軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第08話 ちっちゃくなっちゃった!!

アークが風を切って走る。

「速いねぇ!!」

「この程度喜ぶなど、人間は安直だな」

こんなスピードは前世でも今世でも今まで感じたことのない。山も谷も森も川も一瞬で通り過ぎていく。

奈落の傍にあった森は遥か後方でもう見えない。

前世の記憶が戻ってから初めて異世界の人ともすれ違ったけど、その人はアークが速すぎて認識できなかった。

ドップラー効果みたいにその人の声が遠のいて、アークによって引き起こされた突風に転びそうになっていた姿が少し面白かった

「この先にある街より西にはしばらく街はなさそうだぞ」

「なんで分かるの?」

「人間の匂いがしない」

「へぇ~、そんな遠くまで分かるんだ。じゃあ、その街に行こう」

前世では、犬は人間の千倍から一億倍嗅覚が優れているって言われてた。

アークはとりわけ鋭敏なのかもね。

「街が見えてきたぞ」

「あっ、ホントだ」

しばらくすると、遠くに街が見えてくる。

「おい、そろそろ止まるぞ」

「なんで?」

言ってる意味が分からない。このままずっと街まで行くんじゃないの?

「騒ぎになってもいいならこのまま行くがな」

「あぁ~、待って。ストップストップ、止まって」

少し揶揄うように言われて、ようやくアークの言いたいことに気付いた。

うっかりしてた。

私のとっては可愛い相棒だけど、アークはどう見ても凶悪なモンスターにしか見えないよね。

このまま行ったら確実に騒ぎになる。それどころか、警備兵とアークが戦いになっちゃう。

それはダメ。

アークが止まって伏せた後、私も地面に降りる。

幸い近くに人の姿はない。アークも匂いで分かってたからこんなに目立つ場所を堂々と走っていたんだろうね。

「でも、どうするの? 私一人で行く?」

一応この世界の最低限の知識は持っていると思う。街で買い物したり、冒険者ギルドに登録するくらいはできるはず。

「いや、そんな必要はない。我が小さくなってやろう」

「え、そんなことできるの!?」

「うむ。我ほどの存在であれば、体の大きさを変えるなど容易いのだ。人間とは違ってな」

「へぇ~、流石だね!!」

確かに体を小さくできるなら騒ぎにはならないかも。テイマーというスキルを授かる人もいるし、従魔ということにすれば問題ないはず。

「そうだろう、そうだろう」

「それじゃあ、早速やってみて」

「ふむ。そこまで言うのなら仕方ない。見せてやろう」

――ボフンッ

アークが突然煙に包まれた。

「え、なにそれ可愛ぃいいっ!!」

「にゃ、にゃにをするのだ!!」

煙が晴れて姿を現したのは、めちゃくちゃ小さな子犬サイズのアーク。

クリッと大きな瞳であどけない顔が愛らしくて、思わず抱き上げてしまった。

頬ずりしてしまうほど可愛い。このまま抱っこして街に入ろう。

「うりうりうりっ」

「こら、止めろ、離すのだ、この!!」

「あっ!!」

小さなアークのお腹に顔を押し付けてぐりぐりしていたら、私の腕の外に飛び出してしまった。

アークがまた煙に包まれる。

そして、次に姿を現したのは普通の狼モンスターくらいの大きさのアークだった。

体高が百センチくらいあるけど、普段のアークに比べれば、威圧感がない。このくらいならどうにかなりそうな気がする。

「協力してやってるのだから感謝しろ」

「はーい……」

小さなアークは可愛かったんだけど、本人が嫌がってるのなら強要できない。

私は狼サイズのアークを連れて歩く。

「あれが異世界の街……」

しばらく歩いていくと、堅牢な城壁に覆われた街が見えてくる。

街なんてほとんど初めて見るようなものだから、その威容に感動してしまう。

「少し並んでるね」

「わふっ」

入り口に少し列ができている。

普通にアークに話しかけたら、狼の鳴き声で返ってきた。

あ、そうか。狼は喋らないもんね。

『こんな風には話せるがな』

『え、なにこれ?』

突然、頭の中にアークの声が聞こえてきて、ついアークの方を見てしまう。

『念話だ。主従契約をすると可能になる。思念で会話できるぞ』

『もしかして考えたこと全部筒抜け?』

『安心しろ。きちんと伝えようと思ったことしか伝わらん』

『そっか。よかったぁ』

『お前は一体普段何を考えてるんだ?』

『秘密~』

アークと念話で会話をしながら順番を待つ。

アークを見ても誰も騒がないところを見ると、上手くいってるのかな。

「次の方」

「はい」

門番に呼ばれて前に進む。

「身分証を提示してもらえますか?」

「すみません、実は田舎の村から出てきたばかりで身分証を持ってなくて……」

身分証のことをすっかり忘れてた。

ひとまず病院のベットの上で読んでいたウェブ小説の知識を活かして取り繕う。

『よくそんな嘘が出てくるな』

『ちょっと静かにして』

アークが面白がって茶々を入れてくる。

「そうでしたか。その場合は入街税が銀貨一枚掛かりますが、今払えますか?」

「そうですね。硬貨は持ってなくて……でも、資金になればと薬草を採ってきたので、換金させてもらえれば、払えると思います」

私は薬草が入ったカゴを見せる。

「分かりました。一旦立て替えておきますね」

「いいんですか?」

そんなに簡単に立て替えたりしたら、入り放題だと思うんだけど。

「はい、これでも人を見る目はある方なんです。街に滞在している内に払いに来てくださいね。ちなみに冒険者ギルドに登録して身分証を作れば、次回以降の入街税は掛からないので登録されることをお勧めします。それと、併せてブラックウルフの従魔登録をしてください」

「分かりました。親切に教えていただいてありがとうございます」

「いえいえ、これも門番の務めですから。それでは改めまして、バンドールへようこそ」

私たちは爽やかに対応したくれた門番さんに見送られながら、門を潜り抜けた。