軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

薬師ココ、犬を拾う(※Web版)④

「トビー!」

突然若い男性の大声が聞こえてきた。

オスカーがピクリと耳を立てて周囲を見回し、「わんわん!」と嬉しそうにほえる。

その視線の先を見ると、そこには茶色いコートにフードを被った大柄な男性が立っていた。

オスカーが夢中で男性の元へと駆け寄った。

「トビー! お前無事だったんだな!」

「わんわん!」

ぴょんぴょん跳ねて喜ぶオスカー。

(あれは、誰……?)

クロエはベンチから立ち上がると、男性をながめた。

オスカーが千切れんばかりに尻尾を振りながら飛びつく様子を見て、もしかして、あの男性が本当の飼い主なのではないかと思い当る。

(……そっか、あの人が飼い主なのね……)

クロエの目に涙が浮かんだ。

飼い主が見つかって良かったねという思いと同時に、お別れしなきゃいけない寂しさがこみ上げてくる。

(……でも、まあ、仕方ないわよね)

きっとオスカーも、元の飼い主のところに戻った方が幸せよ。

クロエは自分にそう言い聞かせると、懸命に涙を引っ込めて、再会を楽しむ一人と一匹に歩み寄った。

「こんにちは、この犬の飼い主さんですか」

「ええ、そうです」

と顔を隠すようにフードを引っ張りながら、青年が答える。

彼の話によると、彼は冒険者で、この街に来てすぐに体調を崩してしまい、今朝になってようやく動けるようになったため、あちこちを探し回っていたらしい。

「こいつのこと面倒見てくれて、マジでありがとうございました」

青年が犬に飛びつかれながら嬉しそうにお礼を言う。

クロエは「いえいえ」と言いながら顔を伏せた。感じたことのない複雑な感情に心が揺れる。

そして、居たたまれなくなり「僕はこれで」と踵を返して帰ろうとした、そのとき。

オスカーが、青年の着ていたコートを思い切り引っ張った。

フードが落ちて青年の顔があらわになる。

「あれ?」

クロエは目を見開いた。顔の半分が紫色になっている。

男性が慌てて手で顔を覆い、しどろもどろに言い訳を始めた。

「こ、これは、もう症状がないんで、歩き回れるようになったからで、人気のない場所を選んで通ってきているし……」

この人何を言っているのかしらと思いながら、クロエが口を開いた。

「その紫、オスカー……、じゃなくて、この犬と同じ症状ですね」

「え?」

「二人で毒草でも食べたんですかね。もしかして薬がないんですか?」

「え、あ、ああ」

クロエは、鞄の中から念のため持ち歩いていた解毒薬を取り出した。

「これ薬です」

「……薬」

「犬の三倍量飲めば足りると思うんで、1回につきスプーン1杯飲んで下さい」

ポカンとした顔で突っ立っている青年に小瓶を押し付けると、クロエはお辞儀をした。

尻尾を嬉しそうに振るオスカーの頭を「元気でね」と撫でる。

そして、「やっぱり身軽が一番よ」と目を潤ませてつぶやきながら早足で街へと戻っていった。

その日の深夜。

冒険者ギルドでは何度目かになる緊急会議が開かれていた。

病気の原因はまだ掴めておらず、日に日に増える病人を目の前に、冒険者ギルドは地下洞窟の全面封鎖寸前まで追い詰められていた。

本部ギルドから来た男性が焦りの色を浮かべながら医師たちに尋ねた。

「原因はまだ分からないのですか」

「残念ながら」

「薬の方はどうなのですか」

サイファの冒険者ギルド長の問いに、王都から来た女性薬師が首を横に振った。

「症状を若干軽くする薬は見つかりましたが、特効薬と呼ぶには程遠い状況です」

白衣を着た看護師がイライラしたように口を開いた。

「そもそも患者のマナーが悪すぎる。少し良くなったらすぐに外に出ようとする。今日なんぞ勝手に外出した冒険者が、こともあろうに犬を連れて戻ってきました」

「なんと。治らないのはそうしたことも関係しているのではないか」

会議の場が紛糾しそうになり、サイファの冒険者ギルド長が声を上げた。

「とにかく、今は我々に出来ることをするしかない。明日会長がお見えになる。その時に決断できるだけの資料を整えるぞ」

参加者たちは、重々しくうなずくと、仕事へと戻っていった。

翌日の午後。

雲一つない青空が広がる晴天の下、クロエは薬を買いにきた母親と幼い娘を見送っていた。

「薬屋さん、ばいばい!」

「うん、バイバイ、お大事に」

クロエも手を振って2人を見送る。

そして、その後姿が見えなくなると、彼女は、ふうと息を吐いた。

「なんだか気が抜けちゃったわね……」

思い出すのは昨日別れたオスカーと名付けた犬のことだ。

2週間しかいなかったのに、いなくなると何かが足りないような気持ちになる。

(……でも、なんか色々と分かったかもしれないわ)

学園時代、クラスメイトたちにどんな魔道具が欲しいか尋ねたところ、意外と多かったのがペットの犬や猫に関する魔道具であった。

言われたときは何となくピンとこなかったのだが、実際犬と暮らしてみてよく分かった。

彼らにとってペットは家族なのだ。

(今まではペットのための魔道具開発なんて考えてこなかったけど、ちょっと考えてみようかしら)

そんなことを考えながら、クロエは立ち上がった。

こういう気分が落ち込んでいる時は、古代魔道具の分析に打ち込むのが一番だ。

冒険者ギルドに行って、新しい魔道具を借りてこよう。

彼女は店を閉めると冒険者ギルドに向かった。

商店街を通り抜けて冒険者ギルドの建物に入りると、何となくいつもと雰囲気が違う。

人が妙に多いし、空気がピリピリしている。

(なにかしら?)

そして、受付カウンターに行き、魔道具を貸して欲しいと受付嬢に言おうとした、そのとき。

バン!

突然、奥のドアが開いた。

職員が慌てた様子で出てくると、クロエを見つけて走り寄ってきた。

「ココさん! 丁度良かった! 来てください!」