軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第10話『帰郷』

帝国歴四百三十一年、十二月……馬車は街道を西へと進む。

馬車は吹きさらしの荷馬車ではなく、幌馬車だ。

足回りが強化されている訳でも、何らかの仕掛けが施されている訳でもない。

何処にでもあるような普通の幌馬車だ。

乗り心地は悪くないのだが、ミノは居心地の悪さを感じていた。

その原因はミノ自身にある。

ミノはミノタウルスと呼ばれる亜人だ。

ミノタウルスが幌馬車に乗ってはいけないという法はないが、おかしいと感じる者はいるだろう。

きっと、反感を抱く者も。

ミノは亜人の身で副官という地位に就き、高度な教育を受け、今では騎士の肩書きさえ持っている。

ヒトは自分よりも幸福な者を手放しで祝福できない。

それが人間未満の存在である亜人ならば尚更だ。

だから、ミノは無用な軋轢を避けるために荷馬車を利用しようと考えていたのだが、クロノが幌馬車を手配する方が早かった。

大将は出会った時から、あっしに気を遣ってやしたね、とミノは一年半……正確には一年八ヶ月前のことを思い出す。

世話役を命じられた時は貧乏籤を引いたと思ったが、自分のような大型亜人が選ばれたことに安堵もしていた。

軍歴の長いミノは軍学校を卒業したばかりの貴族がどれほどの無茶をするか知悉していたからだ。

暴力であればミノタウルスであるミノは耐えられるし、男なので性行為を強要される心配もない。

想像を絶する変態趣味を持つ可能性は否定しきれなかったが、その辺りは考えないようにした。

結論から言えば、クロノの世話は楽だった。

あまりに楽すぎて自分以外の世話役に申し訳ないと思ったほどだ。

その頃はクロノを大将と呼んでいなかった。

初めてクロノを大将と呼んだのは去年の五月、神聖アルゴ王国が侵攻してきた時だ。

本心から呼んでいた訳ではない。

絶望的な戦力差を知り、捨て鉢な気分になっていたのだ。

いつから大将と本心から呼べるようになったのか。

弓兵を決死隊として送り込むような作戦を立てた時は冷血漢だと思ったし、生還したレイラを罵倒しようとした時は失望に似た想いを抱いた。

あそこでレイラを罵倒していたらミノは今のようにクロノを信頼していなかっただろう。

未遂であれば許されるとは考えていないが、その寸前で踏み留った男を罵倒する言葉をミノは持たない。

クロノは良い指揮官で、良い領主で、恥を知る男だ。

クロノが語ってくれた理想は命を賭けるに値するものだ。

馬車が止まる。

馬車から降りると、そこは既にカド伯爵領の港街……シルバニア(仮名)だ。

端と言うべきかも知れない。

シルバニアにはハシェルのような城壁はなく、何処までがシルバニアなのか決まっていないのだ。

だが、『何処から』がシルバニアなのかと問われれば誰もが港からと答えるだろう。

港を基点として街が形作られているからだ。

港から最も近い場所は『シナー貿易組合』が、次に近い場所はハシェルにも支店を構える幾つかの商会が、やや離れた場所は行商人の組合が抑え、その周囲を宿や食堂、個人経営の商店などが取り囲んでいる。

威勢の良い呼び込みの声が響き、ふと視線を傾けると、商人が道端で商談らしきことをしている。

港の方を見ればミノタウルスやリザードマンが船から降ろした荷を倉庫に運び、空きスペースには舞台……ここでも奴隷の売買を行うのだろう……が造られている。

商人の街なのだ、とミノは自分の家に向かった。

確か、あっし……いや、オレの家は、とミノは目を擦った。

ミノの記憶が確かならば『シナー貿易組合』の近くに集落があったはずだ。

だが、集落があった場所には建設途中の建物があるだけだ。

『すいやせん。ここにミノタウルスの集落はありやせんでしたか?』(ぶも~?)

