ。イグニス小父さんは領民のためにお金を使うことも考えてるんだ」

「そうだったんだ」

ミレイは話の大きさに呆気に取られているようだったが、イグニスに対する非難の色はない。

これはイグニスが善政を敷いてきたお陰だろう。

「僕達だけの秘密だからね」

うん、とミレイは小さく頷いた。

まあ、ミレイが黙っていても、商人達が言いふらすだろう。

『神殿』の影響を受けない交易は商人達にとっても利益になるのだから。

食事を終えたクロノは街の外に向かった。

クロノが街の外に出ると、そこにはテントが並んでいた。

エレインが実現させた卸売り市場だ。

取引はすでに終了し、あとはテントを片付けるだけだ。

クロノはたった一ヶ月で卸売り市場を実現させたエレインの手腕に感心していた。

やっぱり、塩や香辛料の価格が高騰したり、流通が止まったりしたのはエレインさんのせいなんだろうな~、とも思ったが。

クロノは『シナー貿易組合参号店』を覗いた。

エレインは背を丸め、粗末なイスに座っていた。

「景気はどう?」

「それなりよ。ったく、もう少し利益を独占できると思ってたのに」

エレインが文句を言っているのは商人のフットワークの軽さについてだ。

卸売り市場を開催する直前になって、カド伯爵領から商人達がやって来たのだ。

「貴方、情報を流してたんじゃないでしょうね?」

「挨拶回りはしたけど?」

エレインは頬を引き攣らせた。

このガキ、と言い出しかねない表情だ。

「僕が黙ってても、すぐにバレたよ」

「分かってるわよ」

エレインは吐き捨てるように言った。

『シナー貿易組合』は同業者から注目されているのだ。

「せめて、うちの商売が軌道に乗るまで待っててくれても良かったんじゃない? ただでさえリスクを背負ってるのよ」

「それは先駆者の宿命ってヤツだよ」

「普通の先駆者はライバルが真後ろに立ってないわよ」

エレインは溜息を吐き、演技がかった仕草で首を横に振った。

イグニスに卸売市場の参加料を十年免除されているが、微々たるアドバンテージだ。

「……エレイン様」

鈴の鳴るような声がテントの外から聞こえた。

クロノが振り向くと、旅装束を着た女性がテントの外に立っていた。

女性の歳はエレインより下だろうか。

ブラウンの髪を綺麗に結い上げている。

ボディーラインはスマート。

派手さはないが、かなりの美人だ。

ただ、表情が微妙だ。

茫洋とした表情と言えば良いのか。

眠そうと言われれば眠そうに見えるし、不機嫌そうと言われれば不機嫌そうに見える。

楽しそうと言われれば、楽しそうに見えなくもない。

「エレイン様、これで荷は全てでしょうか?」

「……シアナ」

エレインは女性の名を呼び、溜息を吐いた。

荷を積んだ馬車がシアナと呼ばれた女性の背後に何台も並んでいた。

「好奇心で聞くんだけど、何を積んでるの?」

「羊毛です。神聖アルゴ王国で飼育されている羊の毛は品質が良く、自由都市国家群では高値で取引されています」

シアナは淡々と説明した。

イグニスの領地からクロノの領地を経由して自由都市国家群に輸送すれば通行税が掛からないのでボロ儲けだ。

「エレインさん、エレイン・シナーさん? さっき、景気はそれなりと仰っていた気がするんですけど?」

「あら、私はそれなりと言っただけよ」

エレインは悪びれた様子もなく言った。

悪寒が背筋を這い上がり、クロノは反射的に振り向いた。

すると、シアナが小首を傾げてクロノを見ていた。

クロノはシアナから視線を逸らさずに後退り、エレインの後ろに隠れた。

「どうかしたの?」

「嫌な予感が」

クロノはシアナの瞳に宿る光に不吉なものを感じた。

この魚、どんな風に料理しようかな? という目でシアナはクロノを見ていたのだ。

「シアナ、もう行って良いわよ」

「分かりました」

エレインがいうと、シアナは小さく頷き、荷馬車に乗った。

シアナの乗った荷馬車が進み、他の荷馬車が後に続く。

クロノはテントから顔を出してシアナが十分離れたのを確認し、ホッと胸を撫で下ろした。

「やっぱり、何度も死線を潜り抜けていると、感覚が磨かれるのかしら?」

「危険を察知できても対応できるとは限らないけどね」

「それもそうね」

クロノが言うと、エレインは忍び笑いを漏らした。

「どういう人なの?」

