軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

今なら安くしておくわよ

「てめえみたいな奴はクビだぁ!」

俺、竜牙景虎は飛んだ。勢いよく蹴りを入れられ、会社の一階玄関から勢いよくぶっ飛んだ。

「うわあー!?」

しかも小さいけど階段から転げ落ちる始末。

「二度とうちの会社にぃ、その汚ねえツラ見せんじゃねえぞ。ペッ!」

唾まで吐き捨てたチョイ悪オヤジ。ついさっきまで俺が所属していた探索者ライバー事務所の社長だ。

階段を転げ落ちて苦しいけど、このままでいるのも惨めだったので、腹を抑えながらトボトボと歩き出す。

目的地はない。いきなりクビにされちゃって、俺ってばどうすればいいの? という絶望的な疑問しか浮かばない。

一体どうしてこうなったのか。とりあえずは、これまでの経緯を語るところから始めなきゃいけない。

俺は今二十二歳で、地方のあまり有名とはいえない大学をなんとか卒業し、今年の四月からライバー事務所で働き始めた。そして、今年の四月にクビになった。

仕事内容は、ずばりダンジョン配信をすること。でも俺は未経験だったけど、どうにか就職させてもらえることになったわけで。

いやー両親からは反対されまくったね。公務員をしてる兄からも怒られた。

ダンジョン配信っていうのは、今世界中で大ブームになってる。十五年くらい前にアメリカに現れて以来、ポツポツと世界中に出現するようになったダンジョンは、日本にも当然のように現れた。

んで、そのダンジョンを攻略する動画配信が、世界中で大流行りしているんだ。

ただ、両親のような上の世代や、兄のような堅実派からすれば、今だけの商売であって安定性、将来性が全然ないと思われている。

両親や兄の指摘は正しいかもしれないけれど、俺はわりかしミーハーなので、流行っているものに手を出すのは別に間違いじゃない気がした。

だから反対を押し切って就職したのに、一ヶ月もかからずしてクビになるなんて。

最初は先輩配信者の荷物持ちからだった。特に文句は言われなかったていうか、やるべきことはやっていたつもりなんだけどなぁ。

入社して一週間が過ぎた頃だった。ダンジョン配信の手伝いが終わり、事務所に戻ると社長がいた。俺を見るなり睨みつけてくる。

「お前、一週間も経つのに全然パッとしねえな。もう少し派手なことができんのか。今度ソロで深層に潜ってみろ」

「え!? いや、無理っすよ。一人で深層なんて」

「レベル4だっけ? まったく華がねえなぁ。じゃあ事務所の仕事やれや。これ、今日中にデータまとめておけ」

「うわ!」

ドン! と机には山のような紙が置かれる。今どきデジタルじゃないのかよ、なんて文句はとても言えないので、残業しまくってどうにかこなす。

そんな毎日が続いたけれど、俺としては頑張っていたつもりだ。社長からはとにかく無茶振りの嵐。でも耐えよう、頑張ろうとしていた矢先のことだった。

「おいお前。女ライバーにセクハラしたんだってな」

「え!? してません。なんですか急に」

「いいや! お前はしてんだよ。うちのアイがよ、お前がやらしい目で配信中でも外でも見てくるから、不快で堪らなかったと言ってんだぞ。どういうつもりだ、あ?」

「は!? いやいや、そんなことしてませんよ」

アイというのは、この事務所の稼ぎ頭だ。女ライバーとしてはかなりの実績を持っているらしく、他の事務所から移ってきた時は女王様待遇だった。

俺は誓って、そういう風にジロジロと見たことはない。まあ百歩譲ってもし見ていたとしても、それでセクハラになるんだろうか?

そういうことを必死に説明したけれど、社長は聞く耳を持たなかった。

しかしこの社長も不思議で、何もアンタが出てこなくてよくね? という場面でもガンガン出てくるので、社員としてはやりづらい限り。

そんな毎日を続けた末にクビになった。

以上、悲惨な回想はここで終わり。

「これからどうすりゃいいんだ」

俺、やっぱなんか悪いことしてたのかなぁ。自分を鑑みながら家に帰ろうとしていたんだけど、考え事に夢中になり過ぎて、いつもとは違う道を歩いていた。

「あれ? ここ……どこだっけ」

気づけば全然知らない通りに立っている。大通りから一歩入った小さなビルだらけの道を、暇になった俺は適当に歩いていた。

「ん?」

すると、本屋とケーキ屋に挟まれるようにして、小さなダンジョンショップがあることに気づく。

ダンジョンショップっていうのは、ダンジョン探索用のグッズを一通り購入できる店のことで、最近では街中にちらほら出店してる。

俺が見つけたダンジョンショップは、【別世界】とかいうよく分からない名前をしていて、外観はお城みたいになっている。

窓から配信用ドローンとか。配信用装備とかが展示されているから、どうにかダンジョンショップだと分かった。

変わった趣味だなぁと思いつつ、興味を持ったので中に入ってみることにした。

タッチ式の自動ドアから入った先には、まるで駄菓子屋みたいな雰囲気が広がっていた。

でも、並んでいるのは飴でもお菓子でもなく、剣や盾や配信機材という物々しさが漂っている。

実のところ俺は、入社するまではダンジョン配信を観たこともあんまないし、まして自分で探索なんてしてこなかった。

でも面白そうだなって感じて、頑張っていくぞという矢先にクビになった。だから今ではこういう武器とか防具が、なんとなく悲しく映ってしまう。

「はあ……」

思わずため息が出る。もう辛くなってきたし、何も買わないで帰ろうかな。そう考えていた時だった。

「ん?」

店の一番奥にひっそりと飾られていた、ダンジョン配信用のゴーグルが光っている。

不思議に思って手に取ると、思いのほかゴーグル部分が薄く、なぜかゴーグルの上に額当てのようなものまである。

「これで動画配信ができちゃう感じか」

最近の配信技術はめちゃくちゃ進んでいて、そんな薄っぺらいもので配信なんてできるの? という物が普通にある。

「あら、珍しいこともあるわね」

声をかけられて振り向くと、エプロンをつけたおばあちゃんが、ニコニコ笑っていた。

「そのゴーグルが光るなんて」

「え? は、はあ」

「今なら安くしておくわよ。せっかくだから買っておかない?」

「え、あー……」

人は見かけに寄らないもので、おばあちゃんの仕事トークはまさにベテラン。俺がダンジョン探索配信に興味があることを知るや否や、あらゆるメリットを語りまくってきた。

しかもこちらの話にも上手い具合に関心を持って見せ、煽てることも上手いし聞き上手でもあった。

いつの間にかやる気に満ち溢れてしまった俺は、わりかしお高い値段でこのゴーグルを購入してしまったのである。

ああ、なんてチョロいの俺。

家に帰ってから我に帰り、自分が悲しくなってきたが、このゴーグルは不思議と捨てる気になれなかった。

「ちょっとだけ試してみるかな」

中古で売りに出そうかと思ったけれど、せっかくなので一度起動してみることにした。