「ああ、あったぜ」

ミノが尋ねると、職人らしき男は特に驚いた様子もなく答えた。

『それで、集落にいた住民は何処に行ったんで?』(ぶも、ぶもぶも?)

「あいつらなら……森の方に移動したぜ」

『ありがとうございやす』(ぶも~)

再び幌馬車に乗り、ミノは新しい集落に到着するまで不安と動揺を抑えなければならなかった。

呼吸を整え、ミノが幌馬車から降りると、そこには集落があった。

家はシルバニアにあったそれよりも頑丈そうで、そこでようやくミノは胸を撫で下ろした。

ミノはクロノを信頼しているが、自分の知らぬ間に集落が別の場所に移動していれば動揺くらいする。

移動したと言っても集落は海から比較的近い場所にあり、海から吹き寄せる風は凍てつくような寒さと潮の匂いの二つを孕んでいる。

目を凝らすと、集落と昏き森の間に畑が確認できた。

ミノは純粋な好奇心から集落を通り抜けて畑へと向かった。

『……』(……)

ミノは畑を見つめた。

麦の丈はミノの膝ほどもないが、何故だか、言葉が出てこなかった。

『……兄さん!』(ぷも~~!)

ミノが振り向くと、アリアが立っていた。

『アリア、父ちゃん達は?』(ぶも?)

『兄さん、知らないの? 父さん達はクロノ様から頼まれた仕事をしているのよ』(ぷも? ぷも~)

クロノ様が? とミノは腕を組んだ。

『ああ、あれのことか』(ぶも~)

カド伯爵領に代官を据えるに当たり、クロノはエラキス侯爵領とカド伯爵領の間に通信用のマジック・アイテムを設置しているのだ。

『兄さん、今日はゆっくりしていけるの?』(ぷも~?)

『特別に休暇を貰ったから大丈夫だ。と言っても、ゆっくりできるのは二日だけだが』(ぶも~)

副官としての仕事を疎かにできないし、そう簡単に里帰りできない部下も多いのだ。

彼らのことを考えると、のんびりしていられない。

『ああ、土産を買ってきたんだ。それと、クロノ様からの贈り物も』(ぶも~)

『手伝うわ、兄さん』(ぷも)

幌馬車に戻り、アリアと手分けして荷を下ろす。

御者は手伝おうと腰を浮かしたが、ミノとアリアが軽々と荷を下ろすのを見て、座り直した。

『これは何かしら?』(ぷも?)

『それは……千歯扱きだ』(ぶも~)

アリアが不思議そうに見つめていたのは『千歯扱き』という器具だ。

巨大な櫛と木の枠を組み合わせたような形をしている。

狭い間隔で鉄製の長い串を何十本も並べたような形でも、長い串をフォークに代えても通じるだろう。

元々、『千歯扱き』はクロノがいた世界で使われていた道具らしい。レイラに指摘されるまでクロノは

『千歯扱き』の存在を忘れていたと言うから、廃れた道具の一つなのだろう。

『クロノ様が仰るには歯の間を通すだけで簡単に脱穀ができるらしい』(ぶも~)

『それって、そんなに』

「大発明よ!」

「大発明ですぅ!」

ズザーッ! と黄土色の神官服に身を包んだ二人の女性がとんでもないスピードで『千歯扱き』の前に滑り込んだ。

『誰だ?』(ぶも?)

『黄土神殿の神官さんよ。最近、帝都から来たの』(ぷも~、ぷも~)

二人の神官は立ち上がると、ミノを見上げた。

「私はグラネット、『黄土にして豊穣を司る母神』に仕える神官よ」

背の高い女は長いブラウンの髪を掻き上げて言った。

年齢は十代後半と言った所か。

「プラムと言いますぅ。私も神官ですぅ」

背の低い女は舌っ足らずな口調で言う。

年齢は十代前半くらいだ。

『黄土神殿ということはシオン様の後輩ですかい?』(ぶも?)

