軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

35話 恐怖に打ち克つ勝利の鍵

怖い。

恐ろしい。

どうして自分はこんな事をしているんだ。

あんな恐ろしい魔物と戦うなんてどうかしている。

魔物が襲いかかる。

死にたくない。ただその一心で避ける。けれど身体が思うように動かない。

“おっさんどうしたん?”

“急に動き悪くなってんだけど”

“なんか逃げるのに必死って感じ”

“スコおじがんばえー!”

“敵は強くないぞー!”

「がが、がんばえーって、どうしたらいいんですか!? 強くないって、とても怖いんですよ!?」

“なんかおかしくね?”

“なんか黒卑弥呼の魔法が当たって、そっから逃げ腰になったよな”

“けど何かしらのダメージ入った様には見えないんだけど”

強欲:“『フィアー』ね。精神状態を恐怖で塗り潰す精神魔法の一種よ”

“精神魔法て……いや適性SSのおっさんに効くの?”

“適性高かったら問題ないんじゃねーの?”

強欲:“効くわよ。そして高適性の探索者が死ぬ要因のひとつが精神魔法による状態異常からの魔物からの攻撃。精神魔法はね、高適性の者にも効くのよ。いくら適性が高くてもその精神はそのまま。身体能力は上がっても心を守る術は無いの。精々気を強く持つしか無いわね”

“マジかー……”

“スコおじ、こんなところで死んでしまうのか?”

“高適性の探索者だぞ。こんなところで死んだら嫌だぞ”

“人柄も良いのに……”

“スコおじ様! 嫌ですわ! 漸く見つけた私のご主人様になってくださるかもしれないお方なのに! 死なないでくださいまし!”

“流石にこのヤバいのも変な米はしないか……”

“早く立ち直って私をスコおじ様の犬にしてくださいまし! いいえ、《自主規制》にしてくださいまし!”

“ダメだこいつ……”

コメントがすごく流れているけど一つ一つ読んでる余裕はない。怖い。逃げたい。死にたくない。

頭部に何かが当たる。その拍子にヘルメットが外れる。

熱い。痛い。火球が当たったのか。すごく痛い。

もう嫌だ。誰か助けて。

怖い。

怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。

ふと、黒い帯の様なものが視界に入った。

「あ」

何故か、少しだけ恐怖心が和らいだ様な気がした。

『落ち着け』

そう聞こえた。ような気がした。

『我に勝てた汝が斯様な恐怖に負けてなんとする。汝に敗れた我が言おう。汝は強い。それでも恐ろしいと思うなら。我の力を使え。我の力は汝の力。超えよ、恐怖から。そして進め、我の……その先へ!』

……………………

額に巻いてたハチマキを撫でる。

そうだった。これ巻いてたっけ。バグベア変異種のドロップ品。売却を躊躇い、結局売らなかった。あのバグベアの魂が宿っていると思ったその一品。

「『 限界突破(リミットブレイク) 』」

心の中の、何かが弾けた。

***

“うおっ!?”

“なんだぁ!?”

“スコおじが金色のオーラにつつまれて……”

“髪も金髪”

“スコおじが超野菜人になった!?”

“明鏡止水に目覚めた!?”

“こっ”

“こ?”

“こけ?”

“こけこっこー?”

“神々しいですわっ! あと私鶏じゃありませんわ! 《自主規制》ですわ!”

“ステイ!”

今まで恐怖に支配されていたのが、綺麗さっぱり消えている。寧ろ万能感がすごい。高揚してるでもなく、ただ冷静に、落ち着いている。

成程、これが明鏡止水の心というやつだろう。

違うか。

なんか暑いな。少しだけツナギのファスナーを下ろす。

“ふぁっ!?”

