軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第73話 異変

時折、行き交う人たちとすれ違いながら、南の街を目指して歩く。

長い間ダンジョンの中に居たから外の空気が気持ちいい。

「あぁ~、海楽しみだなぁ。実物はどんなんなんだろう。アークは見たことある?」

しばらく経った頃、私は海に想いを馳せていた。

YoTTube(ヨッチューブ) で世界中の美しい海の映像を見たことはあるけど、前世では最後まで実際に見ることはできなかった。

これから見られると思うと、まだ少し先の事なのに心が弾む。

「海など飽きる程見たわ。あんな塩辛いだけの水溜まりの何がいいのか分からん」

「いいじゃん。大自然の神秘って感じで。見たことないから見てみたいんだよね」

水溜まりや湖とかはなんとなく想像できるけど、水だけが覆いつくす光景があるなんて意味が分からない。

いったいどうやったら、そんなものができるんだろう。

「まぁ、魚は美味いからな。行くのはやぶさかではない」

「魚料理かぁ。あんまり食べたことないから私も楽しみ」

アークが魚を思い浮かべているのか顔がにやけている。

私は魚もあまり食べたことがない。病院食で出ていたものばかりだ。

YoTTubeには美味しそうな料理が沢山あった。死ぬ前に食べたかったなぁ……。

それはそれとして、この世界ではどんな料理があるのか期待が高まる。今までは内陸にいたせいか、魚料理がなかった。アークが楽しみにしているところをみると、美味しいに違いない。

「むっ?」

アークが立ち止まって辺りを見回す。

「どうかした?」

「いや、人の匂いがしたと思ったが、すぐに消えた」

「私たちと同じような旅人じゃない?」

これまで何人か商人や冒険者らしき人たちとすれ違っている。

彼らと同じだと考えるのが自然だと思う。

「……そうだな。気のせいかもしれん」

何か気になる様子のアーク。

私もアークも大概の攻撃は効かない。それを考えれば、危害が及ぶ可能性は限りなく低い。

気にしなくてもいい気がするけど、鼻が利きすぎるのも考えものだね。

「そうだよ。それよりも海にはどんな魚がいるの?」

「ふむ。よかろう。我が講義してやる。例えば――」

話題を変えると、アークはそれ以上気にするのをやめて朗々と語り始めた。

「ん?」

「どうした?」

「なんだか背中が温かいような気がして……」

背中にはダンジョンで手に入れた幻獣の卵が入っているリュックを背負っている。

リュックを下ろして中を確認してみると、卵が熱を持ち始めていた。

「大丈夫かな?」

「問題なかろう。我も幻獣の卵が孵る瞬間に立ち会ったことがあるが、大体同じような反応を見せている」

「そうなんだ。もうすぐ会えるんだね」

卵を優しく撫でると、それに応えるように鼓動が手に伝わってくる。

早く会いたいな。元気に生まれてきてね。

私は再びリュックを背負って歩き始めた。

「今日はこの辺りで野営しようか」

「うむ。我は狩りに行ってくる」

「いってらっしゃい」

日が傾いてきたので、これ以上進むのをやめて、野営の準備をする。

物資を届けた村で受け取ったアイテムや、空鳴からもらったアイテムによって、私の旅はものすごく快適になっている。

いつでもトイレやお風呂に入れるし、夜でも灯りを付けられるし、テントも簡単に建てられるし、綺麗な水も手に入る。

後は、何もしなくていい車みたいな移動手段や生活の全てが行える持ち運び可能な拠点、もっと高品質の調理や調合の道具、それに時間停止機能がついている容量が大きなマジックバッグなんかがあれば、もっと快適になりそう。

いつか手に入れたいな。

テントを建て、かまどを二つ作って火を起こす。

「戻ったぞ」

「あっ、お帰り。なにそれ」

準備が終えたところでアークが戻ってくる。

元の姿に戻ったアークのその口には、巨大な牛型モンスターが咥えられていた。

「大丈夫なの?」

アークの姿を見られれば、騒ぎになりかねない。

「ふんっ、周りに人間はおらん。問題ない。今日はこれで料理を作れ」

「あぁ、そういう約束だったね。任せて。捌くのはやってくれるんでしょ?」

「うむ」

人がいないなら問題ないか。

そういえば、少し前にアークが満足するまで作るという約束をしていた手料理。

早速その約束を果たす時がきたらしい。

高級ホテルや街を散策した時に食べた料理、それに、ホテルの人に聞き込みをしたり、実際に食材を食べたりしたことで、私の料理の知識はさらに向上している。

まず片方のかまどではお湯を沸かしておき、アークが捌いた肉を、もう片方のかまどで熱した平鍋に投入。

――ジューッ

食欲を掻き立てる音が周囲に響き渡った。

アークの口元から涎が垂れそうになっている。食いしん坊なところも可愛い。

強火のまま一気に表面を焼いて旨味を閉じ込め、刻んだ香草と塩を混ぜた香草塩を振りかけて、ステーキを焼き上げる。

香草塩を加えた瞬間、一気に香りが広がった。

ショウガやネギに似た臭みを消す食材や、峠の薬草の楽園で採った香草やごぼうのような根菜、それに焼き目を付けた肉を鍋に一緒に放り込んでなんちゃって薬膳スープを作った。

「美味い!! はっ、いや、なんでもない……」

「えぇ~? 素直に褒めてくれてもいいんだよ?」

一度吐いた言葉は取り消すことはできない。

思わず口を突いて出たという感じのアークを揶揄う。

「ふんっ、少し言い間違えただけだ。まぁ食えなくもないな」

アークは表情を取り繕ってすました態度で答える。

「まったく素直じゃないんだから」

「いいからお代わりをよこせ」

「はいはい」

それから私は、アークが満足するまで料理を提供し続けた。

食事を終えた後、空鳴からもらったマジックバスルームでお風呂に入って精神的な疲れを取り、寝ようと思ってテントの中に入って横になる。

でもその瞬間、リュックから強い波動が放たれた。

「うわっ」

「何事だ?」

私が驚くと、アークが入り口から頭を突っ込んでくる。

リュックから卵を取り出すと、強い光を放っていた。

「卵がまたおかしなことになってるんだよね」

「これは凄まじい魔力だ……生まれるのがかなり近いようだな」

「そうなの?」

思った以上に生まれるのが早そう。ワクワクした気持ちになる。

「うむっ。ただ、気を付けろ。これだけ魔力が放出されてれば、察知スキルを持っている者は気づく。何か貴重な物だと思われて狙われるかもしれんぞ」

「分かった。できるだけ気を付けるよ」

ただ、浮かれてばかりもいられないみたい。できるだけ肌身離さずに持っているように心がけようと思う。

私は卵を抱きしめて一緒に眠りについた。