「悪いけど、自分の手札を晒す趣味はないわ」

戦闘要員なんだろうけど、そういう手札があるかも知れないと思わせるだけで迂闊に手が出せなくなるよな。

戦闘要員が一人とは限らないし、とクロノは首筋を掻いた。

「そっちはどうなの?」

「急な変化に不安を感じてる人が多いみたいだよ。少し情報を流してきたから、多少は不安が和らぐと思う」

「頼りないわね」

「僕の本職は軍人と領主です」

どっちも部下の力を借りて、何とか務まってるレベルだけど、とクロノは心の中で付け加えた。

「これで作戦は次のステップへ」

「また、寸劇?」

「今度は炊き出しも行います」

ムフー、とクロノは鼻から息を吐いた。

周辺の領地で寸劇と炊き出しを行うために今まで根回しを行っていたのだ。

まあ、実際に根回しを行ったのはイグニスだが。

「この分だと、イグニス将軍の派閥を作って終わりになりそうね」

「……」

クロノはエレインの質問に答えず、にっこりと微笑んだ。

「はいはい、今日も失礼しますよ。お?」

クロノが屋敷の三階にあるイグニスの部屋に入ると、先客がいた。

肩から青い房を下げた女性である。

身長はクロノと同じか、少し低いくらいだろうか。

出る所は出ていて、引っ込む所は引っ込んでいる。

メリハリの利いた体型だ。

ダークブラウンの髪は少年のように短く、横髪が内側に跳ねている。

軍服を着ているので、イグニスの同僚……いや、もう少し親しい関係だろうか。

いつも不機嫌そうなイグニスが柔らかな表情を浮かべているのだから。

女性はクロノを見ていた。

マズい、とクロノは思った。

何しろ、クロノは極秘任務の真っ最中なのだ。

軍人に顔を覚えられて良いことなど一つもない。

クロノは一歩、二歩と後退り、部屋から出ると、壁に身を隠した。

ただし、隠したのは右半身だけだ。

「あたしと一緒にいる時はいつも不機嫌そうなのに、ジェ、ジェラシー!」

「……お前は何をしているんだ」

イグニスは左手で顔を覆い、溜息を吐いた。

「初めまして、イグニス将軍の親戚でクロノと申します!」

クロノは素早く距離を詰め、女性の手を握り締めた。

女性は困惑したような表情を浮かべ、イグニスに視線を向けた。

「イグニス、いつの間に親戚が増えたの?」

「いや~! 遠い親戚なんで、僕も最近になってイグニス将軍が親戚だって知ったんですよ!」

クロノはイグニスの援護を期待し、捲し立てるように言った。

イグニスが援護してくれれば誤魔化せる。

「こいつがケフェウス帝国からの援軍だ」

「いきなり梯子を外すな!」

「落ち着け」

イグニスは詰め寄ろうとしたクロノを手で制した。

「紹介する。彼女はアクア・アルファードだ。六人いる将軍の一人で、マグナス国王の命で……と言っても、非公式だが、協力してくれることになった」

「初めまして。噂は聞いてるわ」

そう言って、女性……アクアは微笑んだ。

「『蒼にして生命を司る女神』に関係が?」

「その通りだ。アクアは神威術の使い手だ」

ふむふむ、とクロノは頷いた。

「他に地のテッラ、風のウェントスがいる訳ですな?」

「それがどうした?」

別に、とクロノは口角を吊り上げた。

「言いたいことがあるのなら、はっきり言え」

「イグニス、止めなさいよ。すぐに熱くなる所、貴方の悪い癖よ」

アクアが窘めると、イグニスは渋々という感じで従った。

「クロノ殿、お目にかかれて光栄だわ」

「光栄?」

「ええ、貴方に興味があったから」

アクアは恥ずかしそうに俯いた。

クロノは妙に冷めた気分だった。

「僕の方こそ、光栄です。まさか、『蒼にして生命を司る女神』の神威術の使い手がこんなにも早く現れるとは」

クロノがニヤリと笑うと、アクアは後退った。

「アクア、逃げろ!」

「え? え?」

クロノは困惑するアクアの退路を塞いだ。

まあ、クロノがアクアに一撃で蹴散らされる可能性も高いのだが。

「君が、ブルーナイトだ!」

クロノはズビシッ! とアクアを指差した。

アクアは意味を理解していないらしく、ポカンとしている。

「ブルーナイト?」

「説明しましょう! ブルーナイトはナイトレンジャーの一員です。ちなみにナイトレンジャーとは六柱神の加護を受けた六人の騎士です。『神殿』の枠を越え、自警団的な活動を行うことを目的としています!」