“ウホッ”

“せ、せくしぃですわっ(鼻血)”

“あまり下げないで”

“これ以上はアカン”

「いや、少し暑いから下げただけです。それよりも皆さん、心配かけてすみません。もう大丈夫です」

“いやちょっとどころかマジで焦った”

“しかし状態異常の恐怖ってヤバいな。てか精神魔法がヤバい”

強欲:“因みにだけど。探索者のスキルの中には洗脳とか魅了とか催眠とかあるわ。尤も、これらのスキルを持つ者は探索者になれないのだけれど”

後から聞いた話だが、精神に作用するスキルの所持者は危険だという事で探索者になれない。それどころか危険という事でスキルを封印されるとの事。事実海外で洗脳スキル所持者がカルトな宗教立ち上げて大問題になった事がある。因みにそのカルト宗教は所謂セックス教団で、既に解体済みであるが……一部信者は未だに洗脳が解けてないらしい。

さておき、今は敵の方に集中だ。

自分の雰囲気が変わったからなのか、どうも警戒しているようだ。しかし、バグベア変異種といい、黒卑弥呼といい、どうも知恵があるように感じる。迷宮の魔物は基本知性とか感じられず、一方的に襲ってくるものだが。それとも変異種だからなのか。

その辺後で泡手さんにでも聞いてみるか。

斬撃が飛ぶイメージを描きながら、スコップを軽く振るう。

「おお、本当に飛んだ」

しかも今の斬撃で数体の黄泉軍が斬り裂かれる。

“はあ!?”

“いやマジか!?”

“スコおじ最強! スコおじ最強!”

“ヤバいですわパないですわ素敵ですわぁ!”

しかしやはりというかなんというか、同じ数の黄泉軍が召喚、補充される。

やはり黒卑弥呼を倒さないと駄目か。恐らくあの黄泉軍と黄泉醜女は……

「よし、だったら」

連続で飛ぶ斬撃をはなち、黒卑弥呼の射線上にいる黄泉軍と黄泉醜女だけを消し飛ばし、黒卑弥呼の神楽鈴を持っている右腕を肩口から斬り飛ばした。

「キァアアアアアアァァアアア!!!!」

黒卑弥呼が悲鳴をあげ、のたうち回る。そして黄泉軍と黄泉醜女の動きが止まり、そのまま消えていった。

“消えた!?”

“どういうことだってばよ!?”

「あの黄泉軍と黄泉醜女は実体を伴った幻影。言うなれば幻影兵士でしょうか。そしてそれを生みだしていたのがあの神楽鈴です。気付いてましたか?兵士が消え、補充される度に黒卑弥呼が神楽鈴を鳴らしていたのを」

“あ”

“そういえば確かに”

“ちょくちょくシャンシャン鳴らしてたのはそういう事だったのか”

尤も、泡手さんは気付いていたっぽいけど。敢えて黙っていたのだろうか。

一歩一歩、黒卑弥呼の方へと近付く。黒卑弥呼は後退り、神殿……社の階段で躓き、自分に魔法を放つ。

しかし効かない。どの様な効果なのか解らないが一切効かない。どうも限界突破は状態異常を無効化するらしい。

そして遂には黒卑弥呼を見下ろす距離にまで近付いた。

「ア、ヒ、ア……」

恐怖で顔を歪めながらもなんとか笑みを浮かべ、股を広げ左手で胸元を、肝心な所がギリギリ見えないところまで肌蹴る。

「ワ、妾ノ身体ヲ好キニシテ良イカラ、命ダケハ勘弁シテタモレ……」

“喋ったぁ!?”

“いや喋る魔物の存在は確認されてるから。稀だけど”

“それよりも好きにしていいって、本当にしたらそれセンシティブに引っかからね?”

“BANされるぅ!”

はしたない。そしてなんとみっともない。自分を殺そうとしたくせに、殺されそうになるとみっともなく命乞いする黒卑弥呼に呆れる。

殺す価値がない? いいや、殺さないといけない。それに自分は別にフェミニストではない。良くも悪くも。自分はそこまでお人好しではない。

「だが断る」

「アアアアアアアアアア! ヤメテ! ヤメタモレ! イヤアアアアアアアアアアア!」

黒卑弥呼の胸、丁度心臓のある位置にスコップの剣先を突き刺した。