軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

02.ティールームでの語らい

「聞いているだけで気絶しそうだわ。クロエは大冒険をしてきたのね」

「そうね、本当に色々あったわ」

クロエがオスカーに抱えられて、ソリディド公爵家に到着した二日後。

彼女は、午後の明るい陽射しが差し込む薔薇の花が飾られたティールームで、

コンスタンスとお菓子をつまみながらお茶をしていた。

話題は、サイファからここまでの旅のこと。

怪しい黒ローブの男たちに襲われたクロエが、オスカーに連れられてサイファを出た後、

彼は隣の街に馬を進めた。

「もっと移動したいところだが、夜道は危ない、馬も疲れている」

「どこに行くんですか」

「ブライト王国に戻ろう。この国にいては、いざというとき君を守れない」

隣の街の宿で眠れぬ数時間を過ごし、馬を新しくして、夜明け前に出発。

途中の街で服を替え、道を変え、移動すること四日。

国境を越え、ソリディド公爵家の屋敷に到着した、という次第だ。

ちなみに、寝不足続きだったクロエは、三日目の夜に疲労と発熱でダウン。

四日目は、ほぼオスカーの膝の上に抱えられているか、運ばれているかどちらかという状態だった。

最後の方は、飲み物まで飲ませてもらっていた気がする。

「すみません」と謝るクロエに、

「気にしなくていい」「俺がいるから大丈夫だ」と励ましてくれた彼には感謝しかない。

これらの話を聞いて、「とにかく無事に帰ってこれて良かったわ」と安堵の表情を浮かべるコンスタンス。

「それで、クロエはこれからずっと王都にいるつもりなの?」

「そのつもりはないわ。黒ローブの男たちの事件が解決したら、サイファの街に戻ろうと思っているわ」

薬屋の就業期間は二年。

今回助けてくれた街のみんなのためにも、早く戻って薬屋を再開して、最後までちゃんと働きたい。

「そうなのね」とコンスタンスが残念そうな顔をする。

「でも、しばらくはこっちにいるってことよね」

「ええ、そうなると思うわ」

(あとは、せっかく王都に戻って来たのだもの。オスカー様に頼まれた毒の分析の仕事もきちんと終わらせたいわ)

その後、お茶を何度か替えながら近況報告し合う二人。

コンスタンスが、ここ一年の状況を話してくれた。

「クロエのお陰で、ナロウ殿下と円満に婚約を解消できたんだけど、ものすごく騒がれて、半年くらい大変だったわ」

その後、領地に戻って半年ほどのんびり過ごし、少し前に王都に戻って来たらしい。

「今は親戚の子の家庭教師をしていてね。社交界にも少しずつ復帰しているわ」

コンスタンスの元気そうな様子に、よかったわ、と思うクロエ。ふと思い出して尋ねた。

「そういえば、サイファで見た新聞に、国王陛下のお加減が悪いと書いてあったけど、今も良くないの?」

コンスタンスが声を潜めた。

「先月お見舞いに行ったお父様の話だと、

意識が混濁している状態で、ほとんど話せなかったらしいわ」

「そうなのね。魔道具師が行方不明になっている件は?」

「見つかってないと思うわ。影も形もないという話よ」

そうなのね、とつぶやくクロエ。

行方不明になった人たちは、尊敬できる魔道具師ばかりだった。

(無事だといいけど)

その後、この一年間に起きた、あれやこれやについて、お菓子をつまみながら談笑する二人。

先生や元同級生の結婚話など、話題が尽きない。

そして、窓から差す西日がまぶしく感じられるようになったころ。

ノックの音と共に、初老の執事が入ってきた。

「コンスタンス様、オスカー様がお帰りです」

「あら、ずいぶん早かったのね」

二人がティールームを出て、エントランスに向かうと、そこにはオスカーが立っていた。

「お帰りなさい、お兄様」

「おかえりなさい、オスカー様」

「ああ、ただいま」

嬉しそうに微笑むオスカーが、持っていた箱を二人に差し出した。

「これは?」

「おみやげだ。街に寄って買ってきた」

コンスタンスが思わずといった風に吹き出した。

「まあ、お兄様、あなた、街に寄っておみやげなんて買ってくる方でしたっけ」

「……たまにはな」

「ええ、わかりましたわ。そういうことにしておきましょう」

箱を手に、「ティールームでお待ちしておりますわ」と歩き出すコンスタンス。

クロエが、その後に付いて行こうとすると、オスカーが呼び止めた。

「少しいいか」

「はい。なんでしょう」

「この家はどうだ、快適に過ごせているか」

「ありがとうございます、とても良くして頂いています」

「そうか」とオスカーがホッとしたような顔をする。そして、声を潜めた。

「例の毒の件だが、セドリックが君の分析結果に基づいて調査を開始するそうだ。君にお礼を言ってくれと言われた」

そうですか、と俯くクロエ。

そして、少し考えた後、オスカーを見上げた。

「あの、一つお願いがあります」

「なんだ?」

「わたし、王宮に行きたいです」

「……は?」

クロエの突然の申し出に、驚いた顔をするオスカー。

「……それはなぜだ」

「水分を直接調べさせて欲しいんです。現地じゃなきゃ分からないこともあると思いますし、乗り掛かった舟ですし」

(やっぱり、引き受けた分析は、ちゃんと終わらせるのが筋だと思うのよね)

「せっかく王都に来たし、最後までちゃんと調べたい」と研究者らしい発言をするクロエに、「君は追われる身なんだが」と苦笑するオスカー。

軽くため息をついたあと、渋々うなずいた。

「分かった。こちらとしても助かる。安全対策を含めてセドリックに相談しよう」

そして、この数日後。

クロエは、遠縁の貴族令息に変装して、オスカーと共に王宮に調査に行くことになった。