アクアはイグニスに視線を向けた。

この子、大丈夫? と言いたげな表情だ。

「ナイトレンジャー、出撃! の前に……根回しはどう?」

イグニスは不機嫌そうな表情を浮かべ、机の上にある羊皮紙の束を軽く叩いた。

「へぇ、順調だね」

「どうして、分かる?」

「いや、イグニス将軍が不機嫌そうだったから、周辺の領主達は良い返事をくれたんだろな~と」

イグニスは今にも舌打ちをしそうだった。

「利益になると分かった途端、これだ」

「イグニス、そういうことを言っちゃダメよ」

「そうですとも。将来の不利益よりも、目先の利益に目が眩んでしまう。凡人とはそういうもんです」

アクアとクロノが言うと、イグニスはますます渋い顔をした。

クロノはイグニスの気持ちも分かるが、協力を申し出た領主の気持ちも分かる。

領主にだって守るべきものがある。

そのために必要なら『神殿』にだって媚びる。

むしろ、イグニスのような人間が少数派なのだ。

「こっちの交易は軌道に乗ってない訳だし、大英断だと思うよ」

「それは分かっている」

イグニスはそれ以上、何も言わなかった。

「では、改めて……ナイトレンジャー出撃!」

クロノが叫ぶと、イグニスは深い溜息を吐いた。

『GO! GO! ナイト★レンジャー』

作詞・作曲クロノ

地球のピンチだ! GO! GO! げふ、ん、ンハーッ! エフンエフン!

村は脅威に晒されていた。

三匹の亜人……ミノタウルスと二匹の人狼が現れ、金と食料を要求してきたのだ。

もちろん、村人は武器を手に抵抗した。

金と食料を奪われたら、死ぬか、奴隷になるしかないからだ。

だが、村人は亜人に傷一つ付けられなかった。

当然と言えば当然の結果だった。

戦うために乗り越えるべきハードルは無数に存在している。

武器を手にしただけで戦えると考えるのは間違いなのだ。

村人が繰り出した武器は空を切り、亜人の攻撃は村人を地に這わせた。

いや、亜人にしてみればちょっと小突いたくらいの力だったのだろう。

実際、重傷を負ったものは一人もいなかったのだ。

亜人は手加減をしている。

それも思いっきり。

その事実はいとも容易く村人の心を折った。

村人が食料を村の中央に積み上げているその時、

「そこまでであります!」

女性の声が響き渡った。

『こ、この声は!』(ぶも~!)

『親分、屋根の上!』(がう!)

『あいつ、来た!』(がう!)

二匹の人狼が指差した先……屋根の上に女性の姿があった。

女性は漆黒の衣装に身を包み、マスクで顔半分を覆っていた。

『だ、ダークナイト! また、俺の邪魔を!』(ぶも~!)

「罪なき人々が苦しんでいる時、ナイトレンジャーは現れるのであります! トォォォッ!」

女性……ダークナイトは見事な跳躍で地面に降り立った。

『ダークナイトがここにいるってことは?』(ぶも~?)

「その通りであります!」

ダークナイトが叫ぶと、赤、青、白、緑、黄の衣装に身を包んだ男女がダークナイトに駆け寄った。

「俺は炎の騎士! レッドナイト!」

レッドナイトは自棄っぱち気味で名乗りを上げ、左腕を突き上げた。

シュゴーーッ、と赤い光がレッドナイトから立ち上る。

「私は光の騎士! ホワイトナイト!」

「風の騎士! グリーンナイト!」

「大地の神官! イエロープリースト!」

ホワイトナイト、グリーンナイト、イエロープリーストは次々と名乗りを上げ、レッドナイトともう一人……青い衣装を着た女を中心にポージング。

青い衣装を着ているから、ブルー某なのだろうが、青い衣装を身に纏った女性は恥ずかしそうに俯いている。

『そいつは何者だ!』(ぶも~!)

「私は……水の……ト」

青い衣装の女性は蚊の鳴くような声で言った。

あ~、とグリーンナイトはやっぱりと言わんばかりだ。

「考えるな」

「頑張り給え」

「ファイトであります」

「う~」

レッドナイト、ホワイトナイト、ダークナイトが励ますと、青い衣装の女性は顔を真っ赤にして呻いた。

今にも泣き出しそうだ。

小さな石が青い衣装の女性の足下に飛んできた。

青い衣装の女性はハッと顔を上げ、建物の影を見つめた。

「私は! その、水の……ト」

青い衣装の女性は声を張り上げたが、それも長続きしなかった。

名乗り終える頃には蚊の鳴くような声に戻っていた。

『親分、水の騎士!』(がう!)

『ブルーナイト、言ってる!』(がう!)

『なにぃ! ブルーナイトだと!』(ぶも~!)

村人は戦慄した。

亜人……特に獣人は聴覚や嗅覚が優れているとされるが、二匹の人狼はあんな小さな声を聞き取ったのだから。

「あ、はい、そうです」

ブルーナイトは嬉しそうに顔を上げ、ポーズを取った。

これまた実に恥ずかしそうにポージングしている。

『やっちまえ!』(ぶも~!)

『『イー!』』((がう!))