「後輩じゃなくて部下よ、部下」

「シオン様は~、長年の努力と功績を認められて神官長に出世されたんですぅ」

「部下は私達だけだけどね」

そいつは良かった、とミノは心からシオンの出世を祝福した。

「ぶっちゃけ、エラキス侯爵が寄付金を積んだから出世したんだけどね」

「そ、そんなことないです!」

ピュ~ルリと木枯らしがミノの心を吹き抜けた。

『そいつは世知辛い世の中で』(ぶも~)

「ホントにね。けど、エラキス侯爵にとっては幸運でしょ? 少なくとも、上の方々はエラキス侯爵が善意で寄付したと考えない程度に俗っぽいんだから」

『そういう考え方もありやすね』(ぶもぶも)

女の神官が派遣された理由は聞かない方が無難だろう。

「それにしても、エラキス侯爵は凄いわね」

グラネットは愛おしそうに『千歯扱き』を撫で回した。

『そんなに凄い物なんで?』(ぶも?)

「普通は手作業なのよ。ああ、これも手作業には違いないけど」

グラネットは何かを掴むように片方の手を握り締め、何かを扱くようにもう一方の手を動かした。

「これは麦を束ねて歯の間を通すように使うんでしょ?」

『そんなことを言ってたと思いやすが』(ぶも~)

「……これを他の地域に広めたら死刑になるかしら?」

「し、死刑は嫌ですぅ」

プラムは涙を浮かべてグラネットにしがみついた。

『広めるよりも使えるか確かめる方が先でさ』(ぶも~)

「それもそうね」

ミノの指摘で冷静さを取り戻したのか、グラネットはあっさりと頷いた。

「で、これは貴方の村だけに与えられたのかしら?」

『クロノ様なら全ての村に配っていると思いやすがね』(ぶも~)

この村で実験してから広めようと考えているかも知れやせんがね、とミノは心の中で付け足した。

『で、専門家の目から見て、あっしらの畑はどうなんで?』(ぶも~?)

「今の所、大丈夫よ」

『今の所、ですかい?』(ぶも?)

「私は人間だから絶対の約束はできないもの。まあ、約束はできなくても、そう何度も失敗できないのが辛い所なんだけどね」

グラネットは嘆息するように言った。

確かに金貨五千枚も寄付を受け取っておきながら、失敗するのは体裁が悪かろう。

『少し、安心しやした』(ぶも)

「そう? こういうことを言うと、大抵は嫌な顔をされるものだけど」

ミノは照れ臭くなって頭を掻いた。

『軍歴が長いせいか、あっしは絶対とか、確実とか言われると、そっちの方が心配になるんでさ』(ぶも、ぶも~)

「難儀なもんね」

『全くでさ』(ぶも~)

ミノが荷を担ぐと、プラムは慌てて荷を抱えた。

『神官さん達はここに常駐されるんで?』(ぶも?)

「しばらくはあちこちの村を渡り歩く予定よ。エラキス侯爵は開拓をしたがってるみたいだから、頻度は多くなるかも知れないけどね」

新しい家はボウティーズ伯爵領にいた頃よりも遙かに、港の付近にあったそれより明らかに大きく、しっかりとした造りだった。

アリアによれば新しい集落の家はシルバと他数名のドワーフの協力を得て造られたらしい。

『……母ちゃん』(……ぶも)

『よく帰ってきたね。お腹が空いているだろう』(ぶも、ぶも)

ミノは照れ臭さと申し訳なさを感じながら頑丈そうなイスに座った。

歳を取った、と母の背を見ながら思う。

『しばらく、のんびりしていけるんだろう?』(ぶも~?)

『……仕事があるんだ』(……ぶも)

ミノはテーブルを見つめ、辛うじて声を絞り出した。

申し訳ないと思うのは故郷……家族を捨てて逃げ出した後ろめたさからだ。

オレは耐えられなかったんだ、とミノはテーブルの下で拳を握り締めた。

『そうなのかい? それは残念だね。体に気をつけるんだよ』(ぶも? ぶも~)

『分かってるよ、母ちゃん』(ぶも)

『兄さん、何か話してよ!』(ぷも!)

空気を読んでくれたのか、アリアは暗く沈んだ空気を振り払うように言った。

『……何から話せば良いんだ?』(……ぶも?)

『そうね。楽しい話が良いわ』(ぷも)

ミノは目を閉じ、クロノと出会ってからのことを思い出した。

軍歴こそ長いが、楽しいと呼べる日々はクロノと出会ってからだ。

『そうだな。オレがクロノ様と出会ったのは……』

ゆっくりと言葉を選びながら語った。

クロノとの出会いから、世話役としての毎日。

クロノとレイラのこと。

治安の悪かった頃のハシェルこと。

城壁沿いでクロノがチンピラに襲われたこと。

盗賊の頭目であったケインが頼れる仲間になったことも。

ちょっとずつ、みんなの努力でハシェルの治安が良くなったこと。

『苦労したんだね~』(……ぶも~)

『……』(……)

ミノは母がテーブルに置いたスープを見つめた。

何の変哲もない野菜と魚のスープだ。

口に含むと、眼球の奥が痺れた。

『…… 美味(うめ) ぇ、母ちゃんの料理は最高だ』(……ぶも~~)

『お世辞を言っても何も出ないよ』(ぶも)

ミノは一気にスープを掻き込み、皿を傾けて最後の一滴まで飲み干した。

家の扉が開いたのは……父が戻ってきたのはミノがテーブルに皿を置くと同時だった。

『おう、帰って来てたのか?』(ぶも?)

『……父ちゃん』(ぶも~)

父は特に気負った様子もなく……当たり前だ。

息子が家に戻ってきただけで気負う父親が何処にいると言うのか……、ミノの対面に座った。

ミノは背を丸め、上目遣いに父親を見つめた。

どうして、集落を移動させたのか。

畑は、クロノから任された仕事はどうか。

そんな質問を口にすることができない。

『……仕事で失敗でもしたのか?』(……ぶも?)

『仕事は上手くやってる』(ぶも)

そうか、と父は短く言った。

『クロノ様から贈り物を預かって来たんだ。うちだけに、って訳じゃないけど』(ぶもぶも)

贈り物の多くは農具などの実用品ばかりだ。

『ミノ、クロノ様ってのは……どんな男だ』(ぶも……ぶも~)

『父ちゃん?』(ぶも?)

父は気まずそうに頭を掻いた。

『分かってる。クロノ様は善人なんだろう。開拓の資金援助をしてくれてるし、塩も買い取ってくれる。魚の塩漬けも、だ。冬場の仕事の斡旋だってしてくれて……正直、気持ち悪いくらい良くしてくれてる』(ぶも、ぶも~)

父が言いたいことは分かる。

有り体に言って信じられない。

いや、裏があるんじゃないかと疑っているのだ。

『クロノ様は……そういう人なんだ』(ぶもぶも)

『そういう人か』(ぶも)

何かを言わなければならない。ミノは一瞬だけ母とアリアに視線を向け、机の下で拳を握り締め、

『父ちゃん……オレ、騎士になったんだ』(ぶも~)

『何だって?』(ぶも?)

反射的に口を突いて出たのはそんな台詞だった。

『まあ、兄さん!』(ぷも~!)

『おお、おお、ミノ!』(ぶも~~!)

感極まった様子のアリアと母と異なり、父は呆然としているようだった。

『お前が、騎士だって?』(ぶも?)

『オレの仕事をクロノ様が認めてくれて、近衛騎士団長達が推薦状を書いてくれたんだ』(ぶも~)

『みんなに知らせて来なくちゃ!』(ぷも~!)

