作品タイトル不明
10話 はじめてのめいきゅう はじめてのはいしん
「ヘルメット良し、作業着良し、安全靴良し、スコップ良し」
昨日DIYセンターで買った 武器(スコップ) と防具(作業着)の確認。新品だから少し固い。
というか着用して改めて思ったけど、まるっきり見た目土木作業員だ。これで探索者だとは端から見ても解らないだろうな。
「バックパックの中には2リットルの水、黄色い箱の栄養食、魔石を入れるボトル……うん、全部あるな。それとギルドから借りたドローン、と」
このドローン滅茶苦茶頑丈に作られており、ドラゴンのブレスに耐えれるとか。流石にそれは眉唾だろうが、耐用試験で実際深海6000mの水圧にも耐えたとか。
「あとはチャンネルの同期だな」
元々動画配信を観てたから登録そのものはしてたが、自分が配信するとは思わなかった。
『スコップおじさんの迷宮配信チャンネル』
いやまんまかい、とツッコミが入りそうだが、こういうのは下手にややこしくするよりシンプルな方がいいだろう。それに名前よりもスコップおじさんの方が自分がどんな人物なのか解りやすい。
「さて、準備も出来たことだし、いきますか」
***
迷宮門をくぐると、そこは洞窟だった。割と普通にあるタイプの迷宮だ。
早速ドローンを飛ばして配信を始める。
「えー、2月☓日、場所は生目古墳群1号墳ダンジョン、これから配信を始めます」
正しくは生目古墳群史跡公園内にある生目古墳群1号墳、卑弥呼の墓ではないかとも言われている。そこに迷宮門がある。
この時期の土日祝は公園の広場をプロ野球キャンプの臨時駐車場として使用する為ごたごたしているのだが、今日は平日なのでそのような事はない。そもそもここは探索者以外入れない。
しかし、我ながら固いが仕方ない。それに誰も観てないし、元々記録を残すために配信だからな。ところがだ。
“お?”
“新しい配信始まった”
“おっさんだ。てかスコップおじさんて書いてるじゃん”
意外にも観に来てくれる人がいた。と言っても3人だけだが。
「あ、ども。初めまして、スコップおじさんこと中村浩士です」
ドローンの前でお辞儀をする。
“腰低っ”
“こんちゃーっす”
“どこからどう見ても土木作業員で草”
「いやあ、表層ならこれで充分と講習で習ったもので」
“なるほど理解した”
“けど武器がスコップて”
「スキルが『円匙』だったもので。けど普通に持って出歩けるから剣とかよりは利便性高いと思いますよ」
恐らくこれが一番の利点だと思う。
“ところで『えんぴ』てなんぞ? あと漢字でどう書くん?”
“スコップ。漢字で書くと『円匙』だな。馬鹿にできんぞスコップ。大戦時とかで普通に武器として使用してたからな。穴掘って即席の塹壕作ったりも出来るし、何より万能性が高い。突いたり叩いたり防いだり色々出来るからな”
“おー”
1人詳しい人がいるな。
「とりあえず、来てくれてありがとうございます。今日が初配信なので何卒ご指導ご鞭撻の程を」
“任せロリ!”
“ロリじゃなくておっさんだけどな”
“土木作業員に擬態しているスコップおじさん”
擬態て。
***
さて、同接3人とは言え視聴者には変わりない。魔物が出るまでは歩きながらの雑談だ。探索者になった経緯を話す。
「まあそんな理由で探索者になりまして」
“おっさん……辛い思いしてたんやなぁ”
“中村、お前は泣いていい”
“応援しとるでぇ”
めっちゃ同情された。
「それにしても光源も無いのに明るいですよね。なんでですかね?」
“さあ”
“色々推測はされてるけど……聞く?”
「是非に」
何故か興味湧くんだよね。
“なんでも壁……ここでは洞窟だから岩壁なんだけど、魔素を含んでいて、それで淡く照らしてるとかどうとか。けど実証しようがないんだよな、どういう訳か壁壊せないし”
これは本当に謎なのだが、岩壁に限らずフィールド型の土なんかも掘ることは出来ないらしい。何より迷宮内においては火薬類が全く反応しない。これが迷宮に突入した軍が壊滅した理由の1つ。
あと電気系も消耗が激しいのだが、何故か魔石……魔素を動力とした機器類は迷宮内でも普通に動く。これも謎だ。
というか、魔素というエネルギーを転用する事を提唱し、実現させた泡手愛莉って人は何者なんだろうか?
「……お?」
“出たな”
“跳ねてるな”
“スライムか”
漸くのお出ましだ。
スライム……といっても種類が多い。強さもピンキリだ。表層に出るのはホッピングスライムと呼ばれている。同じ色のやつを4体くっつけたら消えそうな見た目だが、勿論そんな事はない。というかくっつかない。あと目がない。当然弱い。最弱である。
因みに強いのだと身体が強酸で出来てて取り込んだものを溶かしてしまうアシッドスライムやスライムなのに矢鱈と固いメタルイーターなんてのもいる。
閑話休題。
「さて、初戦闘といきますか」
“がんばえー”
“死にはしないだろうけど気をつけてなー”
“アイツの攻撃は体当たりだ。当たると痛いぞ”
「ご忠告感謝します。では!」
スコップを構える。
スライムは跳ねながら近づき、そのまま突進してくる。それをスコップでガード。そのまま跳ね返ってしまうスライム。
……うーん、あまり衝撃とかないような。上手くガードしたから、にしてはやはり軽すぎるというかなんというか。
再び跳ねながら突進してくるスライム。これしか攻撃手段ないのか? だったらタイミング合わせてカウンターで。
「おりゃ」
剣先で叩きつける。そのまま壁にぶち当たり弾け、黒い霧となって消滅する。そこにあるのは小指の爪程の半透明な石、魔石と。
「なんだこれ?」
ぷにぷにした丸い物体。
“スライムゼリーだ”
“それ食えるぞ”
“普通に美味いらしい。買取額はたかが知れてるから誰も売らないで保存食にするそうだ”
「成る程」
尚、このスライムゼリー、だいたい5匹に1匹は落とすらしい。さして珍しいものでもないし、保存食としてとっとくのも当然だろう。
「折角なので食べてみましょう」
スライムゼリーを手にとる。薄い膜かなにかに覆われている。それを破って齧り付く。
「……ソーダ味ですね」
“色によって味違うよ”
“オレンジ味とかイチゴ味とか”
“黄色いのはパインなのかレモンなのか解らんな”
今回のは青かったからソーダ味だったのか。
まあ割とあっさりと初勝利を迎えるのだった。