二匹の人狼がミノタウルスの命令に従い、ダークナイトに襲い掛かった。

「ナイトブレェェェェイド、であります!」

ダークナイトは剣を抜くと、二匹の人狼と切り結んだ。

二匹の人狼は見事なコンビネーションを発揮したが、ダークナイトの方が一枚も、二枚も上手だった。

二匹の人狼はダークナイトに斬り伏せられた。

血は出ていないが。

「ナイトブレイドは非致死性の武器であります! 神の加護的な理由で……斬っても、死なないのであります! レェェェッド! ナイトバズーカの準備は十分でありますか!」

ダークナイトが振り向くと、他の五人はゴテゴテと装飾された丸太のような物を担いでいた。

「ナイトバズーカ、シュート!」

「早すぎであります!」

赤、青、白、緑の光がレッドナイトの叫びと共に丸太から放たれた。

『ぐひゃ~~~~っ!』(ぶも~!)

光が直撃すると、赤、白、緑、青、闇、黄……六色の光がミノタウルスの体から吹き出した。

ミノタウルスが地面に倒れると、二匹の人狼は何事もなかったように立ち上がった。

『親分!』(がう!)

『お前ら、覚えてる!』(がう!)

二匹の人狼はミノタウルスを担ぎ上げ、よろよろと村から出て行った。

クロノは箱馬車に戻ってきた副官、シロ、ハイイロを笑顔で迎えた。

「いや~、三人とも素晴らしい演技だったよ! 特にシロとハイイロのフォローは最高だったよ!」

『俺達、頑張った』(がう)

『劇、止まらなかった』(がう)

シロとハイイロは自慢気に胸を張り、尻尾を振っている。

しばらくすると、イグニス達が戻ってきた。

イグニスは最初の頃のように憔悴していないが、アクアはイグニスの肩を借りてようやく歩いているという有様だ。

「やはり、剣戟を取り入れて正解だったようだ」

「ナイトバズーカの準備は時間が掛かるからね」

レオンハルトは満足げに頷き、リオは肩を竦めている。

「うむむ、戻るのを待っていて欲しかったであります。失敗でありますね」

「けど、素晴らしい剣戟でした。見惚れてしまいました」

「そ、そうでありますか?」

フェイは不満そうにしていたが、シオンの褒め言葉に満面の笑みを浮かべた。

「……アクアさん」

「はい」

「待て、アクアは疲れているんだ」

クロノはイグニスの言葉を無視し、アクアの前で仁王立ち。

「きちんと名乗ってくれないとさ。困るよ。今回はシロとハイイロがフォローしてくれたけど、きちんとできないようなら、ブルーナイト役から降ろすよ」

「え?」

辞めても良いの? とアクアは少し嬉しそうだ。

「その代わり悪の女幹部の役をやってもらいます」

「女、幹部?」

「その通り!」

クロノは脚本を手に取り、アクアに設定のページを突き付けた。

あまり絵心がないので、簡単なイラストだが。

「ひぃっ!」

「ビキニアーマー! 露出度増量で大きなお友達に大人気だよ!」

ひゃっは~! とクロノは笑った。

「こんな、恥ずかしくて死んじゃうわ。お、お願い! 次は、次はちゃんとやるから!」

アクアは顔面蒼白でクロノに縋り付いた。

「この、ゲスめ」

「ありがとう、最高の褒め言葉だ」

イグニスは女幹部のイラストを見て、悪態を吐いたが、クロノは胸を張った。

「クロノ殿、これは」

「鎧の体を成してないね」

レオンハルトは引き気味、リオは自分に関係ないと思っているらしく、お気楽な口調で言った。

「……無理であります」

フェイは自分の胸と女幹部のイラストを見比べ、ボソリと呟いた。

シオンは恥ずかしそうに俯いている。

「じゃ、ペナルティーを理解してくれたみたいだから、次の村に行こうか」

「待て」

クロノはイグニスに呼び止められ、舌打ちをした。

サラッと流したのになかなか鋭い男である。

「ペナルティーということは、俺達……男もか?」

「イグニス、気でも違ったの!」

「大事だろう、こういうことは!」

イグニスは驚愕に目を見開くアクアに言い返した。

「どうなんだ?」

「男性陣はこれで」

クロノは脚本を開き、イグニスに設定のページを突き付けた。

「……樽?」

「樽のようだね」

「随分とカラフルだけど」

男性陣……イグニス、レオンハルト、リオはイラストを見ながら、呟いた。

紙には樽に手足を生やしたイラストが描かれている。

「クロノ様、これは何でありますか?」

「サポートキャラだよ。男性陣は降格したら、このキャラクターを演じて貰います。名前は『ロック』、語尾は『ゲス』で」

戦慄が男性陣の間に走った。

「さあ、次の村でも頑張ろう」

クロノは口角を吊り上げた。