作品タイトル不明
義姉と義弟とその未来1
「姉様、今日は私の外出に付き合ってほしいのですが」
とある休日。そんな言葉をナイジェルにかけられ、わたくしは首を傾げた。
ナイジェルが自身の用事に付き合えなどと言うことは、とてもめずらしい。
……頼られているみたいで、少し嬉しいわね。
それに、ナイジェルとのお出かけになるのだもの。恥ずかしながら少し……いいえ、とても心が躍ってしまう。
「いいわよ、お買い物かしら?」
「いいえ。その……将来に向けての大事なことを、姉様にお知らせしなければならないので。王宮までついてきてほしいのです」
「え……」
『将来』に向けての大事なこと。そして『王宮』。
それら言葉を聞いた瞬間、浮かれた気持ちが大量の冷水をかけられたように冷まされ、胸の内が嫌な予感でいっぱいになる。そして、エメリナ様と寄り添うナイジェルの姿が脳裏をよぎった。
きっと、エメリナ様とのご婚約が決まったのだ。
──嫌よ、行きたくない。
反射的に、唇がそんな言葉を紡ぎそうになる。それを堪えて視線を上げれば、綺麗な青の瞳がこちらを見つめていた。
「……姉様」
遠慮がちに……そして少し不安そうに声をかけられる。その表情を目にして、わたくしはハッとなった。
馬鹿ね、ウィレミナ。義弟が幸せを掴もうとしているのよ。それを喜ばなくてどうするの。
わたくしは、この子の義姉なのだから。欲で心を乱し、身近な人の幸せを祝福できないなんてどうかしている。
「わかったわ、ナイジェル。行きましょう? 王宮に上がるのだから、おめかしをしないとダメね」
今のわたくしの服装は外出はできるけれど、王宮に行くのにはやや足りないというものだ。きちんとしたドレスに着替えて行かないと、失礼になってしまう。
「そのままでも、お綺麗だと思いますが……」
「ふふ、お世辞が上手ね。大事な用事なのでしょう? お前の姉として、きちんとした身なりで行くことは大事」
わたくしの言葉を聞いたナイジェルはなぜか眉尻をうんと下げる。大きく男らしい手が伸び、わたくしの手を両手で包み込むようにして握った。
「……ナイジェル?」
手を握る力は強く、怜悧な美貌には真剣な表情が宿っている。澄んだ青の瞳は、ただまっすぐにわたくしを見つめていた。
──せっかく、義姉の仮面を被ろうとしていたのに。
心臓が跳ね、鼓動がどんどん早くなる。想い人にそんなふうに見つめられれば、義姉の仮面なんてすぐに剥がれてしまう。頬を熱くしていると、額に柔らかな唇が降ってきた。
「ちょ、ちょっと! ナイジェル!」
「姉様。少し驚くようなことが起きると思いますが、私を信じてください」
また『信じてほしい』、だ。
マッケンジー卿にもナイジェルにも言われたけれど、いまだに正確にはどう捉えていいのかわからない。
「なにを信じればいいか、というのはやっぱり言ってくれないのね?」
「……はい」
「そう……ワガママな子だこと」
「申し訳、ありません」
肩を落とす義弟を見ていると、唇が自然と笑みの形になる。
「仕方がない子ね。情けない顔をしないの。頭を撫でて慰めてあげるから、手を放しなさい」
「……私を、子供扱いですか?」
「ふふ。可愛い義弟扱いよ」
ナイジェルは不服な顔をしながらも、わたくしの手を放す。
手を伸ばせば繊細な質感の銀髪にすぐに届き、指先でそれを梳くと心地よさそうに瞳が細められた。
この子は大事な義弟で、わたくしの家族で。それは一生変わることがない。
だから『信じる』。それで……いいのよね。