アリアが家から飛び出すと、その拍子に寒風が吹き込んできた。

『……お前が、騎士か』(……ぶも~)

アリアが出て行ってから一時間もしない内にミノが騎士になったことは集落全体に知れ渡った。

自然と宴をすることになり、集落の中央に丸太が組まれた。

酒や保存食を持ち寄っての慎ましい宴だが、酒や保存食を持ち寄れるほど余裕があることにミノは驚きを隠せなかった。

そんなミノの困惑を無視し、宴は進んだ。

正直、村の誇りなどと呼ばれるのは居心地が悪かったし、年頃の娘に酒を勧められたり、未亡人に色目を使われるのも落ち着かなかった。

一時間ほど経過し、炎が弱まった。

そこそこに飲んだはずだが、酔いきれず、ミノは何処か白けた気分で火を見つめていた。

『隣に座るぜ』(ぶも)

『……父ちゃん、他の人達は?』(……ぶも~?)

父が目配せした方を見ると、幾人かのミノタウルスが地面に倒れていた。

宴の主役はミノだったが、話し掛けられる頻度が多かったのは父母とアリアだろう。

ミノが故郷を出たのは十五年も前だ。

その頃、アリアは十歳にもなっていなかったから、結婚適齢期から大きく外れている。

アリアが結婚していないのは自分の代わりに家を支えていたからだ、とミノは気づいている。

『……港にあった家のことなんだがな』(……ぶも)

父は木製のカップを見つめながら言った。

『立ち退く代わりに金を貰ったんだ。そりゃあ、苦労して造った家だ。後から来て、場所を譲って欲しいと言われても、簡単に譲る訳にゃいかねえ』(ぶも~)

ミノは答えない。

『だが、結局、譲ることにした。何とかっていう商会にゃ悪くない額を貰った。いや、エレインとかいう女が仲介してくれなけりゃ、二束三文だっただろうけどな』(ぶも、ぶも~)

ミノはエレインと面識がないが、恐らく、恩を売る目的だったのだろう。

『……アリアによ、金を残してやりたかったんだ。知ってるか? あいつは食堂をやりたいって言ってるんだぜ』(……ぶも? ぶも~~)

『父ちゃん、オレは』(ぶも)

口籠もっていると、父は気にするなと言うように軽くミノの肩を叩いた。

『お前が家を捨てて出て行ったのは事実だが、こうして戻ってきた。お前のお陰で希望を持てる生活を送っている。それで良いじゃねぇか』(ぶも~)

『父ちゃん、オレは騎士になったんだ』(ぶも~)

ぶも? と父は聞き返した。

『オレの……副官としての仕事が認められたんだ』(ぶも~)

ミノは母とアリアに伝えなかった話……戦争の話を語った。

去年の五月、神聖アルゴ王国と戦ったこと。

盗賊を討伐……クロノの元同僚を殺したこと。

今年の一月、神聖アルゴ王国に侵攻したこと。

クロノと共に死線を潜り抜けたこと。

レオが、ホルスが、リザドが……大勢の仲間が死んだことも。

『父ちゃんはクロノ様を疑っているかも知れないけど、オレは信じてるんだ』(ぶも、ぶも~)

説得は難しい。どれだけ言葉を尽くしてもミノが得た実感には及ばないだろうから。

『そうか』(ぶも)

父の返事は短かった。父はクロノを疑っているようだが、ミノは信じている。

ただ、それだけの話だ。

こうして、宴の夜は更けていった。

家族と共に食事を取り、会話して、集落の周辺を歩いた。

それだけで二日間の休暇はあっと言う間に過ぎた。

今、幌馬車はミノを乗せて東へ……ハシェルへと進んでいる。

二日間を無為に過ごしてしまったが、家族に対する後ろめたさは和らいだような気もする。

恐らく、それは錯覚だ。

これから先、それこそ死ぬ時までミノは後ろめたさを抱えなければならない。

そういうものだ。

先祖代々の生き方に耐えられず、一度は家族を捨てたのだ。

それで後ろめたさを全く感じないはずがない。

ハシェルに着けば再び忙しい毎日が始まる。

そして、次に故郷を訪れる頃には新しい変化があるだろう。

秋には収穫祭が催されるかも知れない。

もしかしたら、アリアがシルバニアに店を構えているかも知れない。

そんなことを考えながら、ミノは目を